怒りの咆哮4
海へ潜った冴木は不思議なほど緊張していなかった。今から敵しかいない場所に行くのに、人を殺すというのに。杉崎は自分よりかなり若いニ士を見て思った。
杉崎は班のブリーチャーだった。室内のクリアリングの時は爆弾かショットガンでドアをぶち抜き、息をする暇も与えずに敵を倒す。いざ室内に入ったらそこは彼の支配下だった。市街地での戦闘には不可欠な役だった。
彼の戦闘員としての振り出しは宮城県の部隊の一工兵だった。そこで爆弾について多くを学び、才能を発揮しこれまでにない程素晴らしく優秀な隊員と評価された。何枚か表彰状も貰った。徽章も貰った。しかしそれだけでは決して彼は満足しなかった。
特殊作戦群を目指したのだ。
特殊作戦群は中央即応連隊という大臣直轄の部隊の一部で、主に空挺部隊の精鋭だけが入ることを許される"超"エリート部隊だった。
入るために彼はレンジャー徽章を勝ち取り、空挺試験なども受けた。正にそれは修羅の道だった。
そして見事狭き門を通り抜け特殊作戦群に配属された。
しかしすぐに名の知らぬ部隊に突っ込まれ、内心激怒していた。
でもこうして戦闘に加われた事は嬉しかった。だから手が震えてるのかもしれない、と彼は思った。
カチカチと無線機から音が鳴り三人は泳ぎを一度止め、ファレルの声に耳を傾けた。
「もうすぐ海岸だ。リーダー格は狙撃で片付けたらしい。混乱している。あと50メートル泳いだら撃て。」
三人とも無線機のボタンを二回鳴らした。
冴木はp220拳銃を両手で構え、前に突き出した。サイレンサー付きで、殆ど音が出ない。p220の弾丸は音速を越えない事からも、減音効果は高まった。これは耳にとっても、隠密行動にとってもプラスだった。
フィンの先が何かに触れた。海底だった。海の中は暗く、吸い込まれそうだったが上にはぼんやりと海岸が見えた。
前にいるファレルのサブマシンガンの上半分と暗視ゴーグルが水面から出た。冴木も遅れて水の中から目を出した。
海岸が見えた。ちょっとしたランプがあったが暗闇に包まれていた。4人の男は頭を使ったらしく、小屋の裏側に隠れていた。ドンドンと小屋を叩く音とアラビア語の怒号が聞こえた。
「ハサミ打ちしよう。」
古林が言った。
水から四つの影が出て、散開して海岸を確保するとバリケードに気をつけながら前進した。
冴木は小屋を窓から覗いた。中で寂れた男が必死でドアを押さえていた。腰には拳銃らしきものがあった。
不意に小屋の電灯が付いた。冴木とファレルが照らされ、寂れた男の目が恐怖を示した。
冴木のp220とファレルのmp7(サブマシンガン)が同時に振り上がり、拳銃弾は窓を切り裂き、男の頭をぶち抜いた。
支えを失ったドアが倒れ、怯えた四人の警備員が小屋に駆け込んだ。そこで彼らはスターウォーズに出てきそうなマスクと酸素吸入器を付けた二人組を見つけ、また海岸に出ようとした。
そこに容赦無く二人の銃弾がばら撒かれ、三人が倒れた。残りの一人は小屋からでた瞬間、古林のm4カービンから放たれた弾丸が亡き者にした。
「こんなもん何ですか?」
「馬鹿野郎、気を緩めんな。今のは殺せと言ってたようなもんだ。すぐ援軍が来る。」
松浦と中條が海岸に着き、ゴムボートをビニールシートで覆った。二人とも大きなライフルを背負っていた。
「第一斑、海岸確保。」
「第二斑、了解。」