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神奈備ノ巫女 御巫転移譚  作者: 表裏トンテキ
一章 神奈備ノ巫女
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第89話 対処方法 前

「そういえば和佐、アンタ前は自爆する為に取り付いた、って言ってたけど、その時はどうしたのよ」


『自爆!?』


 示し合わせたかのように同時に声を上げたのは祭支局関係者一同。そういえば、和佐は彼女達には自爆しようとした事を伝えたが、それ以外の人間には言っていない。


「あん時は今ほど状況が複雑じゃなかったんだ。黒鯨の高度が低く、浮遊している温羅の数が多くてな、それを足場にしながら高速移動で接近した。んだが、先日見た黒鯨は、以前よりも高所にいた。学習したんだろうな、取り付かれないように」

「そんな方法で……、防衛はどうしてたの? やっぱり自衛軍?」

「いや、結界を閉じた」

「は!? ちょっと待って、じゃあ結界の外で戦ったって言うの!?」

「そうなるな。流石に結界内に入れると、一度に入ってくる数は少ないだろうが、それが延々と続く。少しでも防衛線が決壊すれば、そこから一気に雪崩れ込まれる危険性があったから、俺が結界外出た時点で結界を閉じたんだ」

「それってつまり……援護も防御も無しって事?」

「そんな顔すんなよ。あん時は今の自衛軍程装備が整ってなかったし、下手に手を出されると足手まといにすらなったから、俺が結界を閉じさせたんだ。あぁくそ……話が脱線した。今はそんな事はどうでもいいんだよ」

「いや、いい訳ないでしょ! 自爆って何!? 私、初めて聞いたわよ!」


 ただでさえ遅々として進まない話し合いにも関わらず、いちいち言葉の端で過剰に反応する菫や時彦に、和佐はメンドくさそうな表情を作る。


「うるっさいな、一から十まで知ってないと死ぬのかよめんどくせぇ。今は、そんな事、どうでも、いいんだよ!」


 対する和佐の反応は辛辣なものだ。さっさと話を進めたい、顔にはそう書かれているが、その意図を汲み取ってくれない大人達にイラついているのか。


「逆に、和佐君の投擲はどのくらいの距離なら問題無く届きますか? ダメージを与える目的ではなく、あくまで届かせる事が目的ですが」

「ただ投げるだけでいいなら、洸力の強化と神立で四百メートルくらいじゃないか? ただ、そこまでいくと最後の方は勢いが無くて刺さらない可能性もあるし、何より上に投げてる、ってのが問題だ」

「重力で失速……高高度を保たれれば辛いですね」

「やっぱり実際に戦ってみないと作戦が練りづらいですね。ここはぶっつけ本番に賭けるのも手では?」

「……お前そんなにギャンブラーだったか?」

 鈴音の過激な発言を前に、和佐は小さく呆れている。が、彼女の発言にぉ一理はある。というより、現時点ではそれくらいしかやりようが無い。

 たった一度の邂逅で何が分かるのか。それも、和佐はともかく、他の五人については攻撃に曝されただけだ。対処をしようにも、情報が足り無さ過ぎる。

 この街はおろか、国自体の命運を賭けた戦いになる。失敗は許されない分、彼女達にのしかかるプレッシャーは重い。


「……そういえば、本局への報告はどうなさっているんですか?」

「本局? してるわよ、あまり良い返事は返って来ないけど」


 基本、各支部と本局は仲が良くない。利権渦巻く本局と、あくまで役目を全うしようとする支部には大きな認識の乖離が見られるからだ。……支部の中にも利権目当ての者はいるが、それでも本局程ではない。


「援軍の要請などは……」

「一応、増員は打診してみたがね、こちらの話に信憑性が持てず、ただでさえ忙しい本局から人員を割く事は出来ないとの事だ。全く、何がどう忙しいのやら」

「そうは言っても、本局のある近畿では温羅の出現頻度は他の知育よりも比較的高い傾向にあります。増援を渋る気持ちも分からないでもありません。……まぁ、ここ半年に限れば、おそらくここ佐曇は日本で一番温羅が出現する場所でしょうが」


 時彦の不満げな口調に、菫が一応のフォローを入れるものの、その言葉尻にはやはり不満が混じっている。


「人間同士で足を引っ張りあって……、そりゃあ二百年経っても変わらないわけだ」


 嘲笑か、呆れか、はたまた後悔か。その口調に含まれる感情を感じ取る事は、ここにいる誰にも出来はしない。

 和佐の胸の内は誰にも分からないとして、結局本局からの増援は無い。それは、この街の戦力だけで黒鯨に立ち向かえ、という事だ。同時に、この事実はこの街に滅べと言うに等しい。本局が時彦の報告した黒鯨をどう思っているのかは分からないが、一地方の戦力だけで敵の最大戦力である天至型に敵う筈が無い。当然、それを理解したうえでの判断だろう。


「随分と嫌われてんな」

「……鴻川は色んな場所で疎まれているからな。祖先が目覚ましい活躍をした事で、短期間に大きな力を身に付けた。それに嫉妬する者は一人や二人だけではない」

「目覚ましい活躍、ね」


 何かを言いたげな視線を送るも、それ以上和佐の口からその件についての発言は無かった。

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