1/序 - 中
前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです
小学生ぐらいのときには中学生は凄く大人びてみえた。部活に、恋愛に、色んなことができる! と思っていた。
中学生ぐらいのときには高校生は凄く大人びてみえた。部活に、恋愛に、バイトに、色んなことができる! と思っていた。
高校生ぐらいのときには大学生は凄く大人びてみえた。サークルに、恋愛に、バイトに、自由な時間に、色んなことができる! と思っていた。
……うんまぁ、実際に大学生になってから、自由なところは実感できるようになったかな。最初の一ヶ月ぐらいはオリエンテーリングとかなんとかで時間を取られたけど、ちゃんと講義が始まるようになってからは完全に自由。空き時間も高校とかに比べて多いし、なにより自分の好きな講義だけを取れば良いので残った時間はすべて自由時間! なんて素晴らしい。
とは言え、私としてもちょっとはこれまでの生き方を反省して、ちょっぴり真面目になっている。
これまで明確な夢や目標もないまま、私は大学生になってしまったのです。はい、正直、大学も適当に決めました。人生ナメてます。
小学生ぐらいのときは将来の夢なんてのは、ひらがなで書くレベル。中学生になってもまだ曖昧で、自分がなにをしたいのか探す途中。高校生ぐらいになると周りのクラスメートは将来やりたいことを漠然だけど持つようになって、大学を決めて、勉強する。
わー、と感心している裏腹。私はいつまでも自分の目標なんてものはなくて、その場のノリで生きてきたし、これからもそうなるだろうって思っていた。興味とか、趣味とかあんまりないし、できれば一日中ゴロゴロして生きていたい。
「ヒマ、だなぁ」
大学の講義と言っても、やることはかなり自由。講義をしている先生を中心に、私たちは遠くからそれを眺めている。時折、質問とか、そう言う「やる気のある人々」の言葉が飛び交うけど、私は残念ながらそっちの人間じゃない。
こんな時間が九〇分も続く。そりゃあ、眠くもなるワケであって。
―――…………。
夕方にもなると、大学の敷地内の人間もまばらになる。昼間には大量の人間でごった返していた大学も、いまでは静かなもん。基本的に、みんな昼間の授業は真面目に受けて、昼過ぎの講義はあまり選択しないのが、真のエンジョイ勢の行動。で、ちゃんと勉強しにきている人たちは、そもそも自分のやりたいジャンルとか、興味のあるジャンルで選ぶから何時に来ようが関係ナッシング。夕方のキャンパスはそんな人たちで溢れている。
ぽけー…………
私はキャンパスの真中に存在している学生会館にいた。ここは、つまるところ、学生が雑談したり、食事をしたり、ゆっくりしたり、読書したりする場所。まぁ、広い空間にテーブルが何個もあるだけ。会館の端にはトイレと、あと自動販売機と、ポットがおかれてる。まぁ、完全に自由空間なんで、私みたいにここでゆっくりするひともいるし、友だちと遊んだりしてるひともいる。
眠い。凄く眠い。勉強するのは疲れるし、けど真面目な私になるためにも、ちゃんとお勉強しないとね。
私の夢はまだ決まっていない。願いはまぁあるかな、ずっと奈々ちゃんと一緒がいい。
ぽけー、とするのには理由がある。私は正直とっとと帰りたい。けど、帰れない都合がある。夢も希望もなく、これから先どうしようもない私ですが、世間はそんな私に牙をむくのです。だって、それが世間の仕事だもの。
ため息をついて、私は腕時計をみる。時刻はそろそろ一八時半。もう、今から帰っても約束の一九時ごろっていうのには間に合わないかなぁ。こんなときに限って携帯電話の充電はゼロで、いつもはバッグに入ってる充電器も忘れてくるという体たらく。大学生になって私、忘れ物とか増えてない? えっ、ウソ、老化?
一八時も過ぎて、もうこれ以上大学でやることないよ! ってひとはどんどん帰っていく。ここに残っているのは、仲間と集まれる場所がここぐらいしかないひとたち。もしくは上級生で、これから研究室とかに行く前にー、ってひとたち。ぐるりと見渡したカンジ、私ぐらいしか一年生いないんじゃ。
ちなみに先生との約束は一九時に多目的質だっけ? 確かキャンパス一号館の一階の奥だった気がする。まだこの学校に来て間もないしね、キャンパスガイドなしではマトモに動くことすらできないのです。
長い長い、一九時まであと三〇分。
「吉崎はちょっと……な」
「はい」
―――んでもって、私は何故か入学一ヶ月にて、こうして説教を食らう羽目になっているのです。心が……折れたわ……
ちゃんと講義にもでてるし、真面目にノートも取ってるし、まだ期間短いけど課題はちゃんとこなしてるし、解らないところがあったら質問するし! 私ってば優等生! って言われるならまだしもそうではありませんでした、まる。
ぶっちゃけ、なにも考えずにここまでくればいつか言われると思いました。むしろ、いままで言われなかったのが奇跡。自分のやりたいこととか、明確な目標が皆無な存在が大学まできてるっていうのはなかなかないと……うん、たぶん、思う。私と云うれ例があるのでなんとも言えませんが。
「まぁ、世の中には自分の目標とか夢を持てずに大人になる人間もいるからな。まぁ、悪い話ではないさ」
「はい」
私の提出した白紙の資料を眺めながら、私の所属する学科の先生のひとりはそう言う。
びしっ、と決めたスーツ。ぱりっ、としたワイシャツ。そしてなにより、おっぱい。おっぱい。おっぱい。このひとバストいくつあるんだろ。それでいて、お尻が極端に大きいわけでもなく、絵に描いたようなワガママボディ。私に奈々ちゃんが居なかったら即刻惚れてたわ。
そんな……えーと……なに、先生だっけ? えっと、えっと……
「一年生っていうこともあるしな。そこまで言わんさ。四年の間で決めていけばいい―――って、就活は三年から始まるからな、そんなに悠長にも言ってられんか」
「はい」
あー、そうだ。中野川センセイ。下の名前は忘れた。
大学に入学してたった一ヶ月なのにも関わらず、ミョーに付き合いがある。変なセンセイ。たった一ヵ月半ほどって言っても、二回ぐらい車でラーメン屋に連れていかれてる。
「復学ってもあるし、若干のアレもあるのかもしれないけどサ。その点は上手くやってるみたいだし、先生は一安心よ」
「はい」
ぐさっ、と痛いところを。
復学。
そうです。私は復学。つまり今まで私は最初の一週間を過ごしたあと休学していました。で、つい最近になって復学。なので、一一月となったいまでも私は新入生気分の一ヵ月半生徒。
いや別にいま流行の自分探しの旅をしていたとか、そういうワケじゃ断じてないんですけどね。色々と……
「さて、長々と話してしまったな」
「え、あ、はい」
部屋掛けの時計を見ると、時刻はもう二〇時前。うっひゃー……一時間も話してたことになるのかー。
「すまんな。送っていこう」
「え! いや、いいですよ! 全然! 大丈夫ですよ! まだバスもありますし!」
あたふたと手を前に出して、センセイを制止するが、このセンセイ、多少強引なところがありまして……
「良いって良いって。ほら、車に乗せてやるよ」
くるくると鍵を回しながら意地悪そうに笑うセンセイ。私はそれを断る勇気もなく、そのまんま連れていかれるのでした。あーれー、誘拐よー。