1/序 - 上
前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです
ゆったりとした腰つき。胸は私よりも少し小さいぐらい。髪形はロングヘアで、髪色は黒。寝ている姿はとても可愛らしくて、頬をぷにぷに触っていたいぐらい。けどやらない、起きちゃうから。
「―――、っくし」
ひとつ、くしゃみをする。
もぞもぞと布団の中から出ると、ディジタル時計についてる温度計の室温を確認する。寒いワケで、室温は現在8℃らしい。加えて、私はいま一切の服を着ていないから余計寒い。
夜の間は抱き合っているし、愛し合っているので寒くはない。むしろ熱い。あのときだけは室温が30℃は越えてるんじゃないかと思う。
いつもは私よりもあの子のほうが起きるのが早いけど、今日は特別。私のほうが早起き。やったー。
「はふっ」
……くしゃみの出来損ないのような声が出たところで、私はベッドの下に放りっぱなしの服を取り上げる。さすがに全裸は寒い。この季節にこの格好をシラフでやるのは無理。時期一一月。マジ寒い。
朝ごはんは今日は私が作る。
実に不本意です。が、私が先に起きてしまったので、仕方ありません。そう言う決まりです。寝たふりは通じません。嘘をついたら最愛の妹のKARATEで私の鳩尾がナントカカントカ・フィニッシュ。
部屋はワンルームに、廊下がひとつ。廊下に小さい台所が設置されてて、その横に洗濯機。台所を正面に、背中を向けているほうにトイレとお風呂がある。これで家賃六万とか都会怖い。本当に怖い。田舎に帰りたい。
冷蔵庫の中を開けると、材料は幾つか揃っている。昨日だったかに、買い物に行った記憶がある。そのときにしばらくはふたり分食べられるように多めに買っていたはず。お姉ちゃんとしては、妹との大切な買い物タイムが減るのでちょっと残念ですがそこは我慢します。お姉ちゃんですから。
朝はあまり時間を掛けたものを作りたくないと云うナマケモノ理論で、私は卵に手を伸ばす。卵と言えば、史上最強の手抜き料理用材料で、かつ料理下手な私でも簡単に作れて、ちょっと料理の出来る家庭的なオンナ? アピールが出来る素晴らしい食材。
ってなワケで、お姉ちゃんクッキング、今日のメニューはこちらになります。
トマトと卵の炒め物
ベーコンエッグ
トースト
昨日の夜の残りのサラダ、プラスごまドレッシング
トマトと卵の炒め物は最近教えてもらったんだけどどうにもいつもベチョベチョになっちゃって、あの子が作ったようにちゃんとしっとりな感じにならない。やはりこれが実力差か。
むむむっ、今日はお姉ちゃん上手く出来た気がするよ! と云う自画自賛。けど自分で味見するとやっぱり違うんですよね、知ってます。
ベーコンエッグは割愛。さすがに簡単過ぎた。
料理するのに三〇分ほど。そんなに時間は掛からない。お皿の上にお手軽ぶれっくふぁすとを乗せて、そのままテーブルに持っていく。
まだ寝てる。
かわいい。凄くかわいい。いますぐにでもお布団に戻って第三回戦をおっぱじめようと思うぐらいにはかわいい。
そろそろ起きるかな……? 別の場所に視線を向けると、そこには炊飯器。タイマーはあと一分を差している。しゅごー、しゅごー、と音を立てていた炊飯器も、いまは静かで、もう完成間近だと告げている。
私はゆっくりとベッドの脇に腰を下ろして、上半身だけをくねらせて、彼女のほうへと体を―――
ぴぴーっ、ぴぴーっ、ぴぴーっ。
甲高い音。それは炊飯器のアラーム。
それと同時に、ゆっくりと、彼女の目が開く。ゆっくりと、視線だけを動かして辺りを確認して、布団の中に居るはずの私を探す。それもそのはずで、さっきも言ったとおりいつもはこの子が先に起きて、私が起こされるから。
目標は見つけられず。残念、今日はお姉ちゃん先に起きちゃった。まだ私を探している最愛の妹の姿を眺めながらも、決して「もう起きてるよ」とは言わない。この子が私を探している姿をひたすらに眺め続ける。
たぶん、この時間は第三者が居ればほんの一〇秒。
けど私にしてみれば凄く長い時間に感じられた。
「お姉ちゃん?」
やっと、見つけてくれた。
「凄い。今日はわたしより早かったね」
「ちなみに夜は、奈々のほうが果てるの早かったよ」
顔を近づけて、頬すり。私の言葉にあの子―――奈々は顔を真っ赤にしてる。別に、どっちが先に果てるか競争しているワケじゃないし、長ければ良いってもんでもないし。些細な話。
「……お姉ちゃんが強いだけ。わたしはそんな強くないもん」
不機嫌そうに、アヒル口。わざとらしくやっているのがバッレバレ。けどそれもまたカワイイ。私の前じゃないと絶対にやってくれない、私だけの顔。ごちそうさまです。
そうして見つめあうこと数分。やっと、私たちは笑って、ベッドから体を起こす。
「おはよう。お姉ちゃん」
「おはよう。妹」
飛び切りの笑顔で、額と額をくっつけて、挨拶。キスは―――やめておきます。
「朝ごはん、出来てるよ。さ、食べよ」
「うん。―――というより、どれだけ早起きだったの?」
「あはは……」
わざとらしい笑い。けど、正直、私もびっくりするぐらい。むしろ、奈々ちゃんより、私のほうが驚いてると思う。
―――…………。
「ごちそうさまでした」
ぱちん、と手を合わせて、奈々ちゃんは頭を小さく下げる。
食事はいつも奈々ちゃんが最後。私はどちらかというと早食いの類で、すぐに食べ終えちゃう。昔からママに「よく噛んで食べなさい!」「丸呑みは太るわよ!」とか言われてたっけ。まぁ結局治らなかったんですけどね! ママ、ごめんなさい。
なので必然的に片づけは私がやることになっている。食べ終えた奈々ちゃんの食器を横から取って、そのまま小さな台所で洗いもの。その間、奈々ちゃんは歯を磨いたり、髪の毛をとかしたり……
んーっ。できれば私がとかしてあげたい。私が奈々ちゃんの髪に触れて、くしを使ってちゃんととかしてあげたい。ついでに匂いかいだり、後ろから抱きついたり。……っは、やっぱり私邪まな考えを……
私の髪型は肩につくかつかないかぐらいの長さで、奈々ちゃんみたいにロングじゃないからそこまで時間は掛からない。って言っても、あくまで〝奈々ちゃんほど〟掛からないだけで、女の子の髪の毛セット、お化粧、服の組み合わせチェックにはお時間が掛かるのです。
「お姉ちゃん。今日は何時までなの?」
洗いものがひと段落したところを見計らって、奈々ちゃんが私に問いかけてくる。
内容としては、私の学校の話。私と奈々ちゃんは別々の学校に通ってて、私は大学生で、奈々ちゃんは高校生。当然、大学生と高校生の生活サイクルは違う。毎日のサイクルが決まっている高校生と違って、私たち大学生にはそう言った決まりがない。
「うむぅ……」
ペラペラと、バッグの中から取り出したプリントをめくる。なにせお姉ちゃん、まだ大学生になってから一ヵ月半なもので、不慣れなのです。
「……今日の講義は午後からだねー。で、終わりは六時過ぎだから……」
「じゃあ、七時過ぎぐらいかな?」
「そうなるねー」
大学生の講義時間は九〇分。午後から私は三つの講義があるから、単純計算二七〇分。つまり、これだけでも四時間半。休憩時間も含めると、大体最後の講義が終わるのが六時一〇分。だから、帰りは七時ぐらいになっちゃう。まぁ、世の中にはもっと遠いところから学校にきているひともいるので、一時間も掛からず帰ってこれるなら早い早い。
この生活が始まってからと言うものの、まったく寄り道も、どこかで食事をすることもめっきりなくなっちゃったワケで。ちょっと友だちつきあいとかでどこかに行くことはあっても、そんなに時間は掛からないように、かつ平日のガードは固めにしてある。それもこれも、愛しの妹との時間を大切にするためなのです。
「晩ごはんはわたしが作るね」
にっこり笑顔の奈々ちゃん。わーい。
テレビに映った時刻は七時半を示そうとしている。私は午後から講義だからそこまで急いでないけど、奈々ちゃんはそうはいかない。高校生である奈々ちゃんには登校する時間が決まっていて、家を出ないといけない時間も決まっているのです。名残惜しいですが、そろそろお時間のようです。
奈々ちゃんは最後に姿見の前で自分の格好をチェックしている。ちなみに、奈々ちゃんの高校は制服じゃなくて、自由服。
「大丈夫、ちゃんと似合ってるよ」
私はそんな奈々ちゃんの後ろからそう耳元でささやく。ゆっくり、腕を回して、後ろから抱きしめてあげると、奈々ちゃんは小さく「うん」と頷いた。
「いってらっしゃい」
「いってきます……」
名残惜しいのは奈々ちゃんも一緒だったみたいで、少し足を止めてこちらを眺めて……私がひらひらと手を振ると、やっと歩き出して……見えなくなった。私は背中が見えなくなるまでそれを見ていた。