レイカン商法の男
【夏のレイカンスプレー、始めました。今ならハライシがついてます】
「涼しそうだなー。……”ハライシ”? なんだ、そりゃ」
その幟に、そそられたのが運の尽き。俺は店の暖簾をくぐっちゃった訳。
「へい、らっしゃい!」
「おう、親父。”夏のレイカンスプレー”を頼まあ!」
「まいどっ」
しゅわー。何の変哲もないスプレー缶を吹き付けられた。
「……なんじゃ、こりゃ」
ぶっちゃけ。殺虫剤じゃねえのか、ああ?
凄もうとしたら、ぞくりとしだした。
「お?」
ぞくぞくぞく、と脚の先から項まで逆なでしてくる。
ふわり、と何かが通った。
ん?
蚊か?
それとも、なんかの煙……?
「ぎゃああああああっ」
死体、死体、シ・タ・イぃぃぃぃっ
誰が五体満足なんて言葉作った!
千切れまくっとるだろーがっ
半笑いのヤツ、睨み殺されそうな怨念ありまくりの貌っ
「眼球、どろどろぉおおおおおっ、貌が半分ないしっ。そこっ、腸をハミだたせて歩くな! って、足が無ぇっ!」
俺は正直、涙目。
「ヲイ、親父っ! こんな霊感スプレー要らねえよっ。元にもどっ……、う、ぎゃあああああっ」
さっきの朗らかな親父がっ、首にロープを巻き付けちゃったりしてっ。
「あ、あああ……」
脚ガタガタ。おしっこビショビショ。そこを祓い師が丁度よく通りかかった。
「お願いしますっ! 後生だからっ、お祓いしてっ! 百歩譲って、見えなくしてっ、金なら払うからぁ!」
「承った」
祓い師が一仕事終えて、ぷかりと煙草の煙を吐いた。
「いーい商売だねえ……」