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3 - 4/【Eclipse】

前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです


また、この話は蛇足的な内容です。



【eclipse...】


 街の間に存在している古くより存在しているその店は、最近はその姿を消しつつある。様々な要因があるが、なによりも客足が遠のいていると云うこともあり、設置コスト、維持費用の基を取ることが不可能になってしまったからである。ゆえに、次々と姿を消すそれらは、いつしか大手会社のようなものが経営する代物しか一般大衆の目からは消えてしまっていた。

 しかし、それでも、だとしても。多くの店はまだ古くからそこに存在している。

 この店はかなり活気のあるほうであった。多くの人間がそこにはいる。時間帯もあり、居るのは大学生などの学生が主であり、そこにスーツ姿の若い男や、中年ほどの男までも混ざっていたが、そこに女の姿は少ない。この場所が、そういった、男が中心の店なのだと思わせる。

 二一時半ごろに入ってきたのもまた、スーツ姿の男であった。彼は、いつものように軽く緩めたネクタイと、だらしなくボタンを外したワイシャツ姿。だが、いつもと違うのは彼ではなく、この店のほうであった。いつも彼の居る席に、あまりにも多くの人だかりができているからである。思わず首を傾げる。

「なに?」

 男は気さくにそこに居るひとりの男に話しかける。相手もその男がいつも見る常連と云うこともあって、突然の来訪には驚かず「ほれ」と指を差す。

「凄いな。二〇連勝もしてるのか」

「まぁ……けど見てなよ。寒いよ」

「寒い?」

 彼は首を傾げる。その理由はすぐに解った。

「…………なるほどね」

 彼らの興じているのは「テレビゲーム」だ。とはいえ、一般的に想像する、テレビにつないで行うゲームではなく、彼らはこう云った場所に集い、ここにしかないゲームに興じる。彼らには彼ら独自の用語が存在しており、一般には理解しがたい使い方をしているものも多数ある。

「まぁあとは……やってる人間だよね」

 ほれ、と短く彼は、差していた指先を今度はモニター付き筐体の横へとやる。つまり、向かい側に座っている対戦相手を見ろ、と云うことなのだろう。余談だが、彼の手前に居る人間はスーツを着た男であった。

 指差すほうはひとで溢れているので、一度回って、別の方向からそちらのほうを覗き込む。ひとの頭の隙間から見えた、長く、真直ぐな、男とは違った雰囲気を放つ髪質。それを見て、彼は確信したのだ。「あぁ、なるほど」と男は今日二度目の相槌をうつ。

「女だ」

 もとの場所に戻ってきた彼は、知り合いにその成果を口にする。

「そりゃ、ひとも集るワケだ」

「だろうともさ。しかも、こんな女っ気のないゲームで、しかも腕前はそこそこある。ここにいる男どもが『姫』と崇めても不思議じゃあ、ない」

 意地悪そうに笑う。もちろん、あえて聞こえるように言ってるのだ。莫迦にしているのだ。自分たちの立場や、自分たちがどういった人種なのか解っているからこそ、出る言葉だ。毒のある言葉だが、事実であり、彼はこういったこの人物の言動を意外と気に入っていた。プレーヤーとしても、そこそこの尊敬の念を抱いているのもまた確かだ。

 その後、ゲームの決着がついたのかまた騒がしくなる。

「どうやら連勝は続くみたいだね。だいぶ一周したカンジがするけど……」

「この場にいる、腕に覚えのある連中は全員ダメだったのか?」

「んまぁ、時間帯もあるしね。とはいえ、僕もダメだったし」

「へぇ……」

 感心する。なら、自分は出る幕ではないな、と彼は思う。なにせ、この中では中堅の下といった実力だと思っている。手前にいる彼が負けたのであれば、自分が出ても勝てる見込みはない。顔の見知った人物同士の手合わせならともかく、そうでないのであれば、ここで向かって、負けて、惨めな思いをするだけで終わる。

「誰が止めるやら。しかし、あんな子、他のところでも見たことないし……埋もれてるものだねぇ」

 だが、横目で彼は見ていた。―――店の扉が開いた。新たなチャレンジャーは、ゆっくりと、店内に入ってきているのを見ていた。


 そこそこの手ごたえを感じていた。吉崎奈々にとって、この手の場所にくるのは初めてではないし、寧ろ、二年も経たない前にはここには世話になっていた。なのだが、二年とは人間の入れ替えがあったとしても不思議ではない時間であり、既にここは奈々の知らない空間へと変わっていたのである。立っている人間のほとんどが解らない上に、雰囲気も一転していた。昔はもっと、この店は静かな店だった。

 姉とはあまりやっていなかった―――と、云うのも奈々が強すぎたためにゲームにならなかったというものもある―――こともあり、ひとりでやっている時間のほうが長かった。しかし、これまでのやりこみは変わっておらず、なにひとつ不自由なく、目の前のキャラクターを操作することができた。

 いつもであれば、満足できる。自分のやること成すこと、すべてが上手くいっているように思える。だが今日の彼女は違っていた。ただ、もっと貪欲に勝ちを求めていた。自分のなかに存在している苛立ちを解消するために、自分よりも強くても弱くてもいい。完膚なきまでに叩き潰し、「勝利」と云う栄冠を取り続けたかったのである。ゲームゆえに、ある程度の卑怯なことは認められている。彼女が行っている行為は、ゲームをしている人間同士では嫌われる行為であったが、一般的に咎められるような行為ではない。

 連勝数が五を越えたあたりで、ひとが集まり始めた。そして、一〇を越えたときには、そこそこの腕の人間が現れるようになった。そして、二〇を越えたら今度はひとが入ってこなくなった。彼女に対抗するような人間がいなくなったのだろう。このまま惨めな思いをするぐらいであるのなら、このまま彼女が対戦相手が居なくなって、店内から出ていってくれるのを待ったほうが良い。そんなことを考えているのだろうと、奈々は想像する。もちろん、それが本当のことかどうかは別として。

 苛立ちを発散させるのに、これだけ気持ちの良いことはなかった。ただ、ひたすらに相手を挑発し続けて、叩きのめす。しかも相手は男。自分のようなゲームに疎いと世間一般的に思われている女に負けるなど、彼らのプライドが許さない。そんな連中ほど、彼女にしてみれば絶好のカモであった。

 ―――だがまだ足りない。この苛立ちを消すのには、まだ「生贄」が足りなかった。もっと、もっと、彼女は勝ちたかった。

 台を立つ。店の端にある自動販売機に百円玉一枚で、紙コップにジュースが注がれる。台は彼女が勝ち続けている限り、彼女が占領できる。なので席が取られることはない。つまり、奈々を退かすには、彼女を倒す人間が現れなければならなかったのである。そしてその気配はなかった。周りにギャラリーは居ると云うのに、自分の向かい側の席に立つ人間は一切居なかった。

 思わず、ため息が漏れる。それは周りのギャラリーに聞こえるように。奈々は挑発しているのだ。「なぜ、誰も入ってこないの?」と。

 ……長い時間が経った。ひとり用のゲームモードが終わりを迎えようかとしているところで、違和感を感じる。騒がしかった、周囲の人間の口数が減ってきた。そして、なにやら、人々が道を開けているようにも見える。

 ジャリ、と音が響く。百円玉をこする音。それを筐体の上に置いた音。誰かが、そこに座った。

「―――っ」

 背筋が振るえる。ゆっくりと座る。その感覚。解るのだ。相手が、只者ではないと。違う、雰囲気だ。周りの人間が息を飲んで、その光景を見守っている。騒がしかった店内が一気に静まり返った。聞こえるのは、別のゲームに興じている人間の声と、ゲームの音だけ。なにかとんでもない怪物が、この場所に現れた。そんな雰囲気。

 オーラ、と云う言葉がある。それは目には見えないもので、ひとに感じることができるのかすら怪しい曖昧なもの。もし、それを見ることができたのであれば―――それはきっと紫色。この空間の殆どを覆うような、巨大ななにか。

「ショ――だ」「――コラ――が、い―も――時間が違うな」「いや、最近はこれぐらい―――」「あぁ――が出来たんだっけ? い―よなぁ。――イイし」「実は―――――するってウワサも――らしいぜ」

 なにか良く解らない会話。途切れ途切れで、いまいち、なにがきたのか解らない。乱入者を告げる演出が画面に出て、我に返る。

〝ノーカード〟

 奈々は心で呟く。相手のプレイヤーの力量を戦績で測ることは出来なさそうである。自分たちの戦績を記録するカードを持たないプレイヤーは別に珍しくもない。そのほうが、妙な先入観を持たずに戦えるからである。もちろん、久しぶりにこの店に来た奈々もまたノーカードだった。

 選んだキャラクターはいたってシンプルなもの。

〝寧ろ、有利〟

 だがそれで慢心して負けるようものなら、苛立ちは加速する。油断はしない。

〝軽く……〟

 そんな気持ちだった。


【eclipse end】



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