第21話「キリシマ②」
悲しい事実ではあったが、とうにライムにも想像は出来ていた。予想通りだ。
しかし、それでもまだ認めたくなかったのか、ライムは頭に浮かんでいた大きな疑問点をナヴィに明かす。
「でもさ、ナヴィ。俺がこの島にたどり着いたのは、つい最近の話だ。
この指名手配のキリシマは、随分前にこの島に来てたんじゃないか?
こんな短期間で、ここまで解放軍を拡大できるとはとても思えないし……
だからキリシマが未来の俺って筋は、消えはしないのか?」
ライムはそんな疑問を抱くも、ナヴィはそれを一蹴する。
「それは簡単なことだよライム……
“今”と未来を生きる二人のライムは、時のルールに引っ掛かり、どちらも時空の歪みを経由して、この異世界へと来たわけだけど……
その時空の歪みに飲み込まれた際に、少なからず二人に時間の“ズレ”が生まれているはずなんだ。全く同時の瞬間に、二人が飲み込まれるなんてありえないからね!
その僅かなズレは──この島では大きなズレへとなり兼ねない!」
ここは通称『時を刻まない島』
ライムの元いた世界と、この世界の時は干渉しない。
よって、ライムの世界の僅かな時間、数秒、もっと細かい数コンマ何秒が
こちらの世界では、時間に換算して、数日、数ヵ月となり得る可能性もあるのだ。
その特性により、ライムと指名手配犯であるキリシマとの間に、ここまでのズレが生じてしまったのかもしれない……
「そういう理由だったのか……じゃあやっぱり解放軍キリシマは未来の俺…… 」
あっさりと希望は捨て去られ、ライムは大きなショックを受けていた。
未来の自分の成れの果ての姿に、未だ現実を受け入ることができない。
「けど、どうして……どうして俺が犯罪者なんかに……なんで解放軍のトップなんかになってしまっているんだ」
「それは分からない。理由こそは分からないが……
君のペアが、この島の大問題へと発展している解放軍を立ち上げた、トップのキリシマ……残念ながら、それだけは紛れもない事実だ」
ライムはショックを受けただけでは留まらず、もう一人の未来の自分に激怒していた。
「なんで俺がそんなことを! 解放軍……あの連中は、殺害を楽しむような犯罪軍団じゃないか!
俺はそんなこと許せない!そんなことしたいと思ったこともない……なのに、未来の俺はそんな人格なのか!?」
「前にも説明しただろライム。未来には無数のパターンがある……
無限に広がる未来の、たまたまそのひとつのライム
それがあの“キリシマ”だっただけだ。
ほんと偶然に過ぎないんだよ! きっと今いるライムが、将来そんな犯罪者になるわけではない!」
ナヴィはフォローのつもりで言ってくれたのだろうか?
これも慰めのつもりだったのだろうか?
真意は分からないが、ライムには全くもって響かなかった。
「たまたまでも嫌だよ!! 俺にどんな未来があったのか、どんな人生を歩んだのか分からない……けど、犯罪者の自分がいる!! それだけで俺は…辛い……」
辛いこと、悲しいことが立て続けにライムに襲いかかる。
この島に来て何度目だろう……
ライムは涙した。
トウゴさんや、ファブル村の住人
また、同じように、この世界に来た異界人
島中の多くの人が解放軍に苦しめられている。
それがすべて、もう一人の自分のせいだったなんて……そう思うとライムは、居たたまれない気持ちでいっぱいだった。
胸が痛い……胸が苦しい……
そんな精神状態がズタズタとなったライムに、ナヴィは言った。
「辛いだろ? 苦しいだろ? だったら終わらせよう、ライム! 僕といっしょに!!」
泣きじゃくるライムはナヴィに聞き返す。
「えっ……終わらせる?」
「そう、この世界は危機に陥っている……
キリシマの意思を継ぎ、溢れかえった解放軍……異界人の神力に怯えて暮らす、島の住人達……
このままでは、この世界の住人や生き物は滅んでしまう! だから君に止めてほしいんだ! 解放軍を!!」
「どうして俺が? 俺にできるわけないだろ……」
「いや、ライムならできる。だって君はこの世界の救世主なんだから!!」