間話 ロリコン、死ね
魔王の城には、四天王と呼ばれる存在がいる。
魔王、側近のルシファーに次ぐ実力者達だ。二人目の勇者と戦ったとき──つまり、300年前に魔王が任命した。ルシファーも前は四天王の一人だったが、今は格上げされて側近という地位についている。
人間が攻めてきたときにはそれぞれの配置につくが、基本的にはここにたどり着く者は少なく、暇をもて余している時の方が多い。
今日も四天王は一つの部屋に集まって、机を四人で囲みながら雑談をしていた。
「魔王様、またどっか行っちゃった」
誰ともなく呟いたのは、フードを被った暗い印象の幼女だった。その目は魔王と同じく紅く光っている。これは四天王全員に共通して言えることだ。
「どっかって、どこだよ?」
浅黒い肌に金髪の、目付きの悪い青年が真っ先に食いついた。見た目は年相応の軽い若者という印象を受ける。
「わからない、わたしのドラゴン貸してって言われた」
「相変わらず、あの方の考えてることだけは読めないわね……」
もう一人の少女はそう言ってため息をつきながら、鮮やかな朱色の髪をかきあげる。すると、長い髪に隠れていた火傷の跡が露になった。痛々しい位ハッキリした跡だ。
だが、見慣れている彼らは気に止めることもせず、話を続ける。
「ったく……最近復活したと思ったらこれだもんなぁー」
呆れたように両手を広げて大げさにジェスチャーをする青年は、そのまま言葉を続けた。
「俺らは300年も待ったっつーのによぉ……」
「今回の魔王様、なんかヘン」
「だよなぁ? あーでも、結構かわいいよなぁ? 今度の魔王様の器!」
「ロリコン、死ね」
「うおい! いきなりきついなっ!? 別にそういう意味で言ったわけじゃねーし、てかお前の方がちっちぇーだろーがよぉ!」
ジト目でフード幼女に睨まれた金髪青年は、慌てて弁解する。
「胸は、私の方が大きい」
「なーに張り合ってんだ、お前はチビなんだから胸より身長伸ばせぇ!」
「もう伸びない、バカ」
「ははっ、そーいやそーだったなぁ! わりぃわりぃ!」
青年は全くもって悪びれることなく、口先だけで詫びる。これにはフード幼女もイラっときたのか、さっきよりも強く睨み付けた。
「……殺す」
「ハッ、いーぜぇ! やってみろオラぁ!」
二人が椅子から立ち上がると、真紅の眼が輝きを増していき──
「やめなさいっ! またルシファー様に怒られるわよ!」
机を両手で強く叩いて二人を止めたのは、朱色の髪の少女だ。
「ちぃっ……」
「……ごめん」
二人は再び椅子についた。金髪青年がフード幼女を煽り、喧嘩しそうになったら朱色髪の少女が止める。このやり取りはもはや日常茶飯事だ。
「全く、どうしていつも喧嘩するのよ……本当はお互いの事嫌いじゃないくせに」
「俺は嫌いだぁ!」
「わたしも」
またしてもお互いを睨みつけ、一側即発の空気だ。しかし、朱色髪少女はそんな二人を見ながら、優しく微笑んで言った。
「私に嘘が通用しないことくらい、知ってるでしょう?」
二人は視線を少女の方へ移すと、諦めたように少しだけ頬を緩ませた。
「ったく、テメーが一番たち悪ぃぜ……」
「同意」
金髪青年の言葉にこくこくと頷くフード幼女。その様子はさっきまでとは異なり、まるで仲のいい兄妹の様だった。
「ふふ、言われ慣れているわ」
朱色髪少女は火傷の跡をさすりながら、自虐的に呟いた。
「……ん? そーいやルシファーの野郎の気配がしねーなぁ」
「多分、魔王様を追いかけていった」
「アイツ、側近になったからって調子乗ってんなぁ?」
「あなた、ルシファー様が四天王から居なくなって喜んでたじゃない」
「それとこれとは別だぁ! つーか、その代わりに入って来たテメーも気に食わねぇ!」
金髪青年はそう言うと、さっきからひと言も発していない男を指差して言った。
男の年は見た感じ30~40代、渋いオッサンと言った感じだ。少し変わった東洋風の服を着て、腰には刀を差している。
「……」
男は全く動じることなく、正面に座っている金髪青年に猛禽類の様な鋭い眼差しを向けている。
「気に食わないって……いきなり失礼でしょ、昨日連れてこられたばっかりなのよ?」
「……でも、感じ悪い」
「だろぉ!? おい! 無視してんじゃねーよオッサン!」
青年は力のままに机を拳で思いきり叩き割った。大きな音と破片が辺りに散らばる。これには流石の男もピクリと肩を動かし──
「──ふがっ……あ、すまん寝てた」
「目ぇ開けたまま!?」
ルシファーがボロボロになって帰ってくる10分前の話だった。




