第25話「間一髪①」
崩壊した“ヒザン村”を前にして、ナヴィは確信する。
「ひとつしかない……こんなことをできるのは……
解放軍しかいない」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第25話
“間一髪”
もはや廃墟と化した、ヒザン村の中に入る二人。
あまりに無惨な光景を目の当たりにし、ライムも衝撃を受けている。
「ひどい……なんでこんなことになってしまってるんだ……」
「明らかに人の力ではない……こんなことをできるのは、神力を使える異界人のみだ。きっと解放軍に違いない」
ライムは神力という、神がかった力の恐ろしさを改めて知った。
原型すらままならない、いくつもの住居を見て、ナヴィがあることに気がついた。
(なんだ……この無数の傷跡は……思えばこの跡が、あちこちにあるな)
何かに“斬りつけられた”ような跡が、村の至るところにあるのだ。
これも解放軍の神力によるものなのだろうか?
「大丈夫か? ナヴィ」
考え事をして、ぼーっと突っ立っていたナヴィを心配するライム。
「うん、ちょっと色々考えてて……」
「大丈夫ならいいんだけど……しかし、これだけできるってことは、恐らく相当な力を持った解放軍なんだろうな」
「そうに違いないね。十分気を付けた方がいい」
まだ見ぬ解放軍の脅威に、警戒体勢の二人。
いつ解放軍が姿を現すか分からない。
ナヴィは少し怖じ気づいていた。
「できることなら無駄な争いは避けたいところだけど……どうする? ライム」
「そりゃ俺もなるべく戦いたくはないよ……でも──」
もちろんライムも、この村の成れの果てを見て、恐怖が走っていた。
できることなら避けて通りたい……
だが……
「もしかしたらキリシマの情報を知ってるかもしれない! そうなると無視はできないな。相手をする価値はあるよ」
あくまでライムの最終目標は、解放軍の頭・キリシマを倒すこと。
これほどの力を持つ解放軍なら、何かキリシマの情報を握ってるかもしれない。
そう考えると、避けては通れない道だった。
恐怖と戦うライムに、ナヴィは嫌味を言ってみせる。
「キリシマの情報を持ってなかったら……ただ単に危険な目に合いに行くだけだね」
「元も子もないことを言うなよな。もし何もキリシマの情報を持ってなかったら……その時は──逃げるのみ!」
「都合いいな。そんなうまく行くかなぁ……」
そんな虫のいい話はないとナヴィは思うが、ライムは楽観的に物事を考えていた。
二人は村の奥まで進んで行く。
どこもかしこも、村は崩れ去った建物で広がっている。
その廃墟が続く中で、ナヴィが不思議な建物を見つけた。
「見てライム。あそこ」
ナヴィが指差す方には、他の廃墟とは違って、ひとつだけやたらと綺麗な家が建っている。
「なんであの家だけ、綺麗で無事なんだ? 他の家は、ひとつ足りとも残ってなかったぞ?」
「確かに……なんでだろ……」
疑問は残るが、何か手がかりになるかもしれない。
二人はまずはその家に行ってみることにした。
その家は高台の上にポツンと一件だけ建てられており、ただでさえ目立つ場所にあった。
それに加え、ひとつだけ綺麗に原型を留めているため、余計に存在感が増している。
家からはまだ少し距離はあるが、高台に登った所でライムがあることに気付く。
「ナヴィが言ってた高台の景色ってこれか……」
「そうそう! ここから眺める、海の景色が綺麗だろ?」
村の隣は海になっており、この高台からはよく海が見える。
しかし、いい景色というよりも、ライムには恐怖の気持ちの方が勝っていた。
「綺麗ってよりは……怖いんですけど……」
落ちたら流れの速い海に、あっという間に流されてしまいそうで……
高所恐怖症だったライムにとっては、とてもじゃないが景色を楽しむ余裕などなかった。
怖がるライムに、ナヴィは残念そうな顔をする。
「廃墟になってなければ、まさにオーシャンビューって感じだったんだよ」
この村の、おどろおどろしい雰囲気が、更に恐怖に拍車をかけていたのかもしれない。
そんな会話を交えながらも、二人は高台の家の前までたどり着いた。
「──着いた。やっぱり不思議と、この家だけ綺麗でなんてことないね」
家を前にしたナヴィは、嫌な仮説をたて、一人震えていた。
「もしかして……ここが解放軍の家だったりして……」
「あ、ありえるかも……それならこの家だけ無事なのにも説明がつくな」
ナヴィは、いずれ偉大な時の支配者となる人物。
もしかしたら未来を予知できる能力が、すでに少し備わっていたのかもしれない。
ナヴィの嫌な予感は、見事に的中する。
「なんだい、おまえら? 後ろをつけてみたら……
あたしの家に用でもあるのかい?」
後方から声が聞こえ、即座に二人は後ろを振り向いた。
「誰だ!!」
「誰だって──それはこっちのセリフだよ!!」
振り向いた先には、一人の女が立っていた。
見るからにヤンチャな風貌。
髪は短髪でボサボサ。男勝りな女の姿が、そこにはあった。
「どこから来た? おまえたち! おかしいな……この村に人は誰もいないはずなんだがな」
村の事情を詳しく知る女に、ナヴィは嫌悪感を示す。
「なんだと……てことは、おまえがこの村を襲った犯人か!? 解放軍か!?」
ナヴィにそう問われた女は、不適な笑みを見せた。
「解放軍……あぁ。そうさ!
あたしは解放軍の“レオナ”
異界人を何人殺したか分からないね……くっくっく……」
解放軍と聞いてライムは構え、戦闘体勢に入った。