第38話「憂鬱の理由①」
ミサキがライム達との旅の同行を懇願するも、拒否される。
ミサキは心折れながら、せめてもとばかりにライム達に聞いた。
「もう! ほんと冷たいわね……じゃあこれだけでも教えて!! あなた達を見てると不思議なことばかり……ただ者ではないのは分かるわ……
ねぇ、あなた達、一体何者なの?」
「そ、それは……」
口ごもるナヴィ。
ミサキはライムよりもナヴィに厳しい目を向けた。びしっと指を差す。
「何よりも一番おかしいのはあなたよ!! ナヴィちゃん!!
あなた、神獣じゃ──ないよね?」
慌てるナヴィはゴニョゴニョと答えた。
「ぼ、僕は……その……ウサギの神獣だよ!」
明らかに嘘をついてるのが分かる。
どうやらナヴィは嘘をつくのが下手くそのようだ。
「嘘ばっかり! あなたの存在もそうだけど……どうしてこの島の人達の誰も知らない、謎の塔のことを詳しく知ってるの!?」
まず人ではない、喋るウサギ
その時点でおかしいが、極めつけは謎に包まれているはずの巨大な塔の中を、ナヴィはよく知っている。
疑惑は募る一方だ。
ライムはくすりと笑いながら、ナヴィに言った。
「もう言い逃れできないんじゃないか? ミサキはいい人だし、俺達を助けてくれたし……話してもいいんじゃない?」
「う~ん……あまり他言していい話ではないんだけどな……」
ミサキが両手を合わせ、へこへこと頭をさげる。
「ね、お願い !ナヴィちゃん! 絶対誰にも言わないから! ──ね、いいでしょ?」
ナヴィは深くため息をついた。
これもすべて、自分がミサキの前でベラベラと塔の話してしまったせい……
そう思い、ナヴィは折れて諦めた。
「はぁ~……墓穴ほったな……
分かった。話すよ! 絶対これは他の人に言っちゃだめだからね!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第38話
“憂鬱の理由”
ナヴィはミサキに“時の流れ”の話をした。
この島で起きている、異界人大量発生の事件の真相
止められた“時の軸”
ライムが救世主と呼ばれる意味
すべて洗いざらい説明した。
「この島でそんなことが起こってたなんて……そうだ! 今思えば、私も変な黒い歪みに飲まれてここに来たような……」
ミサキ自身、どうやってこの島にたどり着いたのか忘れていたが、ナヴィの話を聞いたことにより、徐々に記憶を取り戻す。
しかし、難解な話の連続に、ミサキの頭はこんがらがってしまっているようだ。
「それでもごめん、ナヴィちゃん。色々説明してくれたけど、私には難しくて全部は理解できないや……」
共感を得るように、ライムも頷いた。
「そりゃそうだよ。正直、俺もよくは分かってないんだ。理解できないのも無理ないよ」
ミサキは自分なりに理解を示すも、この現実離れした話……信じろというのが無理な話だ。
だが、初対面ならいざ知らず、三人にはすでに苦難を乗り越えた絆がある。
ミサキは決して、ナヴィを疑うことはしなかった。
「分からないことは山ほどあるけど…..…それでもナヴィちゃんが本当のことを話してくれたんだと思ってるよ! ライムもそうだし、二人を私は信じるよ!」
ナヴィはほっと肩をなでおろす。
「そっか~……それならよかった。なるべく人に話すことじゃないからね。僕もミサキに話した甲斐があるよ!」
ミサキがこの島に起こる事件を知った今、完全に風向きは変わった。
ナヴィがニヤリと、少し悪い顔を見せる。
「さっきは断ったけど……
まるで事情は変わった!! 真実を知ってしまった以上、ミサキはもう逃げられないよ!
ミサキは救世主のライムを守るために、いっしょに戦ってほしい!
キミの神力・シールドは、とても頼りになるからね」
ミサキは満面の笑みで、ナヴィの期待に応えてみせた。
「もちろん! 私もそのつもりだったしね! 私がライム達の手助けをするよ! よろしくね、ライムにナヴィちゃん」
ライムにとっては心強い、ミサキが仲間になった。
先程はライムも冷たく接したが、本心はミサキといっしょに旅をすることを望んでいた。
そのはずなのだが………
「ライム……?」
どうもライムの顔が浮かない。
ミサキの加入に喜ぶかと思われたが、うつむいて顔を強張らせている。
ライムには、どうしてもはっきりさせなければならないことがあったのだ。
「俺も嬉しいんだけどさ……ミサキが仲間になるからこそ、はっきりさせなきゃならないことがある……隠し事はよくないし……」
ナヴィは嫌な予感がした。
(まさか……ライム……)
そのナヴィの嫌な予感は的中する。
しかめっ面の表情で、ライムはミサキに尋ねた。
「なぁ、ミサキ……
解放軍のトップ “キリシマ”
この男をどう思う? ヒザン村を崩壊させたのは解放軍だ。元凶はこの男にある……」
ライムの真意が読めないミサキは、正直にありのままに答えた。
「キリシマ……もちろん許せないわよ! 村の人達から聞いたわ。あの男が来るまでは、この島も平和だったみたい。
異界人と、この島の住民は仲良く暮らしてた。それなのに、あいつが“ペア”の存在を語り、解放軍を作り上げた……
そこからこの島はめちゃくちゃになった!! 許せないわ! 私はキリシマを!!」
ライムに重責がのし掛かる。
似た考えをもつミサキに辛辣に言われ、ライムは言葉に現すことのできない“辛さ”を味わった。
──だが、これが現実
世の一般的な考え方なのだろう。
ライムは蚊の鳴くような声で、ミサキに言った。
「キリシマ……あいつは俺の“ペア”なんだ。
俺の未来の姿
もう一人の──俺だ……」
「えっ……!?」




