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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サキャティック・フリンドーの過去

作者: オニヒトデ

美しい紫陽花の咲く季節、ただ降りしきる雨の中2人の親子は泣き叫んでいた、その意味とは_。

あれはいつ頃の話だろう、私がしっかりしていない頃か、笑ってしまう程に酷かった話だ。

あれは私にとって杞憂であり、まるでドロドロとした影である。

無き母をマザーに重ねながら恨み言を呟いた。


私の父はとても素晴らしかった、聡明で、しっかり者だった。

母を亡くしてからも私を支えてくれた、地下へ移住した時にも私を忘れないでいてくれた。

けれど母はもう居ない。

人には到底話せるはずもない、母を失った経緯を思い出すことにしよう。


それは平和な昼下がり、無き祖先達が建てた大きく古びた一軒家の中で1つの黒い影を見た事から始まる。

夕暮れ時の休日、家の中で不思議にも私の足元の影の伸びる先にくっきりとしたその「影」は目に飛び込んだ。

私が育てていたオジギソウはその「影」が触れた途端に枯れ、散り散りと畳の上に落ちた。

それを興味深そうに思ってしまったのだろう、私は自分から伸びる影の先に進んでいたのだ。

そんな中、母が買い物から帰ってきて「ぎくり」と驚いた私をにっこりと見て何かを言おうとしたのだろう。

しかしその声は影の存在により邪魔された。

「ど、泥棒!?」

と悲鳴混じりの大声をあげる、


影は悲鳴の聴こえる方を向いて、私を真っ先に認知した。

そんな悲鳴を聞きつけて父が駆けつけてきた、多分自動車を車庫に入れてたのだろう。

しかし父が着いた頃には、母は私を庇って影の犠牲となった。

身体中に浴びた影の侵食から逃すために母は、背から抱きしめた私を玄関の方へ突き放した。


父は唖然として、慌てふためく私を受け止めていた。しかし心配の意は母にしか向いていず、ただ口を開けていた。

影と半分以上同化し、もはや正気では無い母はただ悲痛に喘いでいて、私を見て灰色の涙を流した。

父は何かを決意したのだろう、母が何かを叫んだ拍子に、父は私に重く黒い剣を握らせてきた。

何かを察していた私は、ただ首を横に振った、父はそんな私を咎めてしまう。

「サキャがカティをああしてしまった、サキャが居なければカティは助かった、ならサキャが落とし前をつけるべきだろう」

私は泣いて叫んで、母と父を見て訴えた、私は悪くない、悪くなんかない、悪いのは変なモンスター、私はなにもやってない。

そんな事を言ってたっけな。

父は恐ろしい形相で叱りつける。


「信じろ、お前が悪い事を信じろ、分かれよ、分かってくれよ」

父は私に罪を擦り付けた、それに納得してしまった自分がそこに居た。

今よりも重い体重を剣に傾けて、母だったモノの上から影と一緒に切りつけた。

切った瞬間に影になりきれなかった血液と石油のような、ぬめりのある影の部分が母の肉と共に飛び散る。

変にぐにゃりとした感覚、身体の浮遊感、剣先が黒くなる。

そんな色々な「シーン」を思い出していたが、やはり私が1番鮮明に覚えてるのは。

父を見て、鼻水と影と涙を流して、ただ鬼の形相を向ける母の憎悪の表情だった。

アレほど酷いワンシーンは今後一生観たくはない。

映画の名女優でもあんな顔は再現できないだろう、ただそれほどに強く、べったりと記憶に残っている。

誰にも話すことの無い贖罪は、ここでひとまずおわり。

…司令官、私はあなたに、身を委ねるだけです。

それは父のスペアの如く、ただの代わり身である事は変わらないけれど。


ただ守り続けます。


またこうしてマザーの元にて私は懺悔を始めた。

対して信じてもない、信じる必要など無いその代わり身はもぬけの殻だから、彼女に罪を重ねるのは誰もがやるのだろう。

なにも無い、信じられもしない


だからこそ私は今日も此処に居た。


本日は父の稽古の日々を語ろうか。

まずは走ることからそれは始まった。

古い屋敷から出て都心まで走る、街中で喚き出す黒い物体を横目に父と駆け抜けた。

半日も走り続け、立ち止まったら1ヶ月部屋に閉じ込められる。

私は1度も立ち止まらず、無心ではち切れそうな筋肉を動かした。

そのおかげで折檻は受けなかった、これは私の判断力のおかげなのだろう。

何故なら父はほんとに閉じ込めようとしていたから、死ぬよりも惨い苦しさを選んだ私は幸福か。

半日地面を走り抜けたら厳しい二刀流の技法を身体に叩きつけられた。

正直、こっちのほうが辛かった。

一つの動きに付け合せは1つのみ、復習は許されない、ただ精神の問題だった。

走った後の目眩や嘔吐感と、ただ堪えなければならない説明、集中して耳を澄ませてただ腕を磨いた。

1度でも動きを間違えれば食事は出されず、私語を発したら罰として瞼を板で叩きつけられた。

極限状態で行う二刀流の稽古は、ただ苦しかった。

1年もすれば私はただ言うことを聞く「影」の様に静かに苦痛を味わった。

そんな苦しみで凝固した姿を見て、朝を迎えた父は悲しそうな目で私を見下ろした。

本来なら育つはずの身体を、消耗してまで日々稽古に費やした私は暴走しそうな涙腺をひたすら押さえつけて声だけを出していた。


梅雨の酷い時期、それは私が好きな季節。

雨が降れば半日の悲鳴を聴かずに済み、遅れがちな勉学に集中出来る時間が増える。

しかし、ひんやりとして心地よい朝の雨の音と共に父は「出かけよう」と言った。

遂には雨の日でも走るのかと、残念な気持ちになる。

夏の暑苦しい季節を前にしたオアシスが一瞬にして凍りつく。


雨なのに出かけた私と父は、影の出現により減った人の世界に寂しく残る公園に訪れていた。

人の手も影の手も及んでいない塵だらけの公園は美しい紫陽花に彩られていて、鮮明に色を発している。

この光景は普通の女の子になれなかった私を脅かす、それでも好きだった。

ふと腰に回る大きな手、ビクリと怯える私。

いつも板叩きの時だけ頬に触れる父の大きな手だと一瞬で察知した。

必死で目を覆って、雨の中真っ黄色なレインコートを着たまま屈んだ私は、小学生の様に見えただろう、父は何かを言っていた。

重くなる雨粒と共に私は我慢して、我慢して抑えて、辛かった感情を号泣を雨に擦り付けた。

父もそれに感化されて叫んだ。


二人とも泣いていた、私はそう思う。

父は私にしか擦り付けられない罪があった、そんなの私にしか解らない大変些細な出来事。

マザーに祈って、重たい剣と刀を腰から下げた身体を起き上がらせて背を向けた。


あの世なんて無い、それは至極当然。

亡くなったら無いだけ、灰色の顔になるだけ。

だから私は灰色となってしまう、そんな者達を助ける道を選ばされた。

黒にも灰色にもなれなかった、母の様にならないために。


力無き者に手を差し伸べるのは父に教わった「正義」。


今日か明日で此処に訪れる必要も無くなる。

貴方の代わり身に罪を吐き出す事も無くなる、覚悟を決めて息を吐いて。

忠誠を誓った十字架をぶら下げて微かな視界にマザーを映した。


あの頃、いつの日か父は膝を地につけていた。

信じられない光景、荒廃しきった屋敷と朽木に挟まれた庭に私たちは居た。

父を超えた、私は確信した、飛び抜けて、初めて得たその感情は。

「怒り」

刹那の如く私は父に追い打ちをかけた。

2度、3度、10度と竹刀を父にぶつけた。

次第に無くなるその感情と視界は、汚い地に耳をつけている父に当てられた。

曲がった鼻に折れた歯、焦りで止まらぬ嗚咽、父は確実に敗北した。

超えてやった、負かしてやった、抵抗もせず父は喉で微かに息をした。

父が懐に持っている剣を抜き取り、私は構える。

型は二刀流、西洋の剣とは合わないその戦闘技法は私に合わない力を植え付けた。

だからこそ今此処で父を、父が得た知により、娘に殺される。

長い修行で得たその「神色自若」な気品と混じった「残酷」は。

いつしか私の裏、普段見えるはずもない「心」は狂気と無意味な殺戮に思考が傾いていた。

気味の悪い笑みを乗せて、‐マザー‐を殺した剣を再び握りしめて、父に振りかざした。


父に剣先は当たらず、髪が僅かに切り落ちる程だった。

仰向けになり、にわかに降り頻る虹のかかった宙を見上げていた、頬の傷に私の涙がのさばる。

出来なかった、父を殺めるだなんて。

私はもう「親殺し」にはなりたくなかった、しかし、過去の贖罪は「父の身勝手」故にある。

「父が死ぬ」事で私は初めて救われる。

怒りはすぐさま消えて、悲しさだけが私を取り囲む。

身勝手な父は、私の額に手を当てて、ただ笑った。

馬乗りになったまま、枯れた紫陽花の遠い先で世の不条理をただ問いただした。


父が言った「遠い先で、俺達はまたあの日の紫陽花を見よう、約束しよう」

それは信じることを選ばなかった「父の決断」だった。

私はその約束を信じた、まともに喋れない程に崩れた顔を見せてまで、私は信じた。

あの日々で得た事は、今の私の強さを信じさせてくれるのだ。


美化された話なんかじゃない、これらは全て事実、私が副官になり得てもおかしくはない武勇伝。

その日は剣と刀を降ろしたまま、マザーの前でエンブレムを付けた。


「母、私は強くなったよ、だからいつか」


母の墓石に、行くから、信じててね。


我らへの反抗を示す者は誰であろうと[影]ですらも極刑。

我ら人類の反撃の旗にて塵と化し、その忌々しき歴史の1文字を我らが変えてみせようぞ。


軍旗は空高く靡くと共に、弱き観衆の喧騒は軍の士気を高める。


その小さき背は私を後押しする、司令官の勇姿は私を動かしてくれる。

良き部下は私を前進させる、その声たちを聴けば武者震いが起きる。


「マザー」

誓ったあの日の忠誠を私は信じ続け、刀を手に取った。


私が副官昇格したと伝えた、あの日の父の笑顔はなかなかに面白いものがある。

高い酒に美味しい手料理、景色の代わりに父との会話。

和気藹々とした雰囲気に突然父が黙りを決め込む。

顔を伺うと、サプライズボックスを渡された様な感覚に陥る。

「父上、これは刀ですか?」

それは私が握らされる事のなかった「日本刀」

変に心が浮き上がって口元が緩む。

父上は、「気にするな俺の二刀流「二天一竜」は刀と剣を合わせてこそ真価を発揮するものだ、お前は更に高みを目指す事になるだけだ。」


だなんて、早口で言い放った、けれどそんな父の様子が嬉しくて。

「はい、大切に使います、お父さん」

なんて言ってしまった。


影、それは私たちと等き未知の生命体、害ある来訪者。

そんな影は私を見下す。

大きさ20mの巨体を我ら軍は10mまで削ることが出来た。

しかし薬が切れ、負傷者も出始めている。

私は巨大な影に向かって走りだす。

司令官の「静止」の声も聞かず。

父から得たこの戦闘技法は、僅かながらに私を強くさせた。

その(僅か)により私は前身し続ける。

散り散りになった影たちを黒剣を用いて切りつけながら巨大な影の影元に立つ。

「ふふ、随分と可愛らしいのね、気に入ったわ」


「今日は貴方だけにあげるわ!この必殺を!

死して尚暗闇を、信じなさい!」


「二天一竜・国境無き舞踊…!」

空気と気温、全てが一瞬の事が私の瞼の裏にクッキリと映し出される。

あの日見た紫陽花の様な赤色と青色、新生児は知らないあの日の空色を。

「…地獄を信じて」


カチャリ、と鞘に納める。

影は黒刀と黒剣の元にて一巻の終わり、内部から大量に破裂し、その、影響で起こる風が背から伝わってくる。

瞑想を使いながら2つの獲物を扱う技。

私は背丈のでかい女に抱えられて膝が曲がる。

微かに澱んだ視界の先で母なる者の姿がクッキリと映し出される。

それは隼の様に高く消えていって、司令官と重なっていく。


微睡む意識と贖罪は、影を殲滅するまで終わらない。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

この後この少女は立派な軍人として 副官の座に付きます。

けれど影に支配された世界で、強く生きられるかどうかは彼女次第です。

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