責任
僕の話を聞いて、エルフたちはかなり動揺しているようだ。自分たちの行いが、大精霊の意向を台無しにすることだと理解し始めたのだろう。
仕上げだ。追い打ちをかけよう。
「大精霊は最終的に、神の意向に背いてでも、この世界に残る決心をした。そして神器を参考にして、当時の賢者達とこの部屋を作り、そこに入った。
つまり君たちは大精霊の願いを潰したわけだ。」
ここで『嘘だ!』と言い切れる頭の悪さとか、信じない頑なさがあれば良いのだろうけど。でもエルフたちの目の前で大精霊は弱々しくもはっきりと別れを告げちゃってたから。それを無視することはできないよね。
エルフたちは肩を落とし、地下室から出て行った。その背中に、僕は最後の言葉を投げかけた。
「大精霊が消えた影響、しっかりと見極めてね。それが君たちの責任だから。」
----
翌日から、世界は一変した。いや、ほとんどの庶民には関係なかったから、影響があったのは貴族だろう。
魔法が使えなくなってしまったのだ。
貴族たちは大混乱。元兄と元姉が魔法を大失敗して完全に追い詰められていた元父は、この混乱に乗じて権勢を掴もうと必死になっているらしい。
街の人々の噂に登るほど、貴族たちの混乱はひどいもののようだ。今はペンダントが使えないから、こういう噂話だけでもありがたい。
まったく、エルフの若者達は面倒なことをやってくれたものだ。魔法なんて、貴族でもない僕にはどうでもいいことだけど、魔道具が使えなくなるのは本当につらいのだ。彼らを制止するような説得は、まあ無理だったとは思うから仕方のないことだけど、やっぱりペンダントが使えないというのは、なんというか息苦しいのだ。まるで手足が縛られているようにも感じる。
大精霊がこの地に残った理由、それは魔法と魔道具の発動補助だ。本来、魔法とは非常に複雑な回路に魔力を流すことで発動する。それは、神器を見ればわかるとおりだ。
神は神器というお手本があれば、人間が魔法を使えると思っていたようだが、さすがにそれは買いかぶりすぎだ。あの複雑な回路を、人間が魔力を操作して再現するなんてこと、そう簡単にできるわけがない。
でも神はそれがわからなかった。大精霊は神と人の間に位置しており、それが理解できていた。だから、神器を渡された程度で、人間たちの苦労が減るとは全く考えていなかった。
さりとて神に意見しようにも、そもそも神がいるから魔王が出現してしまうことに変わりがない以上、対案がない。
そこで取った行動が、大精霊がこの地に残り、魔法の発動を補助する、というものだった。もともと小精霊を通じて様々なことに干渉していたため、そういうことができるとは分かっていた。
大精霊は魔法の回路を簡略化し、本来魔法の発動に必須の回路を記号化した。記号化した部分を補助すれば、簡易化した魔法陣で魔法が使える。
同時に魔道具の回路も簡易化できる。簡易化された魔道具は、よく遺跡から発掘されるやつだ。神器に比べて格段に扱いやすくなっている。
神が去ったあと、魔法陣を魂に保持し、それを子孫に受け継がせることができた魔法使いたち、これが後の貴族の血筋になった。まあ、世代を経るごとに、魂に刻んだ魔法陣は劣化してしまったようだが。
この劣化部分を補ったことで、元兄と元姉の魔法は本来の威力を発揮できていたわけだ。
僕のペンダント、複雑な機能を持っているが、これも当然ながら簡易化した回路で動いている。大精霊が消えた現在、使用することはできない。ああ、困った困った。
困ることはまだある。魔法が使えない以上、貴族は魔物を狩ることはできない。この国はかなり危険な状態になるだろう。
あのエルフの若者たちはどう責任をとるのだろうか。見ものである。




