狼の目1
難民地区には難民だけが住んでいるわけでは無く、政府が目をそむけている事をいい事に犯罪者も出入りしていた。テロリストと呼ばれるものが数十名潜伏していて、今北地区のベッドで唸り声を上げている二人もそうだった。
大抵テロリストは頭の無さをイデオロギーで、勇気の無さを暴力で、希望を妄想で埋めていた。しかし彼らは主張する犯罪者でも武器を持ったケダモノでも無かった。
たとえ今はケダモノでも。
勢いよくドアが開き、跨っていた男は少し困惑し、そしてその後目を怒りに染めた。ドアに立つ男はそんなこと構わぬ様子で声を上げた。
「たった今自衛隊が侵攻の準備をしているとの情報が入ってきました。」
男はそれを聞いて起き上がり、服を着始めた。女はぐったりしたまま目をドア口の男に向けた。
「全ての物をまとめろ。資料も銃もプリンターも全部。地下基地に移動する。」
「“原住民”どもにはなんて説明しましょう?」
「奴らに侵攻の事は伝えるな。俺たちを知っている奴らは何人いる?」
「顔を見られたのは二人です。マハムドと“老師”です。」
「殺せ。そしたらトンネルを使って逃げる。」
その二人は難民地区に彼らを潜伏させる代わりに技術を提供する、という交渉を結ぶ時に居た。グループ内での地位もそこそこ上だった。
「了解しました。」
男がドアを閉め、女が声を挙げた。
「もう一回位しないの?」
「お前も早く用意しろ。自衛隊とは戦っても勝ち目はない。こっちは20人しかいないんだ。」
「でも前哨チーム位は潰せるでしょ?」
「無駄なリスクは取るな。ここで死んでも社会に影響は全くない。」
二人は見つめあうとキスをした。
「じゃあ下に居る連中を見てくるからここの整理はお願い。」
「任せて。」
女はm9拳銃を腰のホルスターに挿し、男は小銃を肩に担いだ。
テロリストは結束することで自らの主張に自信を持ち、その行為を、つまりテロを助長させる。愛は一番強い結束の形だった。