うっかりしていたプロローグ
どうしてこうなった。どうしてこうなった?!
いや、我ながらいきなりなんだとは思うが、今生の母上と思しき人物の乳をしゃぶりながら、今の心境はそれに尽きる。あとはせいぜい、前世の母より五次元ぐらいランクが上の美人でちょっぴり得した気分という程度だ。済まない、前世の母よ。親より先に死んだ上に、生まれ変わった先でこんなことを考える不孝な息子を許してたもれ。
閑話休題。何が『どうしてこうなった』なのかといえば、異世界転生お約束のステータスである。その内容が、非常に俺を困惑させていた。まずは落ち着いて、素数を数える心持ちで振り返ってみよう。
転生に至った経緯は簡単だ。
大学のサークルで、イベント終わり&三年生引退おつかれ!の飲み会の帰り道、小雨が降る中チャリで走ってたら滑ってコケて、車道にはみ出た頭部にダンプのタイヤがドーン! あ、いや実際の音としてはドーンというよりブチメキャグチュグチュ、と言った感じではあったがそれはさておき。
女性の手を切り取って愛でる趣味があったわけでもないのに我ながらエグい死に方をしたもんだと、前世の己は思いながら事切れた。
次の瞬間気づけば、二次元界隈でテンプレ過ぎて描写するのもはばかられつつある謎の空間そして神様降臨。ちなみに女神のパティーンだったが、見た目は普通だった。普通としか言いようのないくらいに可もなく不可もなく。人類の基準で行けば超越存在ではあっても、容姿という生まれた時より遺伝子という設計図によって規定される見た目は如何ともしがたく、神様だから美人イケメンになるとは限らないらしい。
前世の同胞たちよ、神になってもブサイクはブサイクで、禿は禿らしいぞ。現実って悲しいね。神であるのに髪がないとはこれ如何に。
などと残酷な容姿のテーゼについて考えていたら怒られた。神様のプライド的にそこに触れてはいけないらしい。まぁ、初対面のガキにかもなく不可もなくとか偉そうに品評されたら誰でも切れる。ガンジーでもこめかみピクピクするだろう。
素直にごめんなさいと謝ったところで状況説明を受ける。と言っても、死んだ細かい状況まで覚えていたことには驚かれた。先ほど例に出した殺人鬼さんでさえ、はっきり指摘されるまでは自分が死んだことに気付かなかった、あるいは気づかないようにしていたというのに。
まぁこれは生来の気質故だろう。昔から、意味わからんところで急に熱くなり、変なところで理解に苦しむ程執着を見せるくせに、冷めるときは至極あっさりしているとよく言われた。……改めて考えるとひどいいわれようだがそれはともかく。
自分の生死に関しては正直いって余り興味がなかった。
もちろん痛いのは嫌だし、続きが気になるマンガやアニメ、積んだままプレイしてないゲーム、勉強しきれていない過去の名作たちなど、自分的に死ぬ訳にはいかない理由があったからこそ今日に至るまでは生き恥を晒してきたが、何ぞ夢とか目標があったわけでもなく。
もう終わりですよと言われたら、居酒屋でラストオーダーですと言われた時のほろ酔いの客程度の聞き分けの良さで諦めてしまえる。自分にとって自分とは、そんなものであったのだ。微妙なレベルの大学に通う、特別裕福でもないブサメンの価値などそんなものだろう。
強いて自分の死に様についてなにか思うのならば、あんな愉快で、マジヤバイほど痛い死に方をするなら、生前の自分には殺人者の女王のようなすっごい能力とかあって欲しかった。あと、部屋のヲタグッズは処分されるんだろうか。せいぜいこんなところである。
こんなことを、神に聞かれるままホイホイ答えていると、何やらレポート用紙に書きつけている神様。死人一人ひとりにそんなことをしているのかと問えばもちろん違うとのこと。
ジャンジャジャーン!いま明かされる衝撃の真実ゥ!神は言った、俺はまだ死ぬ定めではなかった、と……
はいはいテンプレテンプレと思いつつ尋ねると、本来俺はスリップはするものの、ぎりぎり踏みとどまって転倒は避けられたはずであったらしい。
確かに本日の飲酒量は、日本酒一升にブランデー、ワイン、ビールその他のちゃんぽん。一般的にはベロンベロンの量だが、生来酒に強かったらしい俺ならば、帰りによっていくゲーセンで多少スコアが落ちる程度の酔い方で済んでいたはずである。
神様的分析によると、サークルのイベントを終えた達成感と開放感、引退することへの寂寥感でテンションがハイになり、普段より酒の回りが激しかったのではないかのこと。
速報。神の定めた運命は、酒とテンションで捻じ曲げられるらしい。どこかの世界で運命に抗うとか言ってる主人公君!まぁまぁ先ずは一杯どうです?
もちろんそんな訳はなく、通常ならこの程度で運命に狂いは生じない。なので、イレギュラーたる俺には、この場で質疑応答することで、原因究明に協力してもらい、謝礼として記憶保持して、チート能力とかもつけて、現世とはかなりかけ離れた時空、つまりステータスとかレベルとか魔物とかある剣と魔法の世界へ転生してもらう。そして、そこで生き抜いた結果もまたサンプルとして提出して欲しい、現地の神格とは既に話が付いている、とのこと。人類史においてこのような事例は、無数に分岐していく各並行世界の世界線で一つあるかないかという珍事だが、逆に言うと母数が膨大であるために若干の前例はあるらしい。
……異世界転生におけるチートって、アンケートに答えたらもらえる粗品みたいな扱いなんだ……
ちなみに断った場合の対応としては、原因が究明されるまでここで神様のお仕事を見学、らしい。そもそも超越者やねんから、こんな一般人の魂など適当に解剖でもして隅々調べたらいいんじゃね?と思ったが、神様いわく、お前はかわいがっているペットがよくわからない行動をしたからといっていちいち解剖するのか、とのこと。
可愛いですかね、俺?自分で言うのも何だけど、こんなセリフが許されない程度にはブサイクですよ、と問うも、容姿が多少崩れていたり、欲望丸出しで他者を食い物にしたり、その程度で全てを見放すほど超越者は狭量ではないとのこと。
……普通普通言ってすみませんでした、マジ謝るっす。
そもそもペットなんかい、という点についてはまぁ、神という不老にしてほぼ不死の存在が、定命の生き物に対して抱く情なんてそんなものだろう。視野が、視点が、違いすぎるんだ。かわいがってもらえるだけマシだろう。異論のある方は、君が今まで殺した細菌の数から数えて、どうぞ。
まぁそんなわけで、転生に際していただける特典の話に移ったわけだが、特に数や種類については問わないと言われる。どういうことを望むのかというデータが必要でもあるし、明らかに無理な願いなら無理って教えてあげるからいうだけ言ってみろって。神様マジ神様。
で、望んだものとしては
1:前世の娯楽が引き続き味わえるようどうにかして!(あやふや)
2;世界のこととかいろいろ調べられるようにして欲しい!(あやふや)
3;歌を強化したい
以上である。
え、そんなのでいいのかって?金持ちになったりイケメンになったり、経験値補正とか無限の魔力とか願わないのかって?
昔、某機動戦士の劇中にこんな小話があった。金のないやつに、金のある苦労はわかるか、と。結論から言えばわからん。
神様に聞いた限りにおいて、送られる先はよくある中世西洋風とか言いつつ、衛生面とか食料とかは魔法で便利に片付いてる日本の現代っ子に優しい仕様らしい。とはいえ、そんな世界で金持ちと言ったら王侯貴族か、大商人、もしくは生臭坊主か超一流の冒険者、ってあたりが相場だろう。
大学で経済学は多少学びはしたが、専門ではなかったしさして興味もなかったのでうろ覚えだ。かと言って専門的な技術の持ち合わせもないので内政チートとかも難しいし、宗教を金儲けに使うとか、リアル神様を目の当たりにした以上小市民の自分には無理。
そもそも金を欲する理由は、衣食住を超えたら趣味以外には思いつかないのが己である。そして、異世界での娯楽が、現代日本のオタ文化に勝ることはまず無いと謎の自信を持ち合わせているので、そのへんがどうにか成ればお金はあんまり気にしない。
とはいっても、前世の知識は便利であるし、これから行く世界のことを細かく調べられれば、地雷領主の土地からおさらばしたり、戦争がおっぱじまる前に疎開したり、いろいろ手段もでる。
最後の歌に関しては趣味だ。カラオケとか大好きだったし。まぁ、レパートリーがほぼアニソン特ソンだったので、同類の友人と行くか一人で行くかだったが。吟遊詩人とかだったら、土地によるしがらみとかなくていいんじゃね、という考えもある。あとは、前世ではキーを下げざるを得なかったあの歌この歌が原曲キーで歌えるとか夢が広がりングなのである。オーガニック的なアニメのOPが原曲で歌えるレベルなら胸熱。
……は?イケメンに転生して女子にもてもて?俺TUEEEでハーレムとか言いはいいのか?
何を仰る神様、容姿の問題は神にも克服できないとさっき……え?神が神の容姿をいじるのは整形手術レベルにしても、一応下位の存在である人類には干渉可能?人間だって犬猫の品種改良からコンテストまでやってるって?あ、そういうことならイケメンのほうがいいっす。不細工が歌うよりは見栄えがするからね。女子?そんなものに対する幻想は高校で捨てた。許されるのは2.5次元までである。
戦闘力に関しては論外である。古今東西、平穏無事に生きたいとか言ってる軽主人公がなぜ厄介事に巻き込まれていくのかといえば、巻き込まれるに足る理由があるからだ。作者の意図、巻き込まれてくれないとお話にならないというメタな理由も、そもそも主人公に戦闘力がなければ、戦闘にかかわらないお話になるか、戦闘力がなくてもなんとかなる展開になるのである。
ましてやステータスとかで、戦闘力が数値化されて可視化される世界だ。うっかり人にみられて、何だこのステータスは!?みたいなお約束は簡便。あ、でも旅ぐらしの予定なんで、水とか風土病とか気にしなくても言いよう健康が保証された肉体は欲しいです神様。
え?自分の生死はどうでもいいんじゃなかったのかって?望んで死にたがるほどではないって言ってるじゃん。ラストオーダーまでは安酒で延々粘るうざい客だよ俺は。
ともあれ、そんなやり取りを経て、神は俺に最後の確認をしてきた。
「確認だ。君の願いは、一つ、前世の娯楽を味わえるようにして欲しい。これは、脳内でネットにつなげて、ステータスのように他人には不可視の状態で眼前にウィンドウを展開して、タッチパネル方式、意思や音声による入力で操作できる等にしておこう。動画サイトやゲームサイトの料金や課金に関しては、生前の君の残り資産と、異世界での君の現在資産の合計から自動で両替して引き落とし、ということで取り計らっておくよ」
「マジッスか、ありがとうございます!!」
これはマジでありがたい。提督で騎士団長様でコンダクターだった身としては、部下を置いて先立つことがなくて御の字である。課金に関しては微課金勢だったので、しょっぱい現財産でも転生後成人するあたりまではなんとか持つだろう……きっと……メイビー。虹確定11連とか追加されないかぎり、ネジと指輪くらいしか買わないし。
しかし、料金が払えるということは、もしかしてチート能力定番のネット通販とかできるんだろうか。
「それに関しては不可だ。やり取りできるのはあくまで情報のみ、物質的なものはNGだ。貴金属をちまちま持ち込まれても、最終的には物価が破壊できる量になりえるしね」
「了解でーす」
まぁ、妥当だろう。フィギュアやプラモ、各種工具や塗料が欲しかったところではあるが。物資チートで経済勝利?現地の利権を脅かしたあたりで寝首描かれてアボンする未来しか見えない。そんなことよりガ○プラだ!魔法があるならビルドでファイターズなあれもできるかと思ったんだがな……
「二つ、世界の情報を集め、知る手段がほしい。これに関しても、前述のようにネットに繋げるチャンネルの他、これから送る世界についても知ることができるようデータベースにつなげておくよ。操作方式もそのまま、情報は随時リアルタイムで更新される。」
「それで構わないっす。ありがとうございます」
リアルタイム更新はありがたいな。古い情報掴まされて大失敗とか避けたいし、こまめにチェックしておく癖をつけよう。
「三つ、健康が保証された肉体。これも特に問題はない、そのように取り計らっておこう。最後、歌で強化、だったか。珍しい願いではあるが、まぁいい感じに調整しておこう。あと、現地の言語理解等については共通の初期サポートとしてつけておく。こんなところで良いか?」
「至れり尽くせりっすね。忍びないっす」
「四六時中観察するわけでもなく、結果とそこに至る経緯をまとめたものが分析のためのデータとなる。すぐに死なれてはデータ不足でまた手間がかかるからな。構わんよ」
常時観察されるわけでもなしという言質まで取れた。娯楽として教示させよとかいうわけでもないし、テンプレコースの中ではまっとうな方だろう。言われたまま鵜呑みでいいのかって?疑ったところで対処法なんて無いじゃん。神に挑むとかやだよ面倒くさい。家畜の安寧大いに結構。屠殺されるわけでもないようだしね。
「それでは、このまま能力付与と調整にかかる。魂のほうを整えておけば、生まれる過程で肉体は最適化されるが、肉の器を得てからだと不具合も起こりやすいからな」
「あ、やっぱり赤子からですか……まぁいいっっすけど」
おしめはともかく授乳には興味がなくはない。そういうシチュのウ=ス異本も結構持ってた。母親に欲情すんのかよって?精神的には他人だからセーフ。成人男性の精神持ってるのに、生まれて即初対面の相手を母親認定できちゃうほうが闇が深いと思うんだ。まぁ、イケメン指定はしなかったからブッサイクなおばはんのをしゃぶるハメになるやもしれんが、その時は食事という作業として割り切ろう。
「それでは早速始めよう……ちょっとくすぐったいぞ?」
「え、何その世界の破壊者みたいなセリくぁwせdrftごlp;@!?」
あばばばばばば、脳が震えるぅっていうか軋んで捻れてあばばばばば
ニチアサでも見てて思ったけど、くすぐったいってレベルじゃねーぞ!人体が受けてはいけない何かだ!
「現地での言語は人類及びそれに類する種族の言語が常用するいわゆる共通語が一つ、各種魔物や獣、一定以上の知性を有する生命体の称する原始的な言語が各系統おおまかなものを統合しても753種類。あとは各地方ごとの訛りやなんかの差分もまとめてぶっこんでいるからな。」
人類種の言語は一つなんだー。じゃあ向こうの世界にバラルの呪詛はないんだねってやかましい。共通語一つならそれだけでよかったじゃないですかー!7538315種類じゃないだけマシですってか?んなわけあるか妖怪ボタンむしり!
「生まれる種族を設定していないからな、君は。人の魂である以上、一定の規格の範囲に収まるとは思うが、そもそも神の想定を上回ったがゆえの転生だ。親切心からのサポートだよ」
親切心出すんだったら種族設定先にやってくれませんかねぇ?!
「あとは、先ほど指定されたツールの調整だ。脳に、と言うよりは根源的な思考を司る領域に異物をぶっこんでいるわけだからな」
あ、なら耐えるしかねーわ。他人とのコミニュケーションのための苦痛ってんなら糞食らえだが、異世界でも充実したオタライフを送るためだったらこの程度へでもないわー。
割りきった瞬間、なんだかスイッチがはいったように異物感が調整され、処理がスムーズになっていく。自分という機能が拡張されていく感覚。なにこれしゅごい。
「とことんと言うか……つくづくイレギュラーな存在だよ、君は。地球基準で半日は苦痛に悶えることになると思ったんだがね」
ヲタを舐めるなよ、あの程度、夏の有明に比べれば余裕よ……っていうか、やっぱ痛いの前提だったんじゃねーか。あれか?容姿が普通って言ったの根に持ってたんだろそうなんだろ。
「そんなことはない。そんな事実はない。故に証拠もないので言いがかりということでFAだ……予想外に早く済んだが、コレで作業は終了する。次に目覚めたとには新しい生が始まっているだろう。死後の引取は現地の神格に任せてあるので、私と合うのもコレで最後た。さらば!」
てめぇ逃げやがったなこの女郎!
で、今に至る、と。
あからさまに人間な女の乳にしゃぶりついてることからして、どうやら今度も人間、それも母の容姿を考えればそこそこイケメンの生まれなんだろう。乳児の容姿なんてどれも猿みたいなもんだからまだ判別はつかんが。そもそも鏡ないし。
で、肝心な俺のステなんじゃが……
名前:ジュリアス・マクシミリア・ベルフォール
年齢:0
種族;人間()
称号;ベルフォール攻強皇國第三皇子 うたうたい 生命の極限 深淵に繋がりし者
Lv :1
HP :評価規格外
MP :評価規格外
STR ;2
DEF :評価規格外
INT :評価規格外
MIN :評価規格外
DEX :69
LUK :15
【保有スキル一覧】
・金剛不壊/パッシブ
肉体の負の方向への状態変化、及びそれをもたらしうる外的要因の拒絶、否定。
・≒全知/アクティブ
宇宙の記憶への任意のアクセス権、及び指定キーワードでの検索機能。
・廃人歓喜/アクティブ
地球のインターネットへの任意接続、情報の取得権。金銭が必要な場合、当人の資産より自動引き落とし。
・戦歌絶唱/アクティブ Lv1
歌をうたうことで、その歌にうたわれるもの、その能力を行使可能。応用、効果範囲は当人のイメージと技量、及びスキルレベルによって変動。
……突っ込みどころがおおすぎじゃろ!!え、なにこれ。というか、歌唱力強化はどこ行ったし。歌関係はあるけど意図が違い過ぎ……
……ん?
『歌で強化、だったか。』
歌、『で』?
……日本語って難しいねー(諦め)
なお、統計的に異世界転生する際はチート能力で無双したがる奴が多いため、女神的には空気を読んだつもりだった模様。