第23話「悩める幸運①」
ライムのペアの存在が明らかになった。
解放軍頭首 キリシマ
その辛い現実を知ったライムは、ひたすら考え込んでいた。
一体自分は、これからどうすべきなのか?
どうなってしまうのだろうか…?
悩み続け、中々寝付けずいたライムだったが、“今”が止まった元の世界とは違い、この世界の時が止まることはない。
時は流れ続ける。次第に朝が──訪れる。
「ふぁ~ぁ……よく寝た!」
人の気も知らないで、大きく背伸びをするナヴィ。
ナヴィの方は、相変わらずぐっすりと眠りにつけていたようだ。
ナヴィがライムの方に目をやると、ライムはすでに起きており、座りながらどこか遠くを、ぼんやりと眺めていた。
「ライム、起きてたのか」
ゆっくりとこちらへ近づく、寝ぼけたままのナヴィに、ライムは思いを告げる。
ライムは悩み抜いた末に、ライムなりの結論をすでに出していたのだ。
「ナヴィ、俺決めたよ。怖いけど……ほんとは戦いたくなんかないけど……
キリシマは俺が倒す!!」
ナヴィの眠気が一気に吹き飛んだ。
「えっ!? いいの? やってくれるの?」
ライムは力強く頷いた。
「あぁ! 元の世界に帰るには、そうするしか手段はないしね。それと、なにより……
犯罪者のキリシマを野放しにはできない……この島の者達や、トウゴさん達を苦しめるやつらを俺は許せない!!
キリシマは“ペア”の俺が、責任をもって倒す!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第23話
“悩める幸運”
ナヴィはライムが引き受けてくれたことに、深く感謝をしていた。
「ありがとうライム! 時の支配者として、この島の危機を救うのに協力してくれること、感謝するよ」
ナヴィは満面の笑みで、全面に喜びを表現している。
しかし、ライムには礼を言われる筋合いは、これっぽっちもなかった。
「お礼なんていらないよ。自分が元の世界に帰るため、これも全部自分のためだ! それと俺は自分のペアの責任を取るだけだよ!」
「そっか! 理由はどうであれ、僕は嬉しいよ!」
ナヴィにとって、理由は何でも構わない。
引き受けてくれたただけで、ライムには感謝しなければならないのだ。
いずれにせよ、ライムが解放軍のキリシマを討つことは決定事項。
ライムは一段とやる気に満ち溢れていた。
「さぁ、明るいうちに行こう! まずは時の塔に向かうんだろ!?」
「うん、そうだね。じゃあ僕が案内するよ。そうは言っても、だいぶまだ距離はあるけどね」
ナヴィが先導をきり、道案内に出る。
木々で溢れた、この似たような地では、案内なしでは簡単に迷ってしまいそうだ。
目印は時の塔。
塔に向かって歩き続ける
──はずなのだが……ナヴィの後ろを歩くライムがすぐに気付く。
「あれっ? 時の塔に行くなら、道はこっちじゃないんじゃない?」
明らかに塔から道がそれているのが分かる。あれだけ大きい目印を見失うわけがない。
「えっとね……道からはそれるけど、少し歩いた先に村があってさ。
“ヒザン村”って名前なんだけど、ファブル村では物資が今一つ足りてなくてね。もう一度、別の村で調達しておこうと思って」
「そういうことか。まぁすべてはナヴィに任せるよ! 俺は道さっぱりだし」
そういった案配で、ライム達は時の塔の前に、ヒザン村へと向かうこととなった。
その道中……突然ナヴィが、ライムに気まずそうにしながら話しかける。
「ライム……怒ったらごめんよ?」
「えっ、何が?」
「こんな言い方は失礼だとは思うけど……ある意味ライムは運がいいのかもしれない」
意味深な発言をするナヴィに、ライムは耳を澄ました。
ナヴィは曇り顔のまま、話を続ける。
「ほとんどの異界人はね、まずペアを見つけることすら難しくて、それすらもできずに、一生を終えてしまう者も多いんだ。
それこそ、老いを待つなんていつになるか分からず、この島での長い生活を強いられることとなる。
その点ライムは、そこは問題がない……ペアの相手がはっきりしているからね」
運がいいと言われるのは癪だったが、確かにナヴィの言う通りなのかもしれない。
「それはそうかも……しかも相手は、世界的大犯罪者だもんな。目撃情報も多く見つかるかも知れない…!」
「うん、そうなんだよね! それともうひとつの大きな問題も、実はライムはすでにクリアしてたことになるんだ!!
自分が“今”を生きてた方か、それとも未来にいた方か判別できないって話……以前もしたと思うけど、覚えてるかな?
この点も、ライムの場合は完全に“今”を生きている方だったっていう事が、証明できたことになる! 他の異界人なら、その判別すらも困難だ」
「ペアは数十年後の俺だもんな……未来の俺に決まってる。
けど、それってそんなに難しいことなのか? ペアが判明しちゃえば、その見極めも簡単なんじゃない?」
ライムの推測は的はずれだったのか、ナヴィは大きく首を横に振った。
「それがそういうわけでもないんだ。ライムの場合は時間にすれば数十年という、大きな開きがあったのだけれども……
未来がたった数時間後、数日後かも分からないんだ。
その自分と対峙した時に、どちらが未来の自分かなんて、正確に判別ができるかい?」
「そうか!! 未来といっても、どれほど先の未来かは分からないわけか……
そういう意味でも、俺のペアは判別しやすかったんだね!!」
そう考えるとライムには、つくづくいい条件が揃っていたのかもしれない。
ただ一点を除いては……
「まぁそれでも相手が相手だし、全然喜べないや……なにせ解放軍の頭なんだから……ほんと運がいいのか悪いのか分からないな」
「そうだよね……ごめん! 余計なこと言っちゃたね」
ナヴィが謝るも、ライムはそこまで気にしてはいない様子だ。
「それはいいんだけどさ。事実だし。それよりさっきの話を聞いて、思ったことがあるんだけど……」




