2 - 3/破と急の合間
前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです
ひとの「好み」と云うもの。
千差万別。十人十色。
けど、同じにしないと、ダメなもの。この世は異端を許さない。外れた人間を嘲笑うのだ。外れた人間を裏切り者と罵るのだ。そうじゃないと、自分が報われないから。自分が頑張って、ひとに合わせているのに、その人間だけが自分の生き方を貫くのは不公平だと、思うから。抜け駆けを許さない、そんな感情が渦巻く。
あのひとが、あれを好きだと言うから、あれを好きになる。あのひとが、これを好きだと言うから、そのときだけ、これを好きになる。
いたちごっこ。なんとも滑稽。けど、その気持ちも解らないでもない。逆に、我が道を行く人間でも、後ろめたさや、不安になることはきっとあるはず。やっぱり、ひとと違うことは意識するし、それがおかしいのではないのだろうかと、理解されないのではないのだろうかと、仲間も恋人もできないのではないのだろうかと、普通の幸せが手に入らないのかも知れないかもしれないと。嫌なことを想像してしまうからだ。
変人は普通であることを嫌う。ひとりで居ることが当たり前で、他人を知らないから、ずっと自分の世界に居られるし、どこまでも我がままだ。だって、住んでいる世界が、常識が違うんだもの。別の世界、別の常識の世界で嘲笑われたとしても、自分の世界はどこまでも優しいし、「普通」だ。そこしか知らないから、そこがすべてだと思っているから、変人は、変人で居られる。
では、普通から変人になってしまった存在はどうだろうか? 普通から変人、と云うのは、普通だと思っていた人間が、ある日現実を知ってしまい、自分が普通ではないと気づいてしまった場合のことをさす。自覚のないまま成長を続けた結果、やっと自分の特異さに気づき、周りからの視線や、周りからの乖離している感覚を覚えるようになる。
考えるだけでも恐ろしい。最初から変人であると自覚している人間であれば、ある程度の諦めは着くだろうし、前述のとおり、自分だけの世界で満足できるようになる。まだ前向きな考えでいられると思う。そうじゃなかったとき、自分が普通じゃないと、ある程度の歳をとってから気づいてしまうとき。
「やった!」と、覚醒を喜ぶだろうか? いや、大体のひとは、それに苦悩すると思う。自分が普通とは違うことに対するこれからの不安で押しつぶされそうになる。夜とか、布団の中に入って「あぁあああー」って叫びたくなる。少なくとも、わたしならそうする。
けど、それは、たとえ変人だったとしても紛れもない、そのひとの「好き」。本来なら、尊重されるべきもの。ひとによって尊重の物差しは違うと思うけど、わたしとすれば、莫迦にしない、程度だと思う。どれだけ酷い趣味でも、吐き気を催すようなものでも、莫迦にだけはしたくない。そう、考え始めたのはいつだろう。
苦悩は、いつしか終わる。見せびらかせるものではないけど、その「好き」が両思いになったとき、わたしの中の常識は、少しこの世界から乖離した。他のひとには普通じゃなくても、わたしには普通になった。それでいいんだと思う。常識は解っているつもりだし、それが「一般人」と云う枠組みの中では異端であることもしっている。
わたしの「好き」は、『お姉ちゃん』。
うん。それでいいや。
―――じゃあ「好き」の反対は?
「嫌い」―――? 「無関心」―――?
うん。多分、そんな感じ。
で、わたしは『あの女』が「嫌い」だ。