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第2話「止められた今②」

 意識が朦朧としている。ライムの耳に微かな音が聞こえてくる。


 ザーッ……ザーッ……



(な、なんだ? この音は……もしかして、波の音……?)



 気を失っていたライムは、波の音と共に再び目が覚めた。

 気づくとライムは海の浅瀬に寝そべっており、どこかの島にたどり着いてしまっていたようだった。



「夢か……? これは……?」



 ライムは島の辺りを見渡した。

 ぐるっと一周見渡しても、そこにあるのはすべて海。きれいな水平線が見える。


 島も船も、一切何も見当たらない。

 この島以外、何ひとつ見つけることができないのだ。



「夢にしてはリアルすぎるよな」



 ライムにはさっぱり状況が飲み込めなかった。

 いつも通り学校へと向かったはずが、気を失って目が覚めたら、謎の島にたどり着いてるのだから。



「なんでこんな所にいるんだ? あー……思い出そうとすると頭が痛い」



 どうやらあの黒い空間に飲み込まれたことは、ライムは覚えていないようだ。

 学校に向かう途中だった覚えはあるのだが、そのあとの記憶がない。


 事態は理解不能だが、まずは誰かに助けを呼ぼうと、ズボンのポケットに入ってある携帯電話を取り出そうとした。



「あれっ? 見当たらない。落としたか!?」



 しかし、ポケットは空。


 それまでもか悲惨なことに、無くしたのは携帯だけではなかった。

 背負っていたカバンも、腕に着けていた時計も、すべてが──ない。



「海に流されたときに無くしたのか? あっ、カバンもないってことは財布もない。一文なしか……」



 すべてを失って落胆していたライムだったが、今は命あっただけでも運がよかった。そう前向きにとらえることにした。


 いや、そうするしかなかったと言うべきか。ここで立ち往生していても仕方がない。今は前に進むしか道はなかった。



「ここにいても何も起きないしな。よし、島の中へと入ってみよう!」



 ライムは意を決して、島の奥へと進むことにした。


 最初は不安な気持ちでいっぱいだったが、島に入り、景色を見ながら歩いた時に気づく。


 ここはなんと自然豊かな島なのだろうか。

 今になって思えば、海も透き通ってきれいだった気がする。


 空気が違うのが分かる。

 ライムは生まれて初めて、空気が澄んで美味しいという言葉の意味を理解した。


 まるでリゾート地にバカンスに来たかのような、愉快な気持ちまでに、いつの間にか変わっていた。

 そんな上機嫌なライムに、またひとついい出来事が起こる。



「あっ! もしかして、あれって村か?」



 村を見つけたのだ。

 海岸から出て、林の中を随分と歩いてきたが、まだ誰も人とは遭遇してはいなかった。


 ようやく人に会えると思い、駆け足で村の中へと入る。



「ん? 見かけない顔だな」



 村に入った途端、中年男性が声をかけてきた。ライムは答える。



「俺さっきこの島にたどり着いたんです。気を失って気づいたらここにいて……この島は一体どこなんですか?」



「ここがどこって……もしかしておまえ、“異界人”か?」



「いかいじん……?」



 男性の口から、ライムの知らない単語が飛び出した。

 ライムがきょとんとしていると、その表情を見て男性は察した。



「知らねぇってことは、やっぱりそうみたいだな」



「聞いたこともない言葉です。俺が、いかいじん……?」



 そんな会話を男性と続けていると……ぐぅ~っと、ライムのお腹の音が鳴った。



「なんだ、おまえ腹が減っているのか?」



 気づけば朝からまだ何も食べていなかった。ライムは小さく頷いた。



「だったらうちへ来るといい。食い物ぐらい恵んでやるよ」



 見ず知らずの会ったばかりのライムに、優しさを見せるこの男性。

 なんだかライムは、後ろめたい気持ちでいっぱいだった。



「俺、お金持ってなくて……」



「はっはっは! 金なんか取らねぇよ。遠慮せず俺の家に来い!」



 男性はそう笑いながら、ためらうライムを村の中へと案内し、自分の家へと招待した。

 初対面なのに関わらず、随分と親切な人だ。

 何ひとつ分からない状況で、不安だらけのライムにとって、この人の優しさは涙が出るくらい嬉しかった。


 結局ライムはこの男性の家にお邪魔させてもらい、食事までご馳走になった。

 しかも、濡れた制服に代わり、着替えまで用意してくれている。



「すみません。何からなにまで」



「いいってことよ。服のサイズも、ぴったりみたいでよかった。ん? 何だか外が騒がしいな……」



 ちょうどライムが食事を終えた頃、家の外から騒ぎ声が聞こえ始めた。

 異変を感じたライム達が家の外に出ると、家の周りには、人だかりができている。


 いつの間にかライムの存在は、村中に知れ渡っており、村人達が野次馬と化して、集まって来てしまっていたのだ。

 姿を現したライムに村人達が気づく。様々な声が飛び交った。



「おっ、出てきたぞ! おまえが異界人か? 最近やたら多いな」



「“神力”使えるのか? おまえも?」



 野次馬の口から、またライムの知らない言葉が出てくる。



「しんりき……?


(“いかいじん”とか、“しんりき”とか……何なんださっきから)」



 先程と同じような呆気に取られたライムの表情を見て、家へと招待してくれた優しい男性が、ライムを庇う。



「まぁまぁ、そんな色々聞くのも可哀想だろ! そうだ、まだ名前を聞いてなかったな。

 俺の名前は “トウゴ” おまえの名前は?」



「あぁ、すみません。散々世話になっといて、挨拶がまだでした。


 俺の名前は 桐島 来夢ライムです」



 その名前を聞いた途端、村人達が一斉に声をあげて驚いた。



「きりしま!!!?」



 ざわつく村人達。

 ただ普通に名前を名乗っただけなのに、それほど驚かれるとは……



「えっ? そんなに俺の名前が変でしたか……?」



 しどろもどろしながら、村人達は答える。



「まさか……な、なぁ!」



「そうだよ! 第一、見た目も違ければ、年齢が違う!!」



 “年齢”と聞いた、ある一人の村人が、ニヤニヤしながらライムに質問する。



「そうだ! 兄ちゃん、あんたの年齢はいくつなんだ? 教えてくれよ」



 ニヤニヤと笑う村人に、違和感を覚えながらも、ライムは自分の年齢を答えようとした。



(年齢の何がそんなおかしいんだ……?)



 しかし………



「俺の年齢は………


(あれっ?俺っていくつだったっけ…?)」



 考えても考えても、自分の年齢が出てこない。



(おかしいな。忘れるなんて……さっきまで、簡単に答えられたことだと思うんだけど)



 言葉に詰まるライムに、今度は別の村人が笑いながら尋ねた。



「じゃあ誕生日はどうだ? 兄ちゃん!」



 嘲笑うかのような、村人達の態度にライムは少しムッとするも、言われた通り自分の誕生日を思い出そうとするが……



「俺の誕生日は……


(なんでだ……誕生日も分からない……)」



 これも出てこない。年齢だけでなく、誕生日も思い出すことができないのだ。

 困り果てるライムの姿を見て、ゲラゲラと笑う村人達。

 見かねたトウゴが、村人達を叱りつける。



「こらこら! あまりからかうんじゃないよ! みんな知っててやってるくせに!!」



 ライムはこの不思議な状況、この謎の島の存在に恐怖を感じていた。



(俺の身に何が起きてるっていうんだ。おかしい……何かがおかしい……

 “いかいじん”、“しんりき”……?  一体何なんだこの島は……)






第2話 “止められた今” 完

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