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4/了 - 下

前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです



 がちゃ、ぎぃ。

 …………そーっと、私は部屋に入る。時計を確認したら、既に日付は変わっていて、部屋の鍵は当然閉まっていて。とはいえ、私も鍵は常に持って行っているからね! ポケットのなかに入っていた鍵を使って、ゆっくりと扉を開き、中に入ったのでした。時間的に、もう奈々ちゃんは寝ていると思うし、音をたてて起こしたら問題だしね……。しかも、今日はセンセイとのお出かけだったし、奈々ちゃんの機嫌が悪くなるだけだと思うし、できれば気づかれず、最悪床で寝てもいいんじゃないかな。フローリングが冷たいけど。

 案の定、なかは暗闇に包まれている。電気も、テレビも、点いていない。ゆっくりと部屋の扉を開けて、少しずつ、なかを確認する。足元には珍しくゲーム機らしき四角の物体が置かれている。……奈々ちゃんが遊んでいたのかな。まぁ、正直私はもうアレはやりたくないね、うん。

 よし、と思って扉をあけていざ、部屋へダイブ……

「お姉ちゃん?」

 シィット! 後ろを取られていた! 振り返ると、寝巻き姿の奈々ちゃんが立っていた。どうやら、トイレに居たみたい。完全にその選択肢は失念していたよ! トイレの扉は閉めているとあんまり光が漏れないからなぁ。失敗、失敗。

「た、ただいま……」

「うん。おかえり」

 にっこり奈々ちゃん。……あれ? 機嫌が良い? というか、いつも通り? 思わず、私のほうが怪訝な顔をしてしまう。

「どしたの?」

 それに気づいたのか、奈々ちゃんが不安げに私の顔を覗き込んでくる。あ、あぁ、覗き込んでる奈々ちゃんの顔がかわいいんだぁ……っと、いけないいけない。こっちは逆に心配をさせているほうの人間なんだから、ちゃんとしないと。

「なんでもないよ。それより、まだ起きてたんだ。ゲームしてたの?」

 今度こそ、部屋のなかに入って電気をつけると、ゲーム機を指差す。

「うん。けど、本当の目的は……お姉ちゃんを待ってたの」

 ずっ、きゅーん。

 思わず、私心のなかでノックアウト。お風呂も入っていない体だと云うのに、私は思わず、奈々ちゃんを抱きしめていた。

「ごめんね」

 あぁ、でもやっぱり、この感触だよね。

 私が安心するのは。私が愛情を覚えるのは。愛しく思うのは。スキだと感じるのは。離したくないと思うのは。やっぱり、センセイじゃなくて、カワイイ妹、奈々ちゃんだよね。

 なお、一方の奈々ちゃんはまたもや困惑した表情。そりゃ、恋人同士、ハグするのは当たり前だけどさ、なんか突然、それっぽい雰囲気もなくされると困惑もするよね。解る。

「とりあえず、シャワー浴びてきたら? 待ってるから」

 ……はい、そうします。


 ―――………………。

 なんか、若干の煙草臭さを感じたけど、センセイかな。うーん、でも今日センセイ煙草吸ってなかった気がするんだけどなぁ。ま、いっか。普段吸っているみたいだし、臭いがちょっとぐらいついていても不思議じゃないからね。

 そんな臭いごと洗い流す。はー、さっぱり。お風呂を入れている余裕も時間もなかったから、今日はシャワーで我慢。こんな寒い日は、お風呂に入って温かくしたいところなんだけど、今日は仕方ないね。奈々ちゃんも待たせてるし、急ごうっと。ドライヤーで急いで髪を乾かして、私は奈々ちゃんが用意してくれた寝巻きに着替えて、部屋に戻る。

 お布団で待っている奈々ちゃん。うむ……今日はなんかどっと疲れてるし、一回戦ぐらいで許してもらおうっと……

 そんなことを考えながら布団のなかにもぐりこむと。予想を反して、奈々ちゃんは服を着ていらっしゃる。あれ、やるんじゃなかったの? 寧ろ、それを待っていたんじゃなかったのかな? ……それだけ聞くと、まるで奈々ちゃんがそういうのが大好きなひとみたいに聴こえるから辞めよう。

 もぞもぞ、と布団のなかに入ると、奈々ちゃんが私の体に腕を回して、抱きついてくる。それに答えて、私も体を寄せる。この季節だと、互いの温度で凄く暖かい。夏になると、とてもじゃないけど、こんなことやってたら死ぬね。やるんだけど。

 なにはともあれ、奈々ちゃんはなんか、ちょっと機嫌がいいみたいで……

「安心した」

「なにが?」

 ……思わず口にした言葉に、奈々ちゃんはそう返す。

「いやぁ、センセイと一緒に食事に行ってきたから、その、奈々ちゃん怒ってるかと思って」

 それでなくとも、この間の件で堂々とセンセイに対して「嫌いです」発言までしているワケで、そうなってくると、とはいえ私が約束したのが悪いんだけどさぁ。けど、恋人である奈々ちゃんが一番だって、今日の私は解っている。

「……うん。まぁ……。最初は、そうかも。凄く、イライラしてた」

 あ、やっぱり。朝から結構カリカリしてたのは、覚えている。顔には出さないようにしていたんだろうけど、ダメだったみたいに私は思えた。

「けど……いまは違う、かな」

「―――?」

 違う、とは?

「わたし、別にあのひとのこと、嫌いじゃなかった……かも……」

「えっ」

 思わず、姉、驚愕。あれだけセンセイに対して嫌悪感丸だしだったのに、ここにきてそれを覆すその心は!?

「というか……あのひとを見て、デレデレしてたお姉ちゃんが大嫌いだったってことに気づいたから」

 ―――つまり、私が悪いってことデスか。

「うん」

「断言したよ!? お姉ちゃん傷ついたよ!?」

 と、言うよりも、奈々ちゃんの口から私に対して「嫌い」ってことばが出てきたことが衝撃的だった。

「……まぁ……いままでちょっと……お姉ちゃんが好きすぎた、のかも」

「わーい」

「けど……人並みに悪いところだってあるワケで……。恋人だからって理由で他人に対して神経質になりすぎた、ってところもあるワケで……」

 それなりに、奈々ちゃんも悩んで、考えていた、ってことかー。というか、なんで昨日、今日で奈々ちゃん、そんな考えて、結論にたどり着いたんだろう……。他人に対して嫌悪するような子じゃなかったけど、センセイに対する態度は確かにおかしかったワケで。それを改めるに越したことはない。けど、センセイにそんな印象を覚えたところで申し訳ないんだけど。

 私も、ちゃんと今日あったことをお話しないとね。

「―――実はね、奈々ちゃん。私、今日、センセイにスキって言われたよ」

 スキ。この場合のスキが、どういう意味を持っているのか、奈々ちゃんもすぐに理解したらしい。

「やっぱり」

「え、やっぱり?」

「解ってたもん。あのひとの、お姉ちゃんを見る態度で。だから、わたしはあのひとの行動とかひとつずつに、お姉ちゃんが反応して……それで、お姉ちゃんの心がわたしから、あのひとに行っちゃってたのが嫌だった……」

 ―――あぁ、なぁんだ。そんな、簡単なことだったのに。私、全然、気づかなかった。

「けど……私の一番は、奈々ちゃんだよ。だって、ずっとそうだもん。昔から、嫌なことも、嫌いなこともたくさんあって、けどそのたびに喧嘩することも全然なくって。これだけ一緒にいて、嫌なことも知り尽くしてるのに、恋人になれたんだもん」

「うん。

 そんな、当たり前のこと、わたし…………忘れてたの」

 ぎゅっ、と、奈々ちゃんの抱きしめる力が強くなる。

「体とかの関係でつなげなくてもいい。だって、わたしはお姉ちゃんが大好きなんだもん。そして、傲慢だけど、わがままだけど、思い上がりだけど、お姉ちゃんもきっとわたしが一番だって……信じてる、信じられる」

「当たり前だよ。私にとって奈々ちゃんは、これ以上ない、最強の、恋人だよ。好きなところも、嫌いなところも、全部、全部、全部、知ってる。なのに、嫌いになんてならない。だから、きっと」

 そう。

 この愛は。


「永遠」


 だと思う。ううん、思うじゃなくて、永遠。クッサイ、台詞。だけど、この場面ではこれぐらいが丁度いいんじゃないかな? 王道で、漫画らしい台詞だけど、そういう台詞はこういうときに使うためにあるワケだし。

 愛しくてたまらない。いくら抱きしめても、この気持ちは埋まらない。愛しくて、大好きで、もう、狂っちゃいそう。

 暗闇でよく見えない奈々ちゃんの顔を手で引き寄せて、私は奈々ちゃんの顔をぺろり、と舐める。そしてそのまま頬を伝って、舐めていくと、目的の場所を見つける。奈々ちゃんの唇。それに、唇を重ねる。

 好き、なんて台詞は出てこない。会話なんてこのときには要らない。この口づけだけで良い。

 ステキなクリスマスは、イブが終わったばかり。クリスマス当日は、もっと、もっと、もっと―――


/了


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