突然に・・・
荒俣 優斗・・・78歳 男性。草津軽便鉄道株式会社の創業者。
「これより、草津軽便鉄道株式会社、創業30周年記念式典を開催いたします。始めに、登山鉄道株式会社相談役の荒俣優斗会長の開会宣言です。荒俣会優斗会長は、自ら、吾妻を開墾し・・・」
私は、これまでの人生で一体いつ安らぎを得られたのか?ひたすら突っ走ってきた気がする。生きるのに必死だった。自分を見つめられていたのか?この年になってもまだ分からない・・・。
「それでは、荒俣会長。よろしくお願いします。」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!来賓席からは、様々な拍手が鳴り響いていた。
もう幾度となく人前でスピーチを行った。もうすっかり慣れたものだ。しかし、元々私は、人前で喋るのが好きではなかった。自分が見透かされている気がしたからだ。自分を守る仮面が剥がされる恐怖があった。・・・いや待てよ・・・。私は、元々、素直に喋れたのではないか?
意識を引き戻し、私は登壇した。始発駅の嬬恋駅に、紅白幕を掲げ、招待客は、県議会議員委員長。東日本鉄道社長。日本温泉協会会長。鉄道省技術部長毛利男爵と錚々たる顔ぶれである。しかし、どうということは無い。
「え~本日はお日柄もよく、晴れて、我が社の創立30周年式典を開催することが出来ました。協賛して戴いた、企業、議員、お客様、地元住民の皆様に於かれましては、多大なる感謝の意を表明いたします。我が社の鉄道が、地元の交通、観光に、微弱ながら、貢献できたのであれば、これほどの栄誉はございません・・・。」
来賓客の表情は、賞賛もあれば、無関心、憎悪、嫉妬と様々な姿を見せる。私のような地位にいるものであれば、だれでも見せつけられる光景。表情。もう慣れたものだ。動じることは無い。あと3分で原稿を読み終わる・・・。
ん?なんだ。一番奥の椅子に座っている。普通であれば見えるわけながいのに、私には、はっきり見えた。
・・・香菜?