倍で返してやる① Ⅰの鍵ジェノイサ
「ムエガミ~パン買ってきてよ~」
私は六江上美春。
父の仕事の関係で、転校続き。
学校で友達を作る間もなく次の場所に行く。
そして、行く先々でクラス内のカースト1位の女子から因縁をつけられてしまうのはいつものこと。
そしてやられた事を転校前に倍に返して去るのもいつものこと。
なんだけど、今回のカースト1位は小金持ちのお嬢様。
小さな権力をカサに来た嫌なやつである。
転校前になったらこっそり仕掛けようと計画を練っていたけど、今回は長く滞在するようだ。
ムカつくことはノートに書いて丸めてゴミ箱にポイ。
そうすればストレスが発散できる。
「…書いたことが本当になったらいいのに」「私のパパが~“ジェノイサ”のお偉い方とパーティーするんだけど~」
「えーいいなあ!!」
取り巻きその1がまるで子供のように大袈裟な反応で彼女を羨んだ。
“ジェノイサ”聞いたことのない名前。
彼女の家は所謂財閥ではないが父親は政治家。
それなりの権力や怪しい組織とコネがあるのだろう。
「ムエガミ~パーティー、行かない?」
―――なんでそこで私を誘うの!?
お金持ち様のパーティーに私なんて場違いだ。
そんなに私を貶めたいのかな。
「いいなぁ~ね~リンちゃん」
「アタシは別にいきたくないけど」
取り巻き1と2が羨ましそうにしている。
きっと内心ではハラワタ煮えくりかえってるんだろう。
待て…逆にこれはチャンスじゃない?
もし嫌味を言われたらパーティーで目立って変な友達を連れてきたって感じに恥をかかせてやる。
――――なんて強気で挑んだはいいけど、雰囲気に圧倒されて何もできやしない。
キョロキョロ見渡すと、どこかで見たことのある顔の私と同い年くらいの赤毛の少年がいた。
前に転校してた時のクラスメイトがここにいるわけないし…。
転校のしすぎでほとんど顔を覚えていない。
振り替えると向こうで青髪の青年が食事をしている。
なんだか取り分けがグチャグチャで不味そうな料理だった。
別のほうを見ると超美形がオバサン達に囲まれている。
意図せず彼と目が合ってこちらにウインクをしてきたので、慌てて視線をそらした。
パーティーに慣れていなさそうな緑髪の青年が端で佇んでいる。
皆豪華に着飾ってキラキラしている。
それに人が多くて、私には場違いだ。
怕馬脚さんの嫌がらせなんてパン買ってきて、くらいだった。
馬鹿みたい、帰ろう。
「いたっ」
何かが私の頭にあたった。
床に落ちたものを拾って確認してみる。
それは外国のコインだった。
「すみません」
アイボリーのスーツに黒いシャツ、金髪の若い男性が歩いてきた。
「これ貴方のですか?」
コインを見せると、男性はこくりとうなずいた。
「はい…これは貴女に当たってしまいましたか?」
「当たりましたけど」
いい年して、しかもパーティー会場でコイン遊びかよ。と文句を言ってやりたい。
「私はジェノイサに所属する者なのですが、貴女にぜひ入っていただきたい」
なんでいきなりそんな話になってるんだろう。
「怪しい勧誘ならお断りします」
ジェノイサがなにかもわからないし、私に組織員になる才能なんてないわけで…。
「ユートピニアやライラスはご存じですか?」
「ユートピニアは名前だけなら…」
とにかく海外の大企業で、テレビでは名前や雰囲気を見る機会はあった。
「我々ジェノイサはユートピニアの傘下なのですが、主に物流…貿易関係をしています」
「物流って密売みたいな?」
なんか更に怪しいイメージがわいた。
「違いますよ…詳しくは本社にてお話します」
「はあ…」
名刺を受け取って、私は家に帰った。
翌日、学校が休みだったのでジェノイサのビルへやってきた。
家でジェノイサについて検索をしたら、結構有名な会社だったみたい。
せっかくだし将来の就職先にしてもいいよね。
「アポイントは…」
窓口で門前払いされた。
「名刺…これじゃダメですか?」
貰った名刺を受付嬢に見せる。
「しっ失礼しました!!」
彼女はバタバタと落ち着かない様子で通してくれた。
案内係の人に連れてこられたのは、社長室だった。
入ってみると、ドッと視線が集まった。
その場にいたのはパーティーで見かけた彼等だった。
「よく来てくれたね」
銀髪の30代後半くらいの男性は椅子に腰かけたまま、にこやかに出迎えてくれた。
「ようこそ“ジェノイサ”へ」
何気なく軽い気持ちで来た私は、下見のつもりだった。
めちゃくちゃ今入るのを期待されている感があるのは気のせいだろうか――――。