第22話「キリシマ③」
“救世主”
思えばこの言葉も、ナヴィに出会った当初から、ずっと言っていた言葉だ。
何度も理由を尋ねては、ナヴィは答えるタイミングを失っていた。
その理由を、とうとうライムが知る時が来る。
改めてライムは、ナヴィに問いかけた。
「なんで俺が救世主なんだよ……その理由を──教えてくれないか?」
「うん……先代、時の支配者 ラビ様はね。“予知夢”を見ることができたんだ。
ラビ様は時の軸、“今”を止めるために、君達がいた世界へと旅だったわけだけども……
そのまえに、ラビ様は予知夢を見たんだよ! 予知夢を見たラビ様が、僕達に残した言葉はこうだ!」
『この世界の危機を救う、救世主が現れるだろう
その者と己を信じれば、必ず道は開かれる』
「その救世主が──俺?」
ライムはその、ラビの予知夢の話を聞かされても、納得はいっていない様子だった。
しかし、ナヴィは確信をもってライムに告げる。
「そうだよ!! ラビ様は時の塔から南東をずっと指差していた。
だから僕はその救世主を探すために、時の塔から南東へとずっと歩いてやってきた!
そこで出会ったのが君、ライムだ!!」
「だからって……俺がその救世主とも限らないだろ? もっと他に適任がいるんじゃないのか?」
ライムはきっぱりと否定した。
自分はそんな大層な人間ではない。
救世主なんて言葉は、自分には似合わない
そう決めつけた。
それでもナヴィは声高らかに、熱い気持ちをライムにぶつける。
「いいや、君しかいない! 間違いない!! 名前を聞いた時から、ピンと来たよ!
解放軍は手に終えないほど拡大している……その統率を取る、キリシマを討つしか、もう手は残されていない!!
“キリシマ”に対抗できるのは、“キリシマ”しかいないんだ!! だから……
キリシマの“ペア”……救世主はライムしかいないんだよ!!」
それでもライムは腑に落ちなかったのか、言葉を返すことはしなかった。
ずっと下を向き、涙を流し続けている。
そんな下を向くライムに、ナヴィはもうひとつの厳しい現実を突き付ける。
「それに──ライムは元の世界に戻りたいんだろ? それなら尚更だ。キリシマを倒さなきゃ、元の世界に戻ることはできない!!」
その事実を知らされたライムは、ハッとした。
(──そうだ!!俺が元の世界に帰るには……ペアを消すしか手段はない)
確かにライムは、ペアを探すために旅立つ決心をしていた。
だが、一度相手して分かった、解放軍の脅威。
正直、もう関わりたくない存在であり、争い事に巻き込まれるのはごめんだった。
しかし……
「やるしかないのか、俺が……救世主かどうかは分からないけど、キリシマを倒さなきゃ俺は元の世界に帰れないのか」
「そう。酷な話かもしれないけどね。また逆も然り……
ライムの存在をキリシマが見つければ、キリシマはライムを消しにくる。いずれにせよ、ライムとキリシマが対峙する時は必ず訪れる」
「そうか。向こうも元の世界に帰るために、俺同様にペアを探してるはず……
生きて元の世界に帰れるのは、どちらかのみ……やるしかないのか、それしか手段はないのか……」
ライムに選択肢はない。
解放軍と戦うしか術はないのだ。
そう頭では分かっていたものの……
それでもまだ、ライムは自分の置かれた状況を受け入れることができずにいた。
ここは一度冷静になって、よく考えた方がいいのかもしれない。
ライムは泣くのをぐっと堪え、涙を袖で拭きながら言った。
「少し考えさせてくれないか?ナヴィ。俺に──気持ちの整理をさせてくれ」
「そうだね……唐突な話で無理もないよ。もう暗くなってきたし、一旦休もうか」
日が暮れる頃に村を出てきたためか、いつの間にか日も沈み始め、夜を迎えようとしていた。
今は取り乱し、冷静な判断はできない……
そのため、ライムは一度寝て、朝になってからまた考えることに決めた。
その夜。
ナヴィが準備してくれた寝袋に潜り込むライム。
こうした野宿での生活は、しばらく続くのだろう。
ライムは一人、考え事をしていた。
どうして未来の俺が? なんで俺がこんな目に……
一度寝てから考えようと決めたにも関わらず、様々な思いがライムの頭を巡り、寝ることができない。結局は考えて込んでしまっていた。
ライムは不運な自分を恨んだ。
そして、自分はこれからどうすればいいか、どうすべきなのか……
ひたすらライムは悩む。
けれども……
どれだけ悩もうが、現実は変わることはない。
答えはとうに出ているのに……
それでもライムは繰り返し、何度も何度も同じことを、ひたすらに考えていた。
この夜は中々眠りにつくことができず……いつもより一層、夜が長く感じた。
第22話 “キリシマ” 完




