第16話「ペア①」
ライムの木の上から狙撃する作戦も、ダイキに見破られ、ついにライムは解放軍に囲まれてしまう
ダイキの不気味な笑い声が響き渡る。
「へっへっへ! 見つけたぞ。異界人!! もう逃げも隠れもできねぇな!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第16話
“ペア”
完全に逃げ場を失ったライムは、ひたすら焦っていた。
(まずい……囲まれた。真っ向勝負で勝てるわけがない……)
ダイキは両手を大きく振りかぶった。
ダイキの腕は、ライムが神力を放つ時同様、光を発して輝いている。
「俺の神力を使えば、おまえなんか一撃だ。
俺の必殺技…“ブレイクハンマー”
こいつで、おまえを解放させてやろう!!」
ダイキの必殺技
“ブレイクハンマー”
全身全霊を込めた一撃を、ライムの頭上からお見舞いし、叩き潰すつもりだ。
この攻撃を食らえば一巻の終わりだろう。
ライムは攻撃をかわそうと、ダイキの腕の動きに注目していた。
しかし、思わぬところからダイキの攻撃は飛び出てくる……
なんとダイキは腕ではなく、右足を使い、思い切りライムの左足を蹴ったのだ。
両腕による神力の攻撃の素振りは単なる囮……ダイキはライムの足を第一に狙っていた。
巨体から放たれる重い蹴りの一撃に、ライムの体は吹き飛ぶ。
(ライム!!!)
茂みに隠れていたナヴィも、思わず声が出そうになる。
それほど強烈な一撃だった。
ダイキの神力は“両腕”から繰り広げられる。
足に神力は備わっていない。
だが──
「神力を使わずとも、これだけのダメージを与えることができる。これが俺とおまえの戦力の差だ!!」
そうダイキが笑いながら語るように、ライムとダイキには、かなりの体格差がある。
まず根本的に、ライムがダイキに殴りあいで勝てるわけがなかったのだ。
神力を使わずとも、ライムは今の攻撃だけで十分なほどの深傷を足に負った。
「くそっ……痛てぇ……」
吹き飛ばされたライムは、すぐさま立ち上がろうとしたが、足の激しい痛みにより、中々うまく立ち上がることができない。
ここでようやくライムは、ダイキの攻撃の意図に気が付いた。
(そういうことか……“これ”が狙いだったのか!)
いつに増して、ダイキは得意気な表情を見せていた。
「どうした? 立ちあがってみろ。くっくっく……」
ライムは蹴られた自分の左足を見た。
すると、一目見るからにも分かるほど、ライムの足はパンパンに腫れていた。
内出血を起こしている。
「おまえは、すばしっこいからな! また逃げられないように足を封じたのさ!」
ライムは完全に、ダイキのドツボにはまってしまっていた。
この足ではうまく走ることはできない。
先程のように、距離を取って逃げ回ることは不可能だろう。
ダイキはすでに勝利を確信している。
「あとはおまえは俺の神力でやられるだけ! なぁに、痛いのはほんの一瞬だ。そうすればおまえは解放されるんだからな!!
“ペア”を探す無謀な旅に出る必要もない。ありがたく思えばいい」
「ペア……?」
ダイキの口から、ライムの知らない言葉が飛び出す。
冥土の土産とばかりに、ダイキは“ペア”について語った。
「おまえ知らないのか? てっきり村人に教えてもらったのかと思ってたがな。まぁいい、教えてやろう!
おまえは別の世界から来た異界人だ。元の世界に戻るには、この島のどこかにいる、もう一人の自分──“ペア”を探さなければならない!」
もちろんライムはナヴィに教えてもらったため、より詳しく事情を知っている。
しかし、ライムはダイキの話を黙って、口を挟まずに聞いていた。
(ペアって……もう一人の“未来の自分”のことか。そこまでこいつらは知っているんだな!
でもこいつらは、そのペアが未来から来てることは恐らく知らないはず……そっくりな、もう一人の自分ってとこか)
どうやらダイキを含めた島の者は、ペアのことを少し勘違いしてるようだ。
それも当然である。
ナヴィのような、時の流れを知る者でなければ、真実にはたどり着かない。
ダイキは話を続けた。
「そんな途方に暮れる旅も、どちらか一方が死ねば、すべては終わる話。
だからおまえがここで死ねば、おまえのペアは救われる!! それが解放の意志だ!!」