徴発① Ⅱの鍵フェンセル
「あ、すいません」
登校中、通行人にぶつかってしまった。
人通りは少なく、場所も空いているのにどうしてだろう。
そんなことを考えていると、うめき声が聞こえて、思わず振り返った。
通行人が苦しんで、道に倒れていた。
携帯は数日前に壊れて、まだ買いかえていない。
だから今は連絡手段を持っていないのだ。
取り合えず近くの人を呼ぶ。
「あの、すみません!あの人が突然倒れて!」
話しかけた相手が次々に倒れていく。
どうしてこんなことに―――――。
「見つけた」
「え?」
さっきまで近くに誰もいなかったのに、背後からいきなり声がした。
恐る恐る後ろを見ると、クリーム色の髪をした少年と薄紫髪の少年がいた。
「君は志水秋花さんだよね?」
背後から声をかけたのは、クリーム色の髪のほうだったようだ。
薄紫髪のほうは話す気配すらない。
「そうだけど…」
どうして、さっきまで声をかけたら人が倒れていたのに彼等は倒れていないの。
「何か聞きたそうだね」
「うん」
思わずオーバーに頷く。
「まず、さっきから人が倒れているのは君のせいだ」
「なんで!?」
偶然にしては変だけど、そんなことがあるわけない。
「君はたぶん、先天性の能力が覚醒したんだ」
先天性…ってことは生まれつき。
能力…誰の…私の?
「ちょっと待ってよ!超能力者がどこかのそういう機関に存在しているのはわかるけど、生まれたときはそんな力なんてなかったよ!!」
「力が目覚めるのは生まれた時とは限らないよ」
「突然そんなこと言われても…私」
納得できない。
「クク…たとえお前が嫌でも、このままにしとくわけにはいかねえよなァ」
さっきまでここにいなかった銀髪の青年が、いつのまにか目の前から背後に移動していて、私の意識はそこで途切れた。
『志水さん、掃除当番変わってくれなーい?』
“自分の担当は自分でやってよ”
『いいじゃん今日彼氏とデートなんだよー』
“他の人に頼んで、私はアンタたちみたいなのの、いいなりになるタイプじゃないから”
「ここは…」
「目が覚めた?」
ここは普通の医務室のような場所だった。
「医務室だ」
ベッドの側の椅子に座っていた濃いピンク髪の少年が言った。
「目が覚めたんだね!意外と早かった」
「そうだ…学校は?」
「もう五時だし、終わってるかもね」
最悪。皆勤賞狙ってたのに。
「それよりヘッドマンがお呼びだよ」
偉い人が私なんかになんの用なんだろう。
「あれヘッドじゃないや」
「父に変わって、私が話そう」
まっすぐ長い黒髪を低い位置で結った青年が爽やかに微笑んでいる。
「まず、ここはフェンセルという名の組織だ」「すみませんわかりません」
普通に生活していてテレビ以外で組織の名前なんて知るわけない。
「本社は海外にあるから、知らないのも無理はないよ」
「あの、どんな団体なんですか?」
組織なんていうくらいだからただの企業とは違うのかも。
「異能力を持った者達は年々増えているだろう」
「はあ…」
周りにはいないがテレビで超能力を使える人が増えたとはいっていた。
「あと数年したら国民全員が使えるかもしれない」
「え?」
「珍しいから異能力や超能力なんて言葉が出るのに、不思議だろう?」
「なんでそんなことに?」
「ここ数年で技術が進歩した、というか手術のようなもので能力を付与できるようになったんだ」顔色ひとつ変えないでサラっとすごいこと言った。
「私、なんで呼ばれたんですか」
手術なんて受けたことないのに、どうして能力なんてあるんだろう。
「君は貴重な先天性異能力者だ」
「…!」
能力って、人が苦しみながら倒れたあれのことか。
「“父”いわく、君にはフェンセルに入ってもらいたいらしい」
そこを強調して言うなんて、まるでこの人は入ってほしくないみたいな感じだ。
黒髪の青年は部屋を出た。
「あの人は組織が嫌いなんだよ」
「ここにいるのに?」
「彼の父がフェンセルの最高権力者だからね」
「結局ここってなんなの?」
「能力者を集めて敵に襲われたら戦う組織」
「敵?」
「フェンセルに攻撃してきたら倒すだけ」
攻撃されたから攻撃する。
…そんなの組織があるから襲われるだけじゃない。
国を守るとか壮大なことをやっているのかと思ったけど、世間の役には立たなそうな組織じゃない。
なんのためにあるんだろう。
「ここは俺達にとって居場所なんだ
能力を持って生まれてきた俺を、ライラスの人は受け入れてくれた」
彼は私より先にそういう能力が目覚めていて、つらい思いをしたのかもしれない。
ここはもしかしたら私の居場所になるところでもあるのかな。
「能力者ってここにしかいないの?」
「先天性の能力がある場合、たまたまフェンセルだっただけで、ライラスやジェノイサからスカウトされていた可能性もあるよ」
「ごめん全部知らない」
先天性、って括りがあるんだ。
「後天性は?」
「え…」
「先天性があるなら後天性もあるんでしょ?」
さっき黒髪の人が言っていたし。
「後天性の場合は悪い組織ばかり居るってウワサなんだ」
「悪い組織、ドラマみたい」
「先天性異能力者がいるのはユートピニア派閥のライラスとジェノイサは同盟組織。後天性がディストピアス派閥、後は小規模なカルト団体くらいかな」
「フェンセルは?」
「どちらでもない中立だよ
後天性もいるし」
先天性しかいないのかと思ってた。
「あの、私家に帰れないの?」
「能力を抑えるパッチを作れば大丈夫だよ」
「パッチ…」
「フェンセルに入るしかないね」
「わかった入る」