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第39話「憂鬱の理由②」

 ミサキは驚きを隠せない。

 もちろんミサキに悪気はなかった。


 それでもミサキはライムの気も知らず、先程の痛烈な言葉を並べたことを、ひどく後悔した。



「ご、ごめん。ライム……私、知らなかったから……その──」



 もう言い訳もライムには通用しない。



「いいんだ。それが本心なんだから。それを踏まえて考えて欲しい……


 そのキリシマのペアといっしょに……旅をできるかい?


 下手したらミサキも、その大犯罪者の一味になるかもしれないよ?」



 正直者のライムに、隠し事はできなかった。


 それに、隠しててもいずれミサキにバレる……

 後々ショックを受ける前に、ライムははっきりとさせたかったのだ。


 この島での生活は、キリシマと心中しなければならない。ライムの決意は固かった。


 内心ライムも諦めている。

 ミサキに拒絶され、ここで別れるだろう……

 そう思っていた。


 しかし、ミサキはライムの思っていた以上に、良き理解者だった。



「さっきのは謝らなきゃいけないけど……そんなの関係ないよ。ライム」



 思わぬ言葉がミサキから返り、ライムは聞き直す。



「えっ……? 関係ないって……」



 曇った顔をしたライムの気を晴らすような、優しい笑顔でミサキが言った。



「だって……



 ライムはライムだもん」



「俺は……俺……」



「そう! 今のライムがそんな悪いことするわけないし……あのキリシマとは完全に別人。ライムは関係ないよ!」



 ライムにはミサキが自分を元気づけようと、励ましてくれているようにしか思えなかった。


 確かに自分の思考回路とは完全に異なる、別人格のキリシマ

 それでも、もう一人の自分であることは事実なのである。

 張本人であるライムには、切り離して考えることなど不可能であった。


 だが、ミサキはナヴィからこの島の事件の真相を聞いている。

 他の者の安っぽい、激励の言葉とは訳が違う。



「私、ナヴィちゃんから事件の話を聞いたからさ……そう思うとゾッとしたの……


 たまたまライムのペアがキリシマだっただけで……もしかしたら、私のペアがキリシマみたいになっている可能性だってあったんだよ?


 もしかしたら、私のペアが解放軍に入っちゃってるかもしれない! そう思うと、ライムを責めることなんてできないよ!!」



 ライムの目には涙が溢れてきていた。


 ミサキの優しさが心に染みた。

 けれども、女の子のまえで泣くわけにはいかないと必死に涙を堪えた。


 ナヴィにはライムのうるうるした目が、ばっちり見えていた。

 けれども茶化すことはせず、ライムの背中をポンと叩いた。



「よかったね。ライム。こんなに素晴らしい理解者はいないよ? 頼もしい仲間が増えたね」



「あぁ……」



 ライムは涙を堪えるので必死だ。

 もっと喜びを全面に出したかったが、涙が溢れそうで、そっと返事をすることしかできなかった。



 こうして、優しい心の持ち主

 ミサキが正式にライム達の仲間として加入した。

 辛いことばかりの旅ではあるが、少しは明るくなりそうだ。




 

 三人は改めて、ひとまずの目的地である

 “時の塔”を目指す。


 ライムが初めて訪れた村、ファブル村では塔はかなり遠くにあるように思えたが、今眺めると、塔にだいぶ近づいてきているのが分かる。



「あと少しだな……“時の塔”まで」



「うん、あともうすぐだよ。次向かうアーサイ村の、ちょっとした先にある」



 辺りはすっかり暗くなっていた。

 街灯すら少ないこの島では、夜になれば辺り一面が闇に包まれてしまう。



「もう見えなくなってきたし、この辺りで寝泊まりしようか」



 ライムはリュックから寝袋を取り出した。

 小さなランプに灯りをつけて、寝る準備を始める。


 男ならまだしも、女のミサキにはこんな野宿の生活は辛いだろう。

 ライムがミサキを心配した。



「大丈夫か、ミサキ。こんな生活ばっかになっちゃうけど……」



「もう慣れたわ。最初は私も戸惑ったけどね……アーサイ村に着いたら、ひとまずシャワーでも浴びたいけど」



 手際よく寝る準備をするミサキにライムは驚く。


 人は強くなるもんだ……

 そうでもなければ、この見知らぬ地では生きてはいけない。



「じゃあ私、疲れたから先寝ちゃうね。おやすみ。ライムにナヴィちゃん」



「おやすみ」



 解放軍・レオナとの激闘を終え、その足で進み、暗くなるまで歩いてきた。


 体が疲れているのも無理はない。

 ミサキは寝袋に潜り込むなり、すぐに眠りについてしまったようだ。



 ライムもそのまま寝るのかと思いきや、灯りを点けたまま、どこか遠くをぼんやりと眺めている。


 ナヴィはボーッとしているライムを、不安そうに見つめていた。



(まただ……またライム、思い詰めたような顔 をして……)



 ライムのこの姿……

 実は今回が初めてのことではない。


 度々、ライムは夜になると、思いふけるようにして遠くを眺めているのだ。

 その背中は妙に寂しく、あまりいいことを考えているようには思えない。


 正直ナヴィは、理解者のミサキの加入により、ライムの憂鬱は軽減されるのではないかと考えていた。


 しかし、現状変わりはない。

 果たして、ライムの心の中にどんな思いがあるのだろうか……?



(ライム……その憂鬱の理由(わけ)は一体何なんだい?


 単なるホームシックによるものなのか、それとも解放軍と戦わなければならない恐怖からなのか……


 ライム……僕は──どうしたらいいんだろう……)






第39話 “憂鬱の理由” 完

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