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プロローグ
さて、どうしたものか。
「おい、聞いているのか?」
……
「おい」
うるさい、俺は無視を決め込んでいるんだ。
「我を無視する気か?」
ちょっと不機嫌そうなトーンで話すのは、世にも美しい女の子。
腰まで伸ばしたストレートの銀髪、その前髪の間から覗くのは、ゾッとするほど鮮やかな緋色の眼。漆黒の闇に浸けたかのような黒い外套とドレスが、汚れ無き白い肌を強調させる。
……正直、こんな綺麗な女の子に出会ったことなど、今まで生きてきた中で一度きりも無かった。
「ははぁ、我の美しき姿に惚れ惚れして、言葉も上手く発することが出来ないのだな?」
ニヤリ、と口の端を歪める。と、その時に、人間ではありえない程鋭すぎる八重歯がチラッと覗く。……というか、さっきから見ないようにしているが、頭から鋭い角も二本生えている。
まあ、あってもおかしくはないんだけどな……。
……だってコイツ、魔王だし。