表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/136

第19話「衝撃②」

 気の抜けた返事をするライムに、トウゴは嬉しそうにしながらライムの肩を組んだ。



「酒場だよ。祝杯をあげよう!」



「祝杯って……」



「正直、解放軍に狙われたときは、ライムは死んだと思った……それがまさか生きて帰ってくるどころか、倒してまでくるとはな! こんなに嬉しいことはねぇ!」



 満面の笑みを見せるトウゴに、戸惑っていたライムも思わずにやける。

 何だかトウゴの笑顔を見ていると、不思議とこちらも嬉しい気分となり、自然と笑みが溢れていた。


 トウゴはずっとライムの安否を気にしていたのだ。

 神力を使う解放軍には、歯向かうことはできず、ただ祈ることしかできない。

 その祈りが届いたのか、無事生きて帰ってきたライムに、トウゴは心の底から喜んでいた。



「心配すんな! 俺の奢りだ!!」



「悪いって……それにまだ俺お酒飲めないし……」



「いいんだよ。俺が行きたい気分なんだ! おまえはジュースでも飲んでればいい! おい、ウサギ。おまえも来るか?」



 陽気なトウゴの誘いも、ナヴィはきっぱりと断る。



「いや、僕は大丈夫。色々と旅の準備をしなきゃならないからね」



 その発言を聞いたライムは、ナヴィのことが不安で仕方がない。



「おいおい、大丈夫か? ナヴィが村をうろついてたら大騒ぎになるんじゃ……」



「大丈夫だよ! ちゃんとお金も持ってるし」



「そういう問題か? じゃあ、もしなんかあったら酒場に来てくれよ。俺はトウゴさんと、一緒にいるからさ」



 ライムに多少の不安は残るも、とりあえず話はまとまった。



「よし、じゃあ決まりだ! 行くぞライム!!」



 トウゴは半ば強引に、ライムを引き連れて、村の酒場へと入って行く。





 酒場に着くなり、トウゴは気軽にマスターに声をかけた。



「おう! マスター! 俺はいつものやつくれ。ライムは?」



「俺は……ジュースで」



 ライムは落ち着かない気分だった。あまりこういう場所は馴染めない。

 元の世界で未成年のライムには、当然のことだろう。

 

 トウゴ達だけでなく、酒場は多くの人で溢れていた。

 どの世界でも大人は酒が好きなんだということをライムは改めて知る。


 ライムとトウゴは色々な話をした。

 トウゴはこの島での生活の話。ライムは元の世界にいた時の自分の話。

 異世界の話は、トウゴの興味を引いたのか、えらく食いついていた様子だった。


 上機嫌になり、酒に酔ったトウゴはライムをよそに、酒場のカウンターに顔を埋めて、深い眠りへと入ってしまった。



(寝ちゃったよ……トウゴさん……)



 気持ち良さそうに寝るトウゴを起こすのも悪い気がする。ライムはどうすることもできない。


 そんなライムを見かねてか、酒場のマスターがライムに話しかけてきた。



「また寝ちまったのか! トウゴのやつ。気にすることはねぇぞ。いつものことだからな」



「そうなんですね。いつもこうだったなら、俺は構わないんですけど……」



 一人暇になったライムは、酒場の中をボーッと眺めていた。

 すると、次の瞬間……


 ライムの目に信じられないものが飛び込んでくる。



「──こ、これは………」



 ライムは衝撃で体が固まった。

 ライムは一点を見つめ、しばらくそこから動くことができなかった……





 一方、ナヴィは旅の準備を済ませ、酒場のまえでおとなしく座ってライムを待っていた。

 しばし待っていると、ライムが酒場から一人で外へと出てくる。



「あれ? ライム一人? トウゴさんは?」



「あぁ、俺一人だ。準備は済んだのか? ナヴィ」



 心なしかライムの表情がこわばって見える。

 気のせいか……?



「準備ばっちりだよ! 見て見て! 村の人からたくさん恵んでもらっちゃった。すごくない?」



 ナヴィが愛嬌を振る舞うも、素っ気なくライムが返す。



「そっか……よかったな。荷物、これを持ってけばいいのか?」



 長旅が予想されるため、リュックが用意されていた。中には色々と必要な物が入っているようだ。



「うん……ちょっと重いけど、そのリュックを持ってってくれると助かるよ」



「分かった。よし、行こう」



「行くって……今から……?」



「もちろんだ。行こう」



 外は日が暮れ始め、もうじき夜を迎えようとしていた。

 ナヴィは、なぜか急ぐライムに疑問を抱くも──


「何もこんな日が落ちた時に行かなくても……朝になってから出発すればいいんじゃないの?」



「いや、のんびりしてる暇はない。先を急ぎたい。だから行こう」



 ナヴィの意見など聞きもせず、ライムは村の外へと勝手に歩き始めてしまった。



「ちょっと──ライム!!」



 どうもライムの様子がおかしい。

 あの酒場を出てきてから、別人のようにライムは変わってしまった気がする。


 違和感しかなかったナヴィが、ライムを引き留めた。



「何かあったのかい? ライム。随分暗いと言うか、やたら急いでると言うか……なんだか人が変わっちゃったみたいだよ!」



 ナヴィがライムに尋ねるも、それでもライムは足を止めることをしない。

 話を聞くことすらせず、行き先も分からないままライムは林の中を歩き続けた。



「ねぇ、ライム! 何かあったんだろ? 教えてくれよ!! 話してくれよ!!」



 ナヴィの怒りのボルテージも上がりだした頃……

 さすがのライムも、悪気を感じたのか、ようやく足を止める。


 そして……



「じゃあナヴィ……聞くけど……


 

 “これ”の説明をしてくれないか……?」



 ライムはポケットから、ある一枚の紙を取り出した。

 くしゃくしゃに丸めてあった紙を、突きつけるようにしてナヴィに見せた。




「そ、それは……」






第19話 “衝撃” 完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ