第九話 最強じゃね!?
「……ろ」
…………誰かの、声が聞こえる。
「お……ろ」
……女の子の声?
「……きろ」
……何故か、懐かしい感じだ。
あぁ……そうだ、お前は……!
「起きろっ!」
「ふぁいっ⁉」
突然の大声に、反射的にビクッと飛び起きる。
「やっと起きたか、全く。面倒掛けさせるな」
倒れてる俺の横に座っているのは、鋭い角の生えた銀髪に血のように紅い眼、真っ白な肌に漆黒のドレスと外套。
世にも美しい魔王様だ。
「って、なんだお前かよ……」
「もう一度眠りにつきたいか? 永遠のな」
髪が逆立ち、ゴゴゴ……! という音が聞こえてきそうなほどの迫力だった。流石魔王。
「ご、ごめん、嘘嘘! すいませんでしたマジすいません!」
起きて早々、頭を地面に擦り付け美しいフォームで土下座をする俺。
……いつの間に俺はこんなに情けない人間になった?
「ふん……それで、誰を期待していたというのだ?」
「ん? それは、えーと……えー…………? 誰だっけ?」
全く思い出せない。まぁ、楽しい夢を見ていたはずが、起きたとたんに忘れてしまうのはよくあることだが、何か大事な事だったような……?
「はぁ……本当にポンコツだな、貴様は」
「ポンコツ言うな! ……って、そうだ! アイツは? ルシファーはどこに!?」
頭に電流が走ったように、ビビっと思い出す。なんで今の今まで忘れかけていたのだろう、夢の事とはまた違うが大事なことだ。
「……やはり覚えておらんか」
「……え? まさか、俺が倒したのか!?」
記憶は無いが、体に怪我を負っている様子もない。これは、もしかしたらもしかするかも──
「──調子に乗るな。逃げられたのだ、我も協力してやったというのに……」
若干苛つきを含んだような声で、憐れむような目線をこちらに送る魔王。
まあ、デスヨネー。
「そっか……でも、俺のこと助けてくれたんだな。ありがとな!」
「っ……別に礼を言われることではない。貴様に死なれたら困るしな」
魔王は少し照れたように顔をそっぽに向ける。ツンデレかよ。
「でも、見たろ? 俺はどうしようもなく弱いんだ。これから強くなるなんて無理無理」
俺は、首を左右に力なく振りながら言った。
「そんなことはない。確かに我が助けなければ死んでいたが、ルシファーに魔法を使わせる程には追い込んだのだからな」
「…………え?」
初耳ですけど? ってかそれ俺のことだよな?
「何の事だか、って顔をしておるな」
「そりゃそうだよ! え? ってかマジなの!?」
「……まず、貴様が剣の力で傷が修復したところまでは覚えておるな?」
……そうだ、血が大量に出て、死んだかと思ったのに、あの剣をつかんだ瞬間──
「あぁ、覚えてる。しかもその後、体が軽くなったっつーか、早く動けるようになって、相手もスローに見えて……なんだったんだ? アレ」
「その剣の力だ。それは勇者が使っていた伝説の剣などではない。【時間の剣】と呼ばれる、ただの魔剣だ」
「は……!? 魔剣?」
俺は思わず目を見開く。
「その剣は誰にもらった?」
「誰って……村長だよ。伝説の勇者が使いし剣だって言われてさ……」
「まあ、三百年も経ったし、各地にそういう伝説は残っているのだろうな」
「じゃあ偽物なのかよ……」
俺がちょっとがっかりしたように言うと、魔王は首を振って答えた。
「残念に思う必要はない。貴様もその剣の力は見たであろう?」
「……ああ、でも何で傷が治ったりしたんだ? 剣に魔法がでもかかってんのか?」
というか、それ以外考えられない。
「言ったであろう、魔剣であると。かかっているのは魔法ではなく、呪いだ」
呪い。それは自分の魔力で発動する魔法に対して、自分のあらゆる生命力を贄に発動する力……だったはず。なるほど魔力がない俺にも使えたはずだ。
「貴様の血を媒介として発動されたのだ、時の呪いがな」
「時の呪い?」
「うむ、時の呪いは血を捧げた者に対して、一定時間内なら、時を操る権利を与えるのだ」
魔王がさらっと言った、その言葉に、俺は瞳を輝かせた。
「そ、それってうまく使えれば最強じゃね!?」
「ただし、操れるのは《自分の時間》だけだ」
「……え?」
急に、身体の力が抜けた。
「何だ、周りの時を止めて無双出来るとでも思ったのか? 浅はかな奴だ」
「う……誰だってそう思って期待するだろ?」
口を少しとがらせて抗議する。まあ、確かに時を止めたりしたら魔王だって倒せちゃうしな。
「まあ、我は少しなら時を止められるが」
「止められるんかい! ホント何でもありだな!?」
コイツといると、どんどん魔王を倒そうっていうやる気が削がれていくな。
元々やる気があるかと言われればないけど。
「とはいえ、その剣も使いようによってはかなり使えるぞ」
「ンなこと言っても、どうせ魔王様にはかないませんよ~」
俺はちょっとふて腐れたように呟く。
「いいから聞け」
「痛っ!? 耳引っ張んな! ギブ! ギブ!!」
見た目からは想像できない程の握力の強さに、思わず降参の声を上げる。
「……いいか? 自分の時間を操れるというのは、さっき貴様がやったように、時を戻して傷を治したり、時を加速させてスピードアップすることも可能なのだ」
「……でも、血を剣に吸わせなきゃいけないんだろ?」
真っ赤に腫れた耳を抑えながら聞く。マジ痛ぇ。
「まあ、それが呪いだからな」
「だったら勘弁だ。やられたときにしか使えないじゃねえか」
「自傷すれば、いつでも使えるぞ」
「絶対嫌だわ!」
魔王が真顔で言ってくる提案を、速攻で却下する。
「……ってあれ? 剣の力が発動した後も、俺一回蹴られて倒れたよな? ……そんでその後は覚えてねえ。じゃあ、いつルシファーに魔法を使わせたんだ?」
話しているうちに、段々と思い出してきた。でも、やっぱりルシファーに魔法を使わせた覚えはない。
「……やはり、あの力は、まだコントロール出来ていないようだな」
「? 剣の力の事か?」
「違う、ルシファーを追い詰めたのはもう一つの力だ。つまり──」
魔王は、俺を指差して言った。具体的には、顔の、目のあたりだ。俺は唾を飲み込んで、魔王の次の言葉を待った。
しかし、次の瞬間に魔王が放った言葉は、俺の予想をはるかに超えるほど衝撃的だった。
「──貴様に流れている、《魔王の血》の力だ」




