第1話「止められた今①」
過去、現在、未来
時の流れは主に、この3つに分類される。
“今”という時があるからこそ、過去があり、未来が存在するのだ。
過去は決して取り戻すことはできない。しかし、未来は無限の可能性を秘めている。
そんな時の流れを見続ける者がいた。それが自分の使命であるからだ。
(そろそろ彼を止めなければならない……私は彼の世界に行き
──“今”を止める!! もうこれしか手段はない)
この者の決断は、計り知れないものがあった。
流れ続けていることが当たり前の“時”を止める。
(あとのことは任せた……“ナビィ”
まだおまえは幼いが、いずれおまえは私を継ぐ者、必ずやってのける!
救世主は現れる……その者と己を信じ、未来を切り開け!ナヴィ!!)
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第1話
“止められた今”
ジリリリリーーー! と、目覚ましのアラームの大きな音が鳴り響く。
「ん、う~ん……」
寝ぼけながらに、布団から手だけを出して伸ばし、目覚ましのアラームを止めた。
「もう少し……寝させて……」
また眠りにつこうとしたその時、母親の怒鳴り声が耳の鼓膜を震わす。
「来夢!! いつまで寝てるの! 起きなさい!」
母親の大声に、慌てて飛び起きた男の子“ライム”は、真っ先に時計の時刻を確認した。
「こ、こんな時間!? やばい、また遅刻だ!!」
急いでライムは学校へ行く準備を始め、制服に着替える。着替えながらも、ブツブツと母親に文句を垂れた。
「なんで起こしてくれなかったんだよ!」
「何度も起こしたわよ! それでも起きてこなかったのはあなたでしょ。朝ごはんは?」
「ごめん、いらない。もうそんな時間なくて……」
ものの5分もしないうちに準備を済ませ、ライムは自転車の鍵を手に取った。
靴を履き、すぐに家を出ようとしたライムに母親が注意を促す。
「急ぐのは分かるけど、気を付けなさいよ!」
「分かってるって、大丈夫だよ。じゃあ、いってきます!」
ライムは自転車に乗り、全速力で学校へと向かった。
“桐島 来夢” 16歳
どこにでもいるような、平凡な男子高校生だ。
幼い頃に父親を亡くし、母子家庭でここまで育ってきた。
父親の記憶は全くといっていいほど残っていない。
ライムは貧しいながらも、行きたかった高校に進学させてくれた母親に感謝をしている。
毎日、何不自由ない幸せな生活を送っていた。
「このまま行けば間に合いそうだな!」
ライムは腕時計をチラッと見て、時刻を確かめた。
いいペースだ。このペースで進めば、遅刻は免れそうだ。
しかし…………
「あれっ? なんだ? 自転車のペダルが急に重く……」
突然、自転車の動きが悪くなる。
どうやらタイヤがパンクしたのが原因のようだ。
昨日空気を入れる予定が、すっかりライムは忘れていたのを思い出した。
「これじゃ、走った方が早いんじゃないか? 今日遅刻したら本当にまずいんだよな」
すでに自転車でかなりの距離を進んでいたため、学校まではあと少し。
ライムはちょうど近くにあったコンビニに、申し訳ない気持ちになりながらも自転車を置いて、自らの足で走り出した。
「はぁ……はぁ……朝からハードだ」
これでも足の速さには自信がある。
それゆえに、決して運動音痴ではない。ライムは自分のことをそう分析していた。
朝ご飯も食べずに、急いできた甲斐があった。
もうすぐチャイムが鳴る時刻だが、学校は目の前だ。
数メートル先にある、あの交差点を越えれば、学校に到着する。
「よ、よし。なんとかギリギリ間に合うな」
ライムが安心した、その時だった。
ライムが走る目の前に、何やら“不思議なもの”がある……
異変を感じたライムは、一度足を止めた。
「──ん? なんだこれ?」
何やら、目の前がやたらとぼんやりしているのだ。
ライムは目を擦った。それでもその不思議な、ぼんやりとしたものが消えることはない。
自分の目がおかしくなってしまったのかと思い、ライムは横の道路に目をやった。
だが、そこには何も変わらぬ普通のいつもの道なりが続いている。
やはり自分の目がおかしいのではない。
はっきりとはしないが、目の前に不思議な“何か”がそこにはあるのだ。
「なんでここだけぼんやりと……何かがあるのか?」
ライムの疑いが確信へと変わった、その瞬間。
そのぼんやりした“何か”が突如、歪み始めた。
「!!! 今度は歪んでる……?」
ついついライムが見とれてしまっていると、今度は歪みの中に黒いひとつの点があるのが分かった。
その黒い点は、どんどん広がって大きくなり続け、点は次第に“空間”へと姿を変えていく。
ライムは嫌な予感がした。
慌ててその空間から離れようと走り出すも……
時すでに遅し。
黒い空間はライムを引きずり込むように吸い込んでいく。
「な、なんだこの力!! だ、だめだ! 吸い込まれる!!」
キーンコーン カーンコーン
無情にも学校のチャイムが鳴り響いた。
だが、もはや今のライムはそれどころではない。
学校へ行くどころの話ではなくなってしまっている……
体もろとも空間の中へと入り込み、ライムの姿は闇へと完全に消えていった。
ライムは謎の空間に飲み込まれたと同時に、意識を失った………