灰色①
「第一班は、2番船へ乗船し、3班は7番船に乗り込め。グズグズするな!」
黒煙をモクモクと吐き出す、軍艦は、とても殺気立ち、血と鉄の臭いがした。皆、紺色の軍服を着こみ、紋章の入った帽子を被り、方には銃剣を挿したライフル銃を肩に掛けていた。
「4班は8番船だ。とっとと乗り込め!」
中隊長の怒号が飛び交う。僕は、甲板から垂れ下がった網を使って、8番船に乗り込んだ。鉄板が張られた小型蒸気船が、会津の海岸へ向けて、続々と海を渡る。3月の冷たい海。空は曇りで灰色で、少し雨もぱらついている。小型船の中では、若い男女が、興奮と不安と、血気をありありと放出していた。名前は思い出せない。隣の友人が僕に話しかける。
「なあに、そんなに心配するな。お前の顔を見るとこっちまでまいっちゃうよ。案外、生き残ってしまうものさ。」
友達の最大限の慰めであったのであろうが、僕の心には響かなかった。波も荒くなってきた。波が荒いため、海面は、濃紺色に加え、泡だっているため、白く、点々としている。海は、もう底なし沼のように、ずっと深く深く、暗い海が続いているかのようだ。
「いいか、いわき海岸の乙地点までもう少しだ。浜辺までは、会津軍が地雷を仕込んでる危険があるため船は進入できない。事前に伝えた通りだ。深さ5尺くらいの地点で船を降り、海外船の堡塁を占領しろ!」
いよいよだ。恐る恐る船から顔を出すと、殺風景な海岸が見える。そして、恐ろしいほどの静寂を保っていた。一発も銃声音が聞こえない。しかし、近づいていくと、海岸の崖にへばり付くように会津軍の堡塁が黒々とそびえていた。
船の仲間を見廻す。恐怖と酔いのあまり、嘔吐するもの、数珠を手に経文を唱えるもの。今か今かと敵を狙う狂気の目をした少女など、この世の地獄がもう始まっていたのだ。できることであれば、そのまま軍艦へ、鵬翔へ引き返してはくれないだろうか・・・。
しかし、そんな願いは仏に届くことはなかった。
「よし、上陸まであと1分だ。各員着剣!」
僕は、銃剣を取り出し、銃に挿した。いよいよだ。
この一分間は、あっという間だった。
「3,2,1、上陸開始!!!!」
中隊長の合図を合図に、兵士たちは一斉に冷たい海へ飛び込んだ。それと同時に、四方から爆音が響き渡る。
隣の兵士が口から血を出して、そのまま沈んでいった。船を降りてから、大砲の爆音。小銃の冷酷な弾丸音が僕の耳を掠めた。僕は、とっさに暗く、冷たい海へ体を沈めた。海へ潜っても、弾丸は、海中でも激しく、飛魚のように飛び跳ねる。そうして僕の目の前で赤い血がゆらゆらと体から吹き出ている仲間が何人も沈んでいった。海中は音が聞こえづらい。しかし、苦しくなって、顔を出してみると、嫌になるほどの爆音怒号が聞こえる。何本もの水柱が上がっている。
何かが僕の手を掴んでくる。僕はとっさに振り払った。振り払うと、力尽きたように、その手が消えていく。
しかし、僕は、無意識に海岸へ歩いて行った。そして、海面が浅くなり、砂浜が見えた。砂浜へ勢いよく塞ぎこんだ。疲労が広がる。なぜか、弾がピュン!と掠める音しか聞こえない。視界は白黒で、真っ赤だった。そして、勢いよく堡塁へ走りこむ味方の兵隊。そして、その兵士は、大砲の直撃で、体がバラバラになった。浅いくぼみの中で銃を構えたまま死んでいる少女もいた。空を見上げる。雲が裂け薄っすら、光がさしていた。しかし、そんな感慨も、一瞬でかき消される。炸裂弾が、僕の近くで爆発した。
耳がキーンと激しくなる。そして、痛くなる。東部から出た血が目に入り、痛い。しかし、血が出たと分かると、銃剣を突きだして、一気に走り出していた・・・。




