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貴様を倒すのはこの我だ  作者: 乾 豊
第一章 世にも美しき魔王
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第三話 なにか冷めないか?

「む、あいつにドラゴンを殺してしまった事を伝え忘れていたな」

「あいつ?」

「魔王城に仕えているドラゴン使いだ、今日は奴から借りて来たんだが……」

「? 瞬間移動が使えるのに、わざわざドラゴンに乗ってきたのか?」

「たまには景色を楽しんでみたかったものでな」


 魔王にもそういう感覚あるんだ……。


「しかし、こうなってしまうなら瞬間移動で来るべきだったか……」

「……」


 そろそろ……聞いてもいいよな?


「だが、我が目を離したのが悪いのであって──」


 このままでは、どうでもいい話を続けられてしまうだろう。


「あの……」

「? 何だ?」

「いや、魔王……様は何しに来た……来られたんですか?」


 出来れば、自分からは聞きたくなかった。緊張して敬語もグダグダだ。声も細々としてしまっている。何故なら、魔王が伝説の勇者の後継者の元に来て、することは一つしか無いからだ。

 まあ、俺が本当に勇者の後継者かということは疑問だが、それは置いておこう。


「ああ、我としたことが、うっかりしていたな。……教えてやろう、我がお前の元に来た理由はただ一つ──」

「…………」


「──貴様が、立派な勇者になる前に殺しに来た」


 …………やっぱり。


 ある意味当然だ、伝説にあるように魔王城で待ち受けるよりも、こっちの方が確実に決まっている。

 しかも、この魔王はすでに二回も封印されているのだから、当然の思考だろう。


「……というのは冗談だ」


「……………………へ?」


 思わず変な声が出た。



「我の真の目的は全く逆──お前を、立派な勇者にするために来たのだ」 



「はぁ!?」

「そもそも殺したいのならば、ドラゴンからお前を助けるはずがないだろう?」

「そ、それは……まあ……」


 一字一句その通りだった。


「いやっ、でも、なんでだよ! お前にメリットないだろ!?」

「そんな事は無い、というよりこれは戯れに過ぎない」


 そう言って、魔王は少し微笑んだ。子供のような無垢な笑みでありながら、大人の汚く怪しい笑みの様な……。

 ………なんつーか、凄く気持ち悪かった。


「戯れ……遊びってことか……?」

「そうだ、人類を滅ぼして世界を征服するなど、容易すぎて何一つ面白くない」

「……随分と余裕だな、今までに二回も勇者に倒されたんだろ?」

「ハッ、言ってくれるではないか?」


魔王は心から楽しそうに笑ったが、よく見ると目は笑っていない。

それ以上言ったら殺すぞ。と、目で語っていた。


「っ……」


 俺は、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。

 それを見た魔王は満足したのか、続けて口を開く。


「確かに貴様の言う通り、我は二回、勇者に倒された。そして、魂だけの存在となり、復活の時を待った……」

「魂……?」

「前世や来世、聞いたことがあるだろう? 人間は記憶こそ受け継がれていないものの、この惑星が生まれた日から、魂はいくつもの体を経由して今、存在している」

「聞いたことはあるけど、そんなこと──」

「――なんでわかるのか? だろう?」


 図星だった。


「我は、前世の記憶も受け継げ、魂の状態の時の記憶もある。故に、と言うべきか、人の魂も見えるのだ」


 あっさりととんでもないことを言ってのけた。


「魂が見える?」

「そうだ!」


 魔王は急に熱くなり、顔をぐいっと近づけてきた。


「見えるぞ! 貴様の、黄金に輝く勇者の魂が!」


 正直、すこし怪しい占い師の様だった。


「ちょ、ちょっと落ち着け」

「あ、す、すまない……」


 魔王はコホン、と咳ばらいを一つして、落ち着きを取り戻す。


「……話が逸れてしまったが、魂になった我は、次の魔王の器を探し彷徨う。最初に倒された後は百年程度でそれが見つかったが、二回目の時は三百年ほど見つからなくてな……」

「だから、ここ三百年は復活しなかったのか……って、待てよ?」


 魔王の……器?


「てことは……お前のその女の子の姿も……奪ったのか、その娘から……!?」

「人聞きの悪いことを言うな、この体は元々我のモノだ」

「お前のモノって……」

「我の魔力に耐えられる、極々稀な人間なのだ」

「っ……」

「そして、三百年の時を経て復活すると、あることに気づいた」


 魔王は僅かに口角を上げ──



「三百年の間で、魔力が前とは比べ物にならないほど、膨大に上がっていたのだ」



 そんな、全人類にとって恐ろしすぎることを口にした。しかも、普通のトーンで。

 ちょっとラッキーなことがあったんだよ、位の話し方だった。


「そういうわけで、残念なことに世界征服など、実に容易になってしまったのだよ」


 …………元々、俺なんかに魔王を倒せるなんて思ってなかった。でも、そもそも倒せるか倒せないかなんて考えるのすら、おこがましかったのかも知れない。

 俺は今、どんな顔をしてるだろう?


「む、そんな死ぬ直前の虫けらみたいな顔をするでない。貴様は勇者だろう?」


 ぷっ、そんな顔してんのか、俺。


「……無茶言うなよ、どんな勇者でも、今みたいなことを言われたらこうなるぞ」


 てか、まず俺は勇者なんかじゃない。


「安心しろ、その為の戯れだ。貴様が我の遊び相手になれ」

「……俺が? 世界を簡単に滅ぼせるお前の?」

「だから、立派な勇者にしてやるのだ、我と戦えるレベルまでな」


 何故か魔王はドヤ顔をした。こういうところは見た目通りの子供って感じだ。


「……てか、世界征服出来んならさっさとやればいいだろ。長年の悲願じゃないのかよ?」

「……ずっと欲しかったものが、いつでも手に入るとなったら……なにか冷めないか?」


 ちょっと遠い目をして、悟ったようにつぶやいた。

 いやまあ、わからなくはないけど……そんな軽くていいの? 世界。


「だが、立派な勇者となった貴様を倒した後は、ちゃんと世界征服するから安心するがいい」



 うん、何を安心しろと?



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