第36話「秘策②」
もうレオナはライムの目の前に迫っている。
ライムはようやく顔をあげ、ぼそぼそと呟いた。
「秘策ね……
あんたがよく見るんだな! 俺の秘策に!!」
「なにっ!!??」
さっき放ったはずの“リミット・バースト”
──であったが、ライムの指先には、もう一つ溜めに溜めた力が存在した。
先程間違いなく力を放出したはずなのに、なぜ…… ?
ライムは親指と人差し指をたて、レオナに銃口を向ける。
この超至近距離──外すわけがない
例え、利き腕ではない左手であっても。
そう、ライムは右手と左手の両方に力を溜めていたのだ。
ここでようやくレオナは、自分が犯した重大なミスに気づく。
ライムの左手は強く光輝いていた。
「左手!! 二丁拳銃!! 先程の一発は囮か!?」
「最初からずっと力を溜めてたのは、こっちの左手の方でね……右手の方は直前に溜めた力に過ぎない! 両方溜めてたらすぐバレちゃうし!
こういうのを秘策って言うんだろ!? くらえ! レオナ!! こっちが本当の……
“リミット・バースト”!!」
2発目のリミット・バースト
先程放ったものとは大違い。数倍の大きさはある。
キャノン砲と呼ぶに相応しい、凄まじい攻撃がレオナに炸裂した。
「ぎゃーーーっ!!!」
0距離から攻撃を直撃したレオナは、悲鳴と共に倒れて意識を失った。
ライム達は解放軍・レオナの討伐に成功した。
「やったーー!! ライムーー!!」
勢いよくナヴィが飛び出して、ライムに駆け寄る。
ミサキも安堵の様子で笑顔を見せていた。
「さすが救世主! やるわね! まさか左手に大技を持ってきてるとは! 作戦にそんなのなかったから、どうなるかと思っちゃった」
ライムは緊張の糸が解けたのか、腰をおろし地面に座り込んだ。
「ふぅ~……いや、とっさの思い付きだよ! 俺とレオナの何が違うのか見てたら閃いてさ!
レオナは両手をうまく使って攻撃してる……そりゃ手数も増えるよなって。それなら俺もと思ってね!」
「それでもすごいよ! あの状況下でそんな考えが出てきたんだから!!」
今までライムは利き腕の右手一本で戦っていた。左手は基本右手を支えるだけだ。
神力を使うには十分な集中力を要するため、なかなか利き手の反対の左手を使用するのは困難だった。
しかし、不意をつくのには都合がいい。
力を溜めるのも右手に比べてだいぶ遅く、コントロールも定まらないが……
レオナの裏をかき、あの距離ならば問題ない。
見事なトリックプレーをライムは演出してみせた。
三人は笑いながら勝利の余韻に浸っている。
すると少し離れた場所から、突然声が聞こえてきた。
「す、すげぇ!! あいつら本当に解放軍を倒しやがった!!」
「えっ……?」
ライムが呆気に取られていると、どこからともなく数名の男達が現れ、気絶したレオナを囲い込んだ。
その男の一人が、こちらを見てお辞儀し、興奮気味にライムに話しかけた。
「ありがとう! あんた!! わりぃが、ずっと俺達隠れて見てたんだ。俺達はヒザン村の者でな。
あの解放軍には散々苦しめられていた……なんと礼を言ったらいいか」
どうやら現れた男達は皆、ヒザン村の住人のようだ。
こんな壊滅状態に追い込まれた村でも、住人達には愛着がある。
レオナがいなくなればまた元に戻れる……危険をおかしながらも、ちょくちょくレオナの様子を見に来ていたのだ。
そこで本当にレオナを倒す者達が現れた。
村人はライム達に頭があがらない。
ライムは照れ臭そうにして答えた。
「いや、礼なんていらないよ。俺も解放軍が許せなくてね! これで村の人達がまた暮らせるようになるなら、俺も嬉しいよ!」
ライムに頭を下げた男は、ミサキにも深々と頭を下げる。
「ミサキちゃんもありがとう! あんたは何度もこの村を助けてくれた! まさにこの村の英雄だよ!!」
ミサキも少し顔を赤くして、照れ臭そうにするも、ミサキはこの男性に身に覚えはない。
一方的に名前を知られているようだ。
話によると、ミサキはこの村では有名人らしい。
それもそのはず、解放軍にたった一人で戦い、神力・シールドで何度も守ってきたのだ。
まさにミサキは村人にとっての英雄、救世主に違いない。