第117話「くせ者揃い③」
ミツルギが加わったことにより、一気にパワーバランスは変化する。
先程とは真逆のものとなり、今度は圧倒的に、こちら側が圧し始めた。
ミサキはその手応えを感じ取る。
(いける……これならいけるわ!! きっとこれで、向こうの戦意は喪失するはず!!)
キリシマが龍の姿で空を舞う限り、恐らく解放軍は増え続けるだろう。
しかし、圧倒的な力の差をこちら側が見せつけることができれば、解放軍も諦め、戦意は喪失するはず……ミサキはそう考えていた。
まさにミサキの思惑通りに事は進み始め、敵の解放軍達は、どんどん弱気になっていく。
「な、なんだ……こいつらの強さは……俺達じゃ、相手にならねぇ!!」
中には敵わないと悟り、逃げ出す者も出始めた。
このままのペースでいけば、一蹴できる……
ミサキがそう、気を許した──その時。
ナヴィがミサキの名を大声で叫んだ。
「ミサキ!! ライムが危ない!!」
ナヴィは地上の解放軍はミサキ達に任せ、上空のライムの戦いを見続けていた。
そのナヴィがミサキを呼んでいる。
ミサキは空を見上げ、ライムの姿を確認した。
「ぐっ……くそっ! 離せ……!!」
そこには苦しむライムの姿がある。
ライムは龍の長い尻尾の餌食となり、巻き付けられるような形で、縛りあげられていたのだ。
キリシマは苦しむライムを見て、笑い声が溢れる。
相手は自分の息子のはずだが……
もはや今のライムとキリシマに、親子の関係性は──ない。
「はっはっは。そのまま下にまた叩きつけてやろう! 今度は彼女はもう助けに来ない……先に解放されておけ! ライム!!
安心しろ。直に私もいく……じゃあな。ライム!!」
キリシマはライムを思いっきり、地面へと放り投げた。
ナヴィに事前に知らされていたミサキは、全速力でライムの落下地点へと急ぐ。
ミサキは解放軍と戦っている間に、知らず知らずのうちに、ライム達とはかなり離れた距離へと来てしまっていたようだ。
「ライムとの距離が遠い……! このままでは……間に合わない……!!」
どう足掻いても、間に合わない。
この高さ……この落ちる速度……
ライムはそのまま地面へと叩きつけられ…………
死ぬ。
ミサキが諦めかけた、その時──
巨大な“チャクラム”が、猛スピードでミサキの体を横切り、ライム目掛けて飛んでいった。
明らかにこれは、レオナの神力によるものだ。
「斬られる痛みはあるだろうけど……落ちて死ぬよりはマシだろ」
フェニックスが解かれていたライムは、地面に落ちるすれすれの所で、横からのチャクラムの攻撃を受けた。
するとライムの体は、真下への方向から、チャクラムの飛ぶ、地面と水平の“横方向”へと移動方向は変わり、そのままチャクラムに引きずられるようにして運ばれていく。
レオナのおかげで、なんとか地面への衝突は防ぐことはできた。
だが、このままでは死ぬことはないにしても、ライムはかなりのダメージを受けてしまう……
ミサキはそう、ライムの身を心配したが、チャクラムが飛んだ先には、ダイキが居合わせている。
チャクラムに引きずられるライムの存在に気づいたダイキは、自慢の体と鋼鉄のハンマーの神力の特性を活かし、斬りつけられるライムとチャクラムを同時に受け止めたのだ。
「フン……こんなもの。俺のボディと神力の前では、効かんわ!!」
チャクラムはダイキの鋼鉄の力によって力を失った。ダイキはライムを片手でがっしりと捕まえている。
ナヴィはライムを助けたダイキに驚いていた。
まさかダイキがそこまでして、ライムを助けるとは思ってもみない。
「ダイキ……おまえ……」
そして、ミサキもレオナの取った行動に驚きを隠せなかった。
あれほどまで憎かったレオナが、ライムを助ける瞬間を目の当たりにし、正直ミサキも戸惑っている。
「レオナ、あんたまでどうして……」
「さぁね。一時の気の迷いみたいなもんだよ! あんたらを私は憎んでたはずだけど、それ以上にキリシマの存在に虫酸が走るんだよ!! せっかく溜めた力だったのに……まさかこんなことに使うはめになるとは」
キリシマを嫌うミツルギは当然だが、元々ダイキとレオナは、キリシマを崇拝して解放軍に入ったわけではない。
宗教染みた大量のキリシマ信者と戦ってるうちに、いつの間にか二人はキリシマに嫌悪感を抱き始めていた。
言葉にこそ出しはしないが、次第に心の中ではライムを応援するほどにまでなっていたのだ。
ライムを捕まえたダイキは、そっとライムを地面に置き、仰向けで寝かせた。
ライムの息は微かにある。どうやら気を失っているだけのようだ。
「ライム!! 大丈夫!?」
ミサキとナヴィがライムの元に駆け寄り、声をかけた。
ライムの周りに群れができたところで、ここぞとばかりに力を溜めていた、キリシマが攻撃を仕掛ける。
「まとめて全員、解放してやる!!」
キリシマは雄叫びと共に、巨大な火の玉を放った。
ライム達を囲む、すべてを覆い尽くすほどの巨大な火の玉が直撃する……
そう思われた矢先、こちらも力を溜めていた剣の達人ミツルギが、神力・ソードで、巨大な火の玉を真っ二つに切り裂いた。
見事、ミツルギがキリシマの攻撃からみんなを守りぬく。
ミツルギはキリシマに向かって吠えた。
「誰が解放されるって? それどころか、俺がおまえを解放してやるよキリシマ!!」
命からがらにライムを守る幾人もの神力使いの存在に、キリシマは困惑していた。
「こいつらは……一体何なんだ……なぜそこまでしてライムを守る!!」
決して全員が、ライムを守るためにやっていたわけではない。
それぞれの思いは違えど、結果的にライムを守る形となっていたのだ。
バラバラのはずのくせ者達が、今──ひとつになろうとしていた。
第117話 “くせ者揃い” 完




