第24話「悩める幸運②」
ライムにはある疑問が浮かんでいた。
その疑問をナヴィに問う。
「ペアの片方が消えれば、もう片方は元の世界に戻れる……だとしたら……
もし未来の方が、戻ることになってしまったらどうなるんだ?
時の軸、“今”を生きる方は消滅して、未来だけの方が生き残るって……なんだかおかしな話な気がして」
複雑な時の流れの話に、ペアの問題。
色々と理解していたつもりのライムであったが、事あるごとに疑問が沸いてくる。
ナヴィが神妙な面持ちで、ライムの質問に答えた。
「それはね……君達の世界はラビ様の手によって時の軸は止められているが、それでも未来は動き続けている。
だから未来のペアが君達の世界に戻れば、そのまま何事もなかったかのように、未来を生き続けることができるはずだ!」
「じゃあ特に問題はないのか?」
「いや、そこには大きな落とし穴がある!! 時が止められたままの、この状態ならば……おかしな状況ではあるけど……
未来の自分は生きているが、“今”を生きている自分は消滅したということになっている。
けれども、止められた時の軸、“今”も、いずれはまた動き出すんだ! その瞬間がいつは定かではないが、必ずそれは訪れる!
そうなれば、その“今”は現実となる……
するとどうだ?
その者が未来に生きていようが、そんなことは全く関係ない……“今”を生きている者は消滅しているのだから……
消滅したことが“現実”となってしまうんだよ!! それでは当然、未来の存在も、すべてが消え去ることとなる……」
ライムは大変な事実を知ることとなる。
すぐさま、それは解放軍の意思と直結する。
「──じゃあ解放軍のやってることって……」
「解放軍は、時の流れのことは知らない。ペアが今か未来かなど、考えてもいない……だからむやみに消滅させるだけでは、何の意味もないんだよ!!」
「そ、そうだったのか……」
ライムは一刻も早く、解放軍を止めなければと思ったと同時に、何度か自分が死を覚悟したことを、深く反省した。
しかし……
その事実を知ったライムは、別の“あること”にも気付いてしまう。
その“あること”を知った途端、ライムは急に立ち止まり、また深く考え始めてしまった。
「──ん? ライム?」
ナヴィは幾度と、このライムの深刻な表情を見てきた。
前夜も、このライムの辛い顔を見たばかりだ。
すぐさまナヴィが悩むライムの目を覚まさせる。
「ライム! 考え込まないの! 辛いとは思うけど、考えても仕方ないよ!」
「えっ……ごめん……」
いち早くライムの表情の変化を読み取ったナヴィが、わざと明るく振る舞って見せた。
「どうせ旅するなら、明るく行こうよライム! 笑顔で行こう! そっちのがきっと楽しいよ」
どこからどう見ても、ぎこちない笑顔だった。
ナヴィが無理して笑っているのが分かる。
(ナヴィだって、この事件で兄ちゃんが犠牲になったんだ……俺もいつまでも悲しんでる場合じゃないよな)
“あること”に気づき、また悩み始めるところだったライムであったが、一旦考えることはやめた。
ライムはナヴィの笑顔に救われた。
そんなやり取りもありながら、歩き続けていると……
道にある表札をライムが見つける。
「おっ! ヒザン村って書いてあるな! もうすぐかな?」
「うん。もうすぐ村に着くよ。一度僕はここに寄ったんだけどね!」
「ナヴィは来たことある村だったのか」
「うん。ラビ様の予知夢で、救世主探しをしてたからね。その方角にヒザン村もあったから、ファブル村の前に寄ってたんだ」
見知らぬ地での冒険に、少しわくわくしてきたのか、ライムが興味津々にナヴィに尋ねた。
「へぇ~。いったいどんな村なの?」
「規模的にはファブル村とあまり変わらないかな? 海の近くにある村で、高台から見る海の景色がすごく綺麗なんだ!
それにここの村の人はみんないい人達でね。こんな見た目の僕でも、優しく受け入れてくれた!」
「それはすごいな! 喋るウサギのナヴィを受け入れるなんて! そう簡単にできることじゃない」
「ひどいなライム! そんな言い方ないじゃないか!」
ナヴィが怒るも、茶化したライムは笑っている。
「あはは! 冗談だよ! それだけ優しい人達だったんだなってのは、十分伝わったよ!」
本当はナヴィももっと怒りたかったが──
ライムの笑顔を見て、ホッとしていたナヴィがそこにはいた。
先程まで沈みかけていたライムが笑っている
そのことにナヴィは安堵し、怒りの感情など、もはやどうでもよくなってしまっていたのだ。
だが……
そのライムが見せた笑顔も、このあとすぐに消えることとなる……
「ナヴィ……ここが本当に、のどかな村なのか?」
村に入った二人に飛び込んできた光景は、衝撃的なものだった。
「そ、そんな……バカな……」
ナヴィは膝からがくりと崩れ落ちる。
目の前に広がっていたものは、崩れかけた数々の家……傷つけられた木々……
一面が、無惨な景色に包まれている。
村すべては破壊され、ナヴィが見たヒザン村の面影は何一つとして残っていなかった。
「ない……ここにあったはずの家……村の住人達……
何もない!! 何もかもがなくなってしまっている!!」
慌てるナヴィに、初めて訪れたライムは再度確認をした。
「本当にあったのか? ここに村が……何かの間違いじゃないのか? ナヴィ」
そんなライムの言葉に、ナヴィが熱く主張する。
「間違いなんかじゃないよ!! この場所だ。ここにヒザン村はあったんだ!!」
「じゃあどうして……」
「ひとつしかない……こんなことをできるのは……
解放軍しかいない」
第24話 “悩める幸運” 完




