第12話「時の塔①」
時のルールに引っ掛かり、この異世界に来たものは元の世界で……
“存在が消える”
過去の記憶を含めた、何もかもすべて。
その事実を知ったライムの目からは、思わず涙が溢れた。
目の前で泣くライムをナヴィは心配する。
「大丈夫かい? ライム」
「あぁ、ちょっと色々考えすぎたかな……」
ライムは涙を拭って、深呼吸をして気持ちを切り替えた。
「俺は存在しないと言われても……実際に俺はここにいるし、ちゃんと存在する!
だから俺は必ず元の世界に帰るんだ!! いなかったことなんかに、させやしない!!」
もちろん悲しい気持ちも大きかった……
しかし、このまま立ち止まってるわけにはいかない。
ライムは前を向いた。
帰りたいという気持ちが、より一層強さを増していた。
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第12話
“時の塔”
ライムは握りこぶしを作り、両手を掲げて気合いを入れ直す。
「よし、ナヴィ。俺は自分探しの旅に出るぞ!
果てしない旅になるとは思うけど、絶対見つけてやる! まずはどうしたらいいかな?」
ナヴィはライムの立ち直りの早さに驚いていた。
(すごい……ライム。思ったより強い、いい精神力を持っている)
ボーッと自分を見つめているナヴィに、ライムは聞き直す。
「ナヴィ? 聞いてるか?」
「あぁ、うん。ごめんごめん! ちゃんと聞いてるよ!
そうだなぁ……まずは“あそこ”を目指そう! あれが見えるかい? ライム」
ライムはナヴィの指差す方を見た。
その指差す遥か先には、この島には似つかないような、大きな建物が顔を出しているのが分かる。
随分と遠くにあるように思えるが、ここから見えるということは、かなりの高さがあるのだろう。
あんなに巨大な建物に関わらず、ライムは今初めてその存在に気が付いた。
暗い夜の間では、中々見えてこないのかもしれない。
「なんだあれ。今まであんな遠くの方、気にもしてなかったな……
この島は、自然で多く溢れてるんだったよな? あんな構造物も、この島にあるんだね!」
ライムが村で見てきた、木で出来た建物とは雰囲気からして、まるで違う。
あの巨大な構造物は極めて異質だ。
ナヴィが、その謎の構造物について説明する。
「あれは“時の塔”
確かにこの島の普通の家とはわけが違う。とても大事なものだからね」
「時の塔……?」
「そう。僕はあそこからやって来たんだよ! 時の支配者、そして僕の仲間達が、あの塔の中で生活をしている」
何度か耳にして来たが、まだ謎の存在であった
“時の支配者”
一体、ナヴィは何者なのか。
ライムはこの機会に尋ねてみることにした。
「ナヴィはあんな遠くからやって来たのか。それと……なぁ、ナヴィ。
“時の支配者”
これって一体何なんだ? ナヴィって何者なんだ?」
「そう言えば説明がまだだったね。こう見えて、僕は実は偉いんだよ?
時の支配者とは……
この異世界で、君達の世界の“時の流れ”を管理している者なんだ!」
「時の流れの管理……」
「僕の使命は、君達の世界の未来を守ること。時の流れに乱れが生じないか、監視する役目がある」
ライムは事態を把握し、眉をひそめた。
「時の流れの乱れ……それが現実に起きてしまったわけだ!!」
「そう。科学者が生み出した、未来へ行ける装置。
その装置により、“時空の歪み”が生じて、異世界と君達の世界が繋がってしまった……
だけど、このまま見過ごすわけにもいかない……そこで、この危機を救うために、“ある人物”が立ち上がったんだよ!!」
初耳の話に、考え込んで下を向いていたライムも、思わず顔をあげる。
「えっ、知らない話だな。その“ある人物”ってのは?」
ライムに問われたナヴィは、得意気に話した。
「それはね! 先代、時の支配者 “ラビ・ホワイト”様!! 僕のお兄ちゃんだよ」
「ナヴィのお兄さんが!? でも危機を救うって……どうやったんだ?」
得意気に語り、笑顔を見せていたナヴィであったが、突如として笑顔は消える。
そして、今度は苦い顔で、ナヴィはライムに語った。
「時の流れの危機を感じたラビ様はひとつの策を取った。それは……
時の軸、“今”という時を止めること
しかし、時の軸を止めても、未来は動き続けるため、君達のような異世界に来る犠牲者はどんどん増えてく一方だ。
一見、何の解決になっていないように思えるが、“今”を止めれば、どんな未来が待ち受けていようとも、それは現実のものとはならない!
だからこの危機も、時を止めてる間は、何が起きても問題ないってわけなんだよ!」
ライムは、以前ナヴィが話そうとして、一旦中断した
時の軸、“今”を止めた理由を、ここでようやく知ることとなる。
けれども、ライムは納得がいかなかった。
“今”を止めてさえいれば、未来ならどうなってもいいのか?
そう思ったからだ。確かに、その通りかもしれない。
ライムは思いをナヴィにぶつけた。
「現実にならないから、とりあえずはそれでいいってこと?
なんか腑に落ちないな……それってその場凌ぎの苦肉の策としか思えないんだけど、どうなんだ!?」
ライムに厳しい口調で言われたナヴィは、更に苦しそうな表情を浮かべる。
「確かにそうだね。それでは解決には至らない……だけど、ラビ様を責めないで欲しい!
時を止めること……これは簡単なことではない。これしか手段はなかったんだよ……」
どんどん表情が暗くなるナヴィ。
それでもナヴィは、ライムに話を続けた。
「ラビ様は……自分の命と引き換えに時の軸を止めた!! それほどまでに時を止めるということは難しいことなんだ」
「──じゃあ、ナヴィの兄ちゃんは……」
「自分の命を投げ出して、君達の世界に行ったよ。時を止めるためにね……命を賭けて、世界を救いに行ったんだよ!!」