第四話 300マネーやるから!
「──さあ、我と共に冒険の旅に旅立とうではないか!」
「断る」
「何いっ!?」
魔王は、まるで雷を受けたような──大げさすぎるようにも思える驚き方をした。
こいつ、結構面白い反応するな。
「な、何故だ! この我が直々に貴様を鍛えてやろうと言っているのだぞ!」
「でも、結局殺すんだろ?」
「それはまぁ……そうだが?」
いや何でちょっと不思議そうな顔してんだよ。
「ふざけんな。だったら死ぬのがちょっと早いか遅いかの違いだろ。だったら俺は農家として死ぬ」
何よりも、魔王の玩具にされるなんて、耐えられない。
俺は村の方に向かって歩き出した。さあ帰ろう。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 行かないと言うならば人類絶滅だぞ! それでもいいのか!?」
魔王は、俺の服にしがみついて必死で止めにきた。体は小さくても流石は魔王、全くもって前に進めない。
「ちっ……ご勝手にどーぞ。あ、出来れば痛みを感じないように殺してくださいね」
一応要望を伝えてみた。これは間違いなく全人類の共通の意思だろう。
常軌を逸したドMがいればわからないが。
「いや……やはり駄目だ。勇者を倒してからでないと、世界征服した気がしない!」
「なにその拘り!?」
まあ、仮にも、今まで二度も勇者に倒されてきたからな。一度くらい、という気持ちもわからないでもないが。
「だから、頼む! 我と一緒に魔王城まで旅しよう! そして我と戦い無惨に殺されてくれ!」
「断る!」
「何いっ!?」
まるでリプレイのような、本日二度目のやり取りだった。変わったところと言えば、断る、を少し強めに言ってみた位だろうか。無惨に、のところでちょっとイラッとしたからな。
しかし、その後も魔王の勧誘は続き──
「農家よりも勇者の方が楽しいぞ!」
「死と隣り合わせの何が楽しいんだよ!」
「もしかしたら、運良く我を倒せるかもしれない!」
「その運良くの確率が低すぎるよね!? てか多分0%切ってるぞ!」
「300マネーやるから!」
「魔王なのにしょぼいな!?」
──とまあ、いちいち突っ込みをいれたり、拒否したりするのもいい加減疲れた。しかし、しがみ付かれていて動けたもんじゃない。
そこで俺は、一つの解決策を見つけ出した。
それは──
「……であるからして、旅に出るのはこのようなメリットが……」
「………………」
「……む、どうした?」
「………………」
「おい、聞いているのか?」
最強にして最終の究極奥義──〈無視〉である。
「我を無視する気か?」
──そして漸く、今に至る。さて、この後どうしたものか。
悩みながら無視を続けていると、魔王はこんなことを言い出した。
「ははぁ、我の美しき姿に惚れ惚れして言葉も上手く発することが出来ないのだな?」
「…………!」
的外れにも程がある発言だが、ピンと来た。これはチャンスかも知れないな……。
ここでコイツみたいな小さい娘好き──ロリコンのふりをすれば、向こうもドン引いて諦めるかもしれない。変態だと思われるのは中々にキツいが、自由になる為なら仕方ない。
俺は、覚悟を決めた。
「いやー、実はそうなんだよ。だから一緒に旅するなんてドキドキしちゃって、とてもじゃないけど無理だなー」
「……は? 冗談で言ったのだが」
よしよし、予定通り引いてるな。少々棒読み臭くなってしまったがまあいい。もう一押し!
「俺ってさ、お前くらいの体型の娘が好みだからさ、我慢できず襲っちゃうかもー」
……ぐはっ……! 精神的ダメージがヤバい……。だが……言ってやったぞ!
さあ、どう出る魔王!
諦めろ魔王!
「……貴様が私を襲って勝てるとでも思っているのか?」
「……」
……………………確かに。
「だ、だけど──」
「あと、我の体型について触れたな? このロリコンが」
「…………」
魔王様の目は、絶対零度の冷たい瞳。ゴミを見る時より、百倍深い蔑みを孕んだ眼差し。
……俺は、ここで自分の大失態に気付いた。
小さな体型の事は決して言うべきではなかったのだ。
「覚悟はいいな?」
「……お、俺は、別にその体型が悪いとは──」
「黙れ、このロリコンがッ!」
魔王の怒りを込めた超高速アッパーが、顎にクリーンヒット。
俺は、空を飛んだ。
◇◇◇
……顎痛い。絶対暫く飯食うの辛い……。
俺は顎を両手で押さえたまま、魔王に首根っこを掴まれて引きずられていた。
「我とした事が、最初からこうして力ずくで連れて行けば良かったのだな」
全くだ、こうなる前に諦めて素直について行っていれば良かったのかもしれない。
「……てか、いい加減引きずるのやめてくれないか? 自分で歩くから」
「安心しろ、ロリコンの貴様と二人きりというのは我も不快だしな、次の町で仲間を増やそう」
会話が嚙み合って無いんですが。
「……だからロリコンじゃねぇ」
「では、さっきの言動はどう言い訳するつもりだ?」
「……あれは違うんだ! お前を諦めさせるために――」
「そうか、次はもっとまともな言い訳を期待しているぞ」
凍えるような視線は全く変わらない。心が寒くて凍ってしまいそうだ。
「いや、嘘じゃなくて──」
「では貴様には、我がよしと言うまで喋る権利を与えないようにしよう」
「人権ないのか!?」
「シャラップ!」
「もはや家畜か!?」
流石魔王だ、この傍若無人っぷり…………やはり魔王、許すまじ!
「何を睨んでいる?」
「何でもありませんすいません」
……しかし、実際問題このままではマズイ。旅に連れていかれてしまう。それだけは絶対に阻止しなければ──
「──魔王様ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「!? な、なんだ!?」
「む……!」




