第30話「神獣③」
ナヴィは勇気を振り絞った。
助走をつけて、勢いそのままに体当たりを試みる。
まずはナヴィは標的をレオナに絞ったが、神獣の力を放つレオナに飛び込むのは危険だ。
そこでナヴィは機転を効かし、レオナの方でなく、ライムに向かって体当たりをかました。
「ぐっ……」
ナヴィの小さい体でも、精一杯勢いをつけて体当たりしたため、ライムの体は思いのほか、吹き飛ばされた。
ナヴィの絶妙なタイミングの体当たりにより、レオナの神獣による槍のような攻撃を、うまいこと回避する。
「チッ! このウサギ!! おまえまで邪魔しやがって!!」
ミサキまでもか、ナヴィにも救われたライム。
ホッと肩をなでおろす。
「助かった……ナヴィ……
──ん?」
しかし……
そこには新たな危機が待ち受けていた。
ライムの飛ばされた場所は、後ろは何もない崖。完全にライムは追い込まれてしまっていたのだ。
「うわーーっ! 高い!!
(助かったと思ったけど……全然助かってない!!)」
高所恐怖症で足がすくんでいるライムを、レオナは嘲笑する。
「ははっ! 惨めだね!! もう逃げれないよ。まずはこの男からだ」
(ご、ごめんライム……なんて不運な。なんとかしなきゃ)
負い目を感じたナヴィは、ライムを助けようと必死に策を練った。
同じくミサキもライムを救うべく、動き出そうとするが──
「おっと。そこの女とウサギ、動くなよ!! 余計な真似したら、こいつをユニコーンの力で串刺しにするよ?」
もちろんそんなことはレオナも重々承知している。二人に脅しをかける。
「まぁ……あんたらが動かなくても……どっちみちこいつは死ぬんだけどな!!」
だが、どのみちライムが助かる道はないようだ。
このままではライムが危ない……この危機的状況で、何かを思い付いたミサキが、ライムに向かって叫んだ。
「ライム君!! 飛ぶのよ!! そこから!!」
「飛ぶって……この高さから!?
(む、無理だ! こんなとこから落ちたって助かりっこない)」
ミサキは無謀な事を言っている。
この高台の崖の下の海は、とても流れが速く
例え一度海に落ちて助かったとしても、すぐに海流に飲み込まれてしまうだろう。
ミサキの提案に、敵であるレオナすら呆れ気味だ。
「バカか? こんなとこから飛んだら、自ら死にに行くようなものじゃないか」
躊躇するライムに、ミサキが迫るように言った。
「じゃあ、このままやられて死ぬのとどっちがいいの? 迷ってる暇はない!! 早く!!」
正気なのだろうか……?
レオナは万一に備え、ライムの体を捕まえようとしている。
海に飛び込むことさえも、させないつもりだ。
決断を迫られたライムは──覚悟を決める。
(もうどうにもなれ !このまま黙ってやられるよりはマシだ!! もう飛び込むしかいない!! 高くて怖いから目を瞑って……)
ライムは意を決して、崖の上から飛び降りた。
「うわぁーーーーっ!!!」
ライムの絶叫が響き渡る。
まさかのライムの行動に、レオナも驚きを隠せない。
「ほ、ほんとに飛びやがった……!!」
落ちるライムの姿を、崖の上からレオナは眺めていた。
今がチャンスとばかりに、ミサキはライムの方へ、崖の方へと走り出す。
「私達も行くよ! ウサギちゃん!!」
「えっ!? ぼ、僕も!?」
ミサキはナヴィの手を無理矢理引っ張った後に、両腕にナヴィを抱え込む。
そして、ミサキは何のためらいもなく海へと飛び込んだ。
「わーーーーっ!!」
今度はナヴィの叫び声がこだまする。
ドボーーン!!! と、大きな音と水しぶきがあげる。
ミサキ達の意味不明な行動に、レオナは呆れていた。
「何考えてんだこいつらは……もっと骨のあるやつらかと思ったのに、勝手に死にやがって」
神力、神獣使いとの戦いをレオナはもっと楽しみたかったのか、これでは物足りない。
「それとも──何か策があったのか? もしも、生きて帰って来れたのなら、またあたしが相手をしてやるよ!!」
レオナは不気味な笑顔で、あっという間に海に流さていく三人を見送った。
一方、一足早く海に身を投げ出したライムは──
案の定、海流に飲み込まれ、うまく泳ぐことができないでいた。
(な、流される……こ、これじゃこのまま窒息して……)
どんどん海に引き込まれ、ライムの体は沈んでいく……
ライムが意識を失いかけそうになった、その時……
こちらに向かって来る“何か”が一瞬、ライムの目に映り込んできた。
(──な、なんだあれ!? 人……?魚……?いや、違う……
人魚か!!??)
ライムは意識が朦朧としていたのか、幻覚を見ているようだ。
人の体に足は魚のヒレ。
その人魚のような人影がこちらに向かって、物凄い速さで泳いでくる。
気づくと、その人影はライムの目の前まで近づいており、水中でありながらもライムに声を届けた。
「大丈夫? ライム君。安心して。私はミサキよ!!」
(えっ……? ミサキ……!?)
ライムの目に映る人影──人魚は、やはりこれは幻覚なんかではない!!
人魚の姿と化した、ミサキだったのだ。
「今助けるから! ちょっと我慢してて、ライム君!
“神獣・マーメイド”の力でね!」
第30話 “神獣” 完