出会いは勘違いから
空家になってずいぶん経つのに、外観も中もそんなに痛んでなかった事にビックリした。
聞くと、馴染み客の有志でこの建物を管理してたという。
って、どんだけ慕われていたんだろう?おじいちゃんってば。
ますます、この店を復活させなきゃって思う。
でも……
『あなたには、無理よ。ちゃんとした高校に行きなさい』
母さんの声が、あたしの手を止めさせる。
そもそも普通の女子高生をやってたのは、母さんがあたしの進路を妨害したせいだ。
もともとの進路希望は、高卒資格も取れる製菓専門学校だったんだけど、母さんが反対したせいで受験すら出来なかった。
反対だけならまだ良かったんだ。
母さんは、周りも巻き込んで騒動にまで発展させた。
そこまでして、反対する理由なんて1つしか思い付かない。
母さんは、自分が思った通りの人生をあたしが歩まないと許さない人だから。
でも、あたしは諦めきれなかった。
入学後に始めたバイト代をこっそり貯めて、おじいちゃんの元馴染み客や元取引先の人たちの協力もあって、ここまできた。
入った高校は、色々あって結局中退した。
この事で、母さんも反省してくれればいいんだけど。
そんな事を考えながら荷物をほどいていると、小さくか弱い音をあたしの耳が捕らえた。
「え? だ、誰? って、いうか……あたしだけしか、いな、い……はず」
でも、聞こえる。
これは……泣き声?
導かれるように家の中を歩いて、たどり着いた部屋。
そこから聞こえる声と部屋の位置にあたしは、ゾクッとした。
「ここって、『あかずの間』じゃない。なんで?」
どうやっても開けることが出来なかった部屋が1つだけある。
そう聞かされていたけど、まさか……ゆ、ゆ、うれい?
夢だ、夢なんだ。
早く部屋に戻って……
なんて意味不明な事を考えながら、その場所から離れた。