待機1
この部隊が特殊な点、いや長所が一つあった。
全員の肩書が警察官なのだ。そのため全員に銃器携行、犯人の逮捕と尋問、そして射殺が認められている。これは自衛権しか持たない自衛隊の特殊部隊と比べて権利が大きい。
そのため人選は慎重に行われた。中隊長は篝修太2尉に決定された。そして篝2尉自身が多くの部隊を見て候補生の攻撃性を見極め、その中で優秀知能や知識、そして人間性を持つ人物が選ばれた。そのためレンジャー記章を持たない者も数名いた。
中隊は3小隊各24名、十二班各六名に分けられた。そして八時間ごとにローテーションで各小隊が即応待機の状態に置かれた。
冴木二士は頭を掻き毟り、眠気を払おうとした。彼は中卒でアルバイトをしながら自衛隊に入るために体力をつけた。そして一士として東京を防衛範囲に持つ第一師団に入った。そこであの篝2尉に誘われたのだった。そして一時間前に市ヶ谷に召集され、いまは高機動車に揺られていた。
十人位が入る高機動車に今は六人しか積まれていなかったので幾分快適だった。しかし他の五人は全員曹以上で、レンジャー記章を付けていたとなれば話が違う。ものすごく居心地が悪い。場違いな気がする。ただし他の五人はそんなことも気にしないようでいた。
「俺たちゃどこに向かっているんだ?」
一番年がいってるように見えた陸曹長が運転手に聞いた。
「湾岸の施設です。」
「ほお。聞いた事無いな。新設か。」
「はい。この部隊の為に新しく作られました。埋立地がいい値で手に入ったので。」
「機密保護は徹底されてる訳か。あんたも職員って訳か?」
「はい。情報部です。昨日までは警視庁にいました。明日からこの席はあなたの物ですよ。」
「名前は?」
「今村です。階級は3尉です。」
「3尉か。全く面白いもんだ。一日で昇級。」
陸曹長は煙草をふかし始めた。多分誰も文句を言えないだろう。
「俺は古林だ。」
さっきまでロボットみたいに思えた周りの人が同じ人間だと気付き急に楽になった。
冴木はか弱い男では無かった。百八十センチ、八十キロの絞られた体を持ち、格闘徽章と体力徽章、準特急射撃徽章を持っていた。二士としては稀有な人材で、飛び級も考えられていた。その話が持ち上がった時、彼はこれ以上ないくらい喜んだ。しかしすぐに取り下げられた。
「お互い初対面なら自己紹介ぐらいはしたらどうですか?」
運転手が前を見たまま言った。
「おい、そこで青くなってる二士、名前と所属を答えろ。」
くそ。
「冴木大河、所属は第一師団普連科第二中隊第二小隊にいました。」
「ほお。よくひよこ野郎がここまで来たな。」
「やめろ。一応同じ班員だ。それだけの理由があってここにいるんだろう?違うんなら帰ってもらうが。俺は准尉のファレルだ。一応班長だ。」
「そうだったのか?」
冴木の隣に座っていた二曹が声を出した。
「まあそのうち任命式があるから見てろ。教えられてないんなら言うが副班長は古林曹長、そしてバディは今向かい合わせの奴だ。だから俺は杉崎二曹と、古林曹長は冴木二士と、中條一曹は松浦一曹とだ。」
「ええくそ。俺が子守か?」
こいつは大変な目に合うと思った。専ら使いっ走りになるだろう。
「やめろ。篝二尉は明日から作戦行動をしたいそうだ。例えば、難民地域で毎日起こる犯罪の捜査に危険すぎるからって捜査員を派遣できないみたいだ。」
難民地域は難民認定された人々が暮らす地域だった。がしかし現在は犯罪組織の温床で「上野事件」にも繋がりがあった。
「そこで各小隊の一班が派遣される予定だ。喧嘩はやめろ。とにかく、頑張ろうじゃないか。」
そう言われた時に眼のやり場が無くて冴木は困った。明日から実戦と思うと暗い気分が幾分か吹き飛んだ。