第3話「時の支配者①」
ライムは身に振りかかる、いくつもの不思議な出来事や見知らぬ言葉の数々……
この島の存在自体に、恐怖を覚えていた。
(おかしい……何かがおかしい……“いかいじん”、しん“りき”……? 一体何なんだこの島は……)
ひたすら困惑して、考え込むライムを……
群がる野次馬から少し離れた、木の裏から“何者”かが隠れて身を潜め、ライムを見続けていた。
「みーつけた!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第3話
“時の支配者”
笑い者にされていたライムをトウゴは気遣った。
「あまり気にするな。ライム」
「いえ……大丈夫です」
ライムは決してバカにされて頭に来ていたわけではない。
一体この島は何なのか?
自分はどうなってしまったのか?
ライムの頭は、そのことでいっぱいだった。混乱状態のライムに、トウゴはひとつだけ忠告した。
「色々言っても混乱するだろう。
とりあえず“キリシマ” この名前を言うことだけは避けた方がいい」
「わ、分かりました」
もっとたくさんこの島について聞きたかったが、トウゴの言う通り、ライムの頭はパンク寸前だ。
『また今度改めて詳しく聞こう』
ライムがそう思った矢先、村の入り口の方から叫び声が聞こえた。
「“解放軍”だ! 解放軍が来たぞーー!!」
またもやライムに疑問符が浮かぶ。
「解放軍……?」
その声を聞くや否や、村人達は一斉に自分の家へと走り出した。
先程まで人のことをゲラゲラと笑っていた村人も、血相変えて飛んで帰っていく。
トウゴも顔をこわばらせながら、ライムに声をかけた。
「チッ! また来たか……ライム! おまえも俺の家へと来るんだ。かくまってやる」
(──かくまう……?)
ライムはトウゴの言葉が引っ掛かった。
だが聞き返すことはせず、一応返事をしてみせる。
「は、はい……ありがとうございます」
村の外から数名がぞろぞろと、村の中へと入って来る。恐らくこれが解放軍と呼ばれる者達なのだろう。
その中に一際、体の大きい存在が目についた。身長2メートル近くはありそうな、大きな体だ。
「異界人はいないか? いるなら俺達が解放してやろう!!」
そう言いながら2メートルの巨人は、村の奥へと足を踏み入れる。
「あ? なんだおまえは?」
巨人が何かに気付く……思わず村人トウゴは目を疑った。
『俺の家へと来い』と言ったにも関わらず、ライムはトウゴの後を付いてきてはおらず……
ライムは村の真ん中に、堂々と突っ立っていたのだ。
「あ、あいつ!! 何やってんだ!! いっしょに来いって言ったのに!!」
解放軍という存在が一体何者なのかは不明だか、よくないことがこれから起こるということはライムにも分かっていた。
(ごめん、トウゴさん……“かくまう”……
この言葉から想像するに、あいつらの狙いは俺に関係があるってことだ。
これ以上トウゴさんに迷惑かけたくない。だからいっしょにはいられない!)
解放軍の巨人は、ライムの目の前まで近づき、ライムに再度尋ねた。
「なんだてめぇは?」
「俺はキリ──」
トウゴの忠告がライムの頭をよぎる。
『キリシマと名乗るのはやめとけ』
「(キリシマはまずいか……!!)
俺の名前はライムだ」
「名前なんてどうだっていい! もしかしておまえ、異界人か?」
「あぁ……どうやら俺はその、いかいじんってやつらしい」
正直に答えたライムに、巨人は多少の戸惑いを見せながらも微笑んだ。
そして巨人を取り巻く、下っ端と思われる者が言った。
「“ダイキ”さん、こいつこの村では見ない顔ですね。もしかしたらまだ“ここ”に来て間もない異界人なのかもしれません」
「なるほど。新入りってことか。どうりで村人達のように、俺らから逃げないわけだ!
おまえ……解放されたいか?」
巨人・ダイキの言った意味が、ライムにはよく分からなかったが、ライムは勝手に自分なりの解釈をした。
「解放……?よく分からないけど……
(この島から解放されるって意味か? それならば……)」
ライムは強い意思でダイキに訴えかけるようにして言った。
「俺は戻りたい! 元の所に……帰れるものなら帰りたい!!」
「そうか。戻りたいか……ならばやはり“解放”するしかないな! 俺がおまえを解放してやろう!!」
そうダイキが笑顔で言うと、右手に握りこぶしを作り、腕を頭の上まで高くあげた。
そして2メートルの高さから、ライムの頭めがけて、腕を思い切り振り下ろす。
「!! な、なにするんだ!!」
ダイキの攻撃にいち早く気付いたライムは、慌てて後ろに下がり、尻もちを着く。
ドーーン!! と、地響きを立てながら、ダイキの拳は地面へと到達する。
なんとかライムはダイキの攻撃を、ギリギリのところで回避した。
(な、なんだこれは……)
ライムはダイキの圧倒的なパワーに驚愕する。
ダイキが拳を叩きつけたところの地面は、ヒビが入り、粉々になってしまっていた。
もし頭に当たってでもいたら、ひとたまりもなかっただろう。
(いくら体がデカイとは言え、信じられないくらいの力だ……どうなってるんだ?)
ライムは思わずダイキのパワーに見とれて、ぼーっとしている。
生気の抜けたライムを、ダイキは鋭い目付きで睨みつけた。
「貴様、なぜ避けた? 解放すると言ったろ!?」
言葉の意味が分からないライムは聞き返す。
「解放するって……“こういうこと”なのか!?」
ライムを睨み付けていたダイキは、今度は不適な笑みを見せる。
「そうだ。解放するとはな……
即ち、俺が今ここでおまえを殺してやるってことなんだよ!!」
ダイキはバカでかい声を張り上げ、重いパンチ、右ストレートを繰り出した。
強力な一撃に違いないが、動きは鈍い。
ライムは顔面に迫ってくるパンチを、これまたうまく回避した。
「解放ってそういう意味なのか!? 殺すなんてめちゃくちゃだ!!」
慌てるライムに問答無用で、ダイキは次々とパンチをかます。
しかし、ライムは俊敏な動きを見せ、巧みにダイキのパンチをかわし続けた。
攻撃をかわす一方で、反撃してこないライムにダイキは勘づく。
「おのれ、ちょこまかと……だが……さてはおまえ“神力”を使いこなせていないな?」
ダイキの言い放った“神力”という単語に、ライムは村人の言葉を思い出す。
(そういえば……“しんりき”がどうのこうの、村の人が言ってたな)