第零話:良い魔法使いの条件
イオにとって、父との思い出はそこまで多くない。
優しい父親で、イオが五歳のときまで二人で一緒に暮らしていた。ただ幼かったから、記憶が曖昧で思い出らしいことを覚えていないだけなのだろう。
だが今でも、イオが強く覚えていることがある。
ある日、父がこんな話をした。
「いいかい、大きくなったらみんなを助けられる人間になりなさい」
「みんなを?」
「そう。家族や友達だけじゃない。隣村の人も、今日出会ったばかりの人も、まだ出会っていない誰かも、みんなを助けられるような人間を目指しなさい」
それはおとぎ話に登場する、英雄と呼ばれる人間の在り方だ。
だが幼いイオはその在り方に無邪気に憧れた。
「……なれるかな?」
「ああ、きっとね。難しいかもしれないけれど、目指すというのは大切なことだ。そのためにはまず、誰に対しても優しくすること。それくらいなら、イオにも出来るだろう?」
「たぶん」
「そうしなさい。そうしていれば、きっと彼らはお前に力を貸してくれる」
「……?」
「そして善いことを肯定し、悪いことを否定するんだ。誰かの為を思って行動し、誰かを助ける。善い心を持ち、善い行いをし、善い生き方をする」
このとき、父がどんな顔をしていたのかやはり覚えていない。だが不器用に頭を撫でる手の大きさと、得意げな声色ははっきり思い出せる。
「――それが、良い魔法使いの条件だ」
まったり更新していこうと思います。
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