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2/破 - 上

前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです



 シット。つまりSHIT。ファ―――なんとかと同じぐらい汚い言葉……らしい。

 いまの私の状況を一行で説明するなら多分そんなカンジ。

「これは…………生殺しでそうろう」

 意味もなく、使ったことのない、意味の解らない語尾をそえて、私は目の前にある光景をみる。

 とりあえず、お茶でもすする。ずずっ、とな。紅茶を音を立てて飲んではいけませんと、どこかの、ゆないてっど、きんぐだむのこうきなきぞくのかた、が言っていた気がする。だがしかし、日本人にそれは不可能な話なのです。だってラーメンも、味噌汁も、すするものだから。

 無駄に高いお金を払って、無駄に高い紅茶を飲む私。普通ならこんな店でお茶なんて飲まない。だってサービス料だけで通常の並盛三〇〇円ぐらいなのを、一〇〇〇円ぐらいのにされるんだよ? マジ、ファ―――


「お待たせしました。お、じょ、う、さ、ま!」


 語尾にハートマークついてると思う。

 ひらひらふりふり。ねこねこ、にゃんにゃん。時と場合によっては、わんわん、ふりふり。

 時刻、朝一〇時。こんな時間にこんな店がオープンしてていいのか? いや、多分いい。

「すっっごくいい」

 目の前で、きゅんきゅーんポージングをする奈々ちゃんのメイド服は実に絵になっていた。むしろ、そのままお持ち帰り、着衣セ―――ごほん―――シたくなるぐらい。マスターっ! この子いくらでテイクアウトできるん!?

「お嬢さま、お触りはゲンキン、ですよ?」

「え、あ……はーい」

 しまった。思わず手がでてしまうところだった。口より手より、足より、色んなものが先走ったりしちゃう私ですが、さすがに公共施設のなかではそんなことはしないデスよ。

 作ったようなほっぺぷくー、なポーズ。そのあとゆっくり、私のところに歩み寄ってくると―――

「夜は……空いてるにゃん」

 それだけ言った。わたし、マジ、ノックアウト。

 しかし、すぐに店員モードに戻る。そりゃそうだ、いまはわたしのかわいい妹じゃないものでして。

「今日のおススメ! にゃにゃちゃん特製オムライスだにゃん!」

 FOWOOOOOOO! けどお姉ちゃん知ってるんだ! このオムライスは奥の厨房で、小太りの強面おにーさんが作ってることーっ! ハラショーっ!



 ―――…………。

 お昼を過ぎると、やっとこさ安息が訪れる。

 奈々ちゃんの週末限定アルバイトも終わりを告げて、ここからは、私と、奈々ちゃんの時間になる。

「おまたせ」

 いつもの調子で、静かに、奈々ちゃんは私の横についてくる。

 バイト先ではあんな感じですが、いつもの奈々ちゃんはこんなカンジ。どちらかと言えば物静かなほうで、明るく元気なのは可愛いけど、ちょっと違うなぁ、って。私がずっと、物静かな奈々ちゃんしか知らないからだろうケド。

 ぎゅむ、っと奈々ちゃんのお胸が私の腕に当たる。端からみれば、とても仲の良い友だちか、姉妹に見えることでしょう。ですが違います! 私と奈々ちゃんは恋人なんです。

 かわいいなぁ。もう。抱きつく彼女の頭を撫でてあげると、奈々ちゃんは幸せそうに微笑む。……うー、ずっとこうしていたい気持ちを抑えつつ……

「そろそろ行こうか」

「……うん」

 名残惜しいですが、今日はデェトなのです。こうやって、ふたりだけで抱きしめたり、ゆっくりするのは家でもできるもんね。外に出たときにしかできないことを、今日はやらないと! っていうか、まぁ、このデートは奈々ちゃんへのお詫びのデートなので、主導権は私じゃなくて、奈々ちゃんなんだけどねー。

 奈々ちゃんの週末のバイトの都合上、デートする街はこの場所に限られてしまう。まぁ、仕方ないね。あんまり興味はないんだけど……奈々ちゃんはエライうれしそうだから私は気にしないことにした。いやね、さすがにちょっとこの街の雰囲気は好きじゃないかなー、なんて。冬なのに妙に暑いし、変な雰囲気だし、にゃんにゃんきゅーんだし。けどメイドさんはカワイイね!

「なんか、お姉ちゃん、メイドさんばっかりみてる」

 はっ! いかん、ばれてしまった。

「そ、ソンナコトナイヨー」

「本当に?」

「…………すんませんっしたァ」

「……わたし、メイド服着ようか?」

「いやいやいや! 大丈夫! そのままでも充分カワイイから!」

 これは本心。本当は、メイド服着た奈々ちゃんとか抱きしめながら一夜を過ごしたいぐらいだけど、そこはこの場の雰囲気ってことで惜しまれながらもそのままでも充分かわいいよチョイス。

 というか、本当にメイド服とか着られたらその場で襲うね、私。さすがにそこまで人間としてできた女の子じゃないよ、私。今日のコーデは奈々ちゃん大好き、フリフリ系ファッション。この街には凄く合ってる……っていうか、見渡す限りそんなコーデしかいないじゃんこの街! むしろそうじゃない私がおかしいんじゃないんだろうか、と心配になっちゃうほど。いや、ちゃんと見渡せば普通のひとだっているんだけどね、ウン。

 さて、デートと言ってもぶっちゃけそれらしいことを私たちがするワケではなく……

 つまり「デート」と銘打ったいつも通りの街中ブラブラなのであって……

 それが私たちにとってはそれなりに幸せなデートプランだからそこまでの不満はないし、むしろ、それ以外の方法っていわれると、力を入れたカンジの、こう、なんだろう、お堅いカンジになっちゃう。私たちみたいな人間からすると、デートっていうのは街にでて一緒に行動するだけであって、それ以外のデートはデートではないのであって……あれ、デートってなんだっけ? グルグル。

 とにかく! 私たちにとっては、ふたりきりで水入らずで、外に出て遊びに行くことがデートであって、雑誌に載ってるようなステキなデートプランなど皆無。ノープラン戦法なワケですよ。そりゃ、もし、ちゃんとしたプランを考えるなら、こんな街じゃなくてもっとお洒落な街にいきますよ、ええ。もっとナウでヤングな場所に。

 そんなことを考えているのはあくまで私だけで、奈々ちゃんはそうじゃないみたい。奈々ちゃん的にはこの街は嫌いじゃないみたいで、まぁ、そうじゃなきゃこんな街でアルバイトなんてしてないワケであって。うぅむ、姉としてはちょっと心配な部分ですが、恋人としては尊重するべき場所であって、やっぱり複雑です。個人的にはあんまり理解したくないような、どうなんだろうか。奈々ちゃんはなにも言わないけど、ちょっとは気にしているところがあると思う。

 恋人同士なのに、互いの趣味が合わないところがある。まぁ、そこは仕方ないよね。すべての相性がバッチリな恋人なんて、探してもなかなか居ないと思う。そんなカップルがいるのなら、多分凄く幸せで、楽しい人生を送るんだろうなー、などと考えながら。でも私は私で、現状には満足してるし、奈々ちゃんとの恋人関係は凄く幸せ。

 そう、くっだらない。そういうの、凄くクダラナイ。たったひとつのソリが合わない部分だけで恋人じゃなくなるのなら、そんな程度の関係は、すぐにでもぶっ壊れちゃえば良いと思ってる。わー、凄く乱暴な言葉。

 心配はするし、悩みはするけど、私はそれでも奈々ちゃんが好き。そういうところをひっくるめて。あ、なんか小説とかドラマみたいな台詞。うんうん。

「と云うワケでして、今日は奈々ちゃん主導のデートをしようと思います!」

 自分の胸にトンと手を当てて、その場で胸を張る。いや、お詫びのデートなので本来はこんな行動できる立場じゃないんだけどね! それに、奈々ちゃん主導デートにしようと思ったのも、そういう理由があるからだし。

 それに、この街のこと、何度もこうやって奈々ちゃんと来てるけどあんまり解らないし。様々な要因を含めても、奈々ちゃん主導が良い。

 奈々ちゃんは少し悩んだような素振りを見せた。けどすぐにいつも通りの微笑をして、私の手を取る。

「じゃあ、行こっか」

「うん」

 どこだか解らないけどね!



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