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3/急 - 上

前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです



 ある日の、朝。

 平日の、朝。

「ふぁ」

 情けない声を出して、私は覚醒する。うー……寒い寒い。まだ眠いし、布団のなかに潜っていたい。そんなカンジ。私は断然、猫派だね。猫はコタツで丸くなる。本当に良い言葉。にゃんこはコタツで丸くなるー。私は布団で丸くなるー。

 丸くなろうと体をへの字に曲げる私。すると、なれた感触がないことに気づく。そう、奈々ちゃんが布団のなかにいないのだ。まぁ、たまーに、私のほうが早起きで、奈々ちゃんと布団のなかでご対面とか、私が先に布団から外に出るとかはあるけどさ。普段は奈々ちゃんのほうが早起きなのです。奈々ちゃんは高校生だし、まだ学校は時間通りにいかないといけないからねぇ。お姉ちゃんは感心しちゃうよ。

 ごろんと、寝返りをうって、壁のほうを向く。

 ん? となって、もう一度寝返りをうって、今度は部屋のほうに向く。あれ? 奈々ちゃんはそこにはいなかったのです。おかしいな、と思って私はようやく重い体を起こして、部屋を見渡す。いつも通りで、なにひとつ、変わらない部屋。模様替えすらしないこの部屋は、もうしばらくお世話になると思う。カレンダーは一二月後半。今日は一二月二〇日。もう少しで、世の中の恋人たちの力強い味方のクリスマス。今年もやってくる。もちろん、私と奈々ちゃんも予定はバッチリ! 久しぶりにちょっと良いところに外食しにいく予定。えー、誠に申し訳ないのですが、お金は奈々ちゃん持ちです。わー、年上の威厳ゼェロ、ZERO。

 立ち上がって、ディジタル時計に目をやると。あーらら、もう昼前。どうやら私は最高の一二時間睡眠をやらかしやがったみたいで、なるほど、どうりで体が妙にだるいと思ったんだ、てへぺろ。つまり、奈々ちゃんはいなくて当然で、いまは学校に行っているってワケ。

 とりあえず、テレビでもつけてみる。平日のお昼の番組って、昔は風邪をひいたときしかみることができなかったけど、大学生になってからは結構な頻度で見るもんだなぁ、と思う。多分、そういうところも含めて番組に若者用の特集組んでるのかな? ―――いや、ないな。すぐに私は否定する。

「あー。那古屋のケーキおいしそー」

 ぐー、とひとつ、お腹が鳴る。朝も食べてないし、それにテレビでおいしそうな特集をやっているとお腹も減るってもんよ。奈々ちゃん、なにか置いていってくれてないかなぁ。ごそごそ。

 冷蔵庫のなかを開けると、そんなものはあるワケもなく、代わりに冷蔵庫の扉にマグネットで置手紙が置いてあった。

『寝坊しちゃったので、朝ごはんはナシ。お姉ちゃん、ゴメンね』

 可愛らしい文字で書いてあった。いえいえ、ご飯がなかったのは非常に寂しいですが、そもそも忙しいなか作ってもらえると思っているのは虫がいい話だしね! 非常に寂しいですが!

 そんなことよりも、つまり食事は作るか、外に食べに行くぐらいしかないんだ。うーん、冷蔵庫のなかをパカリと開けても中身はたいしたものはないなぁ。買い物いかないと、食事は作ることはできなさそう。

 ってことは、やっぱり! 外食、外食!

 奈々ちゃんと一緒にいると、料理を一緒に作ることが多くなってきたし、ここ最近外食も行ってないし! クリスマスに外食にはいくけど、その前に一度ぐらい外で食事してもいいよね! それぐらいは許されるよね! あ、もう今日大学いくのやーめた! お休みにしよっと! そうと決まれば準備しないとね!

 別に奈々ちゃんとお出かけってワケじゃないけど、私は張り切って服を選ぶ。とは言うけど、私のチョイスは基本的に勘。なので、どれだけ悩んでも三〇分も掛からないワケであって。そのうちの殆どが化粧する時間だしね。変に時間を取られて外に出る時間が遅くなるよりも、早く出て平日休暇を楽しまないと損だよねー。

 戸締り、火の元、ブレーカーおっけー。さて、外に出ようっと。家の鍵をひとつ取って、私は外に出る。―――と、階段をのぼってくるみなれた姿。あれ、センセイ?

「ん。おぉ、居たのか」

「いやいや。先生、暇なんですか? まだ平日の昼間ですよぉ」

「その台詞、そっくり返すぞ。私だって暇ではない。だがな、今回は特別に、このプリントをオマエに渡しにきた」

 わーい、なんか嫌な予感がする。

「感謝しろよ。今日提出のプリントだ。これを今日中に提出しないと単位はやらんぞ」

「なんですとぅ!?」

 横暴! 鬼! 悪魔! おっぱい魔人!

 プリントの枚数を確認する私を他所に、センセイは私の部屋の中をのぞこうとしている。ちょっと、なにやってるんですか、ひとが真剣にこれからのことを考えているってときに。それでも教師ですか、マジで。

「おいおい……。いや、今日は妹は居ないんだな、と思ってだな」

「いやいや。だって今日平日ですよ? 平日の昼間に堂々と学校行かずに外に出てるのなんて、不登校か、大学生ぐらいですよ」

「あぁ、今日は平日か」

 ぽん、と手を打つセンセイ。もしかして、平日だって気づいていなかった……? とかないよね。

「うむ、最近忙しくてな。休日にも学校にいたりしてたからなぁ、すっかり失念してた。研究室を持っていると色々と大変なんだぞ」

 へぇ、と感心する。ちゃんと先生としての仕事はしてるんですね、てっきり暇で暇で、そろそろクビになるのかと思っていましたよ。

「そうなったら、スミレに養ってもらうか……」

「さらりと情けないこと言わんでください」

 とはいえ、私の将来最悪、奈々ちゃん養ってもらう未来が見え隠れしてるから人事じゃない。実はちゃんと学校行って、就職先とか決めておかないと完全にストリングになってしまうんじゃ。ストリング・イズ・ヒモ。

「ふむ……」

 なにを考えているのか、センセイ。


「よし、今日はスミレの部屋で遊んでいこう」


 ………………は?

 三秒ほどの空白があったあとで、私の思考回路が追いつく。

「どういう理屈ですか?」

 冷静に返してみることにした。まぁ、もしかしたらセンセイお得意のジョークかもしれないし、冷静に返したら本気にしていると勘違いして撤回してくれるかもしれないし。うん。それに私お腹減ってるから早くご飯食べにいきたいんだよね。とっとと、この状況を打開しないと。

「本気だぞ。プリントも回収しないとだしな。なぁに、同じ女同士だ、隠すものなどなにもないだろう?」

 いやぁ、その理屈はどうかと思うなぁ。センセイ。ぶっちゃけ私たちの部屋の中に興味があるだけでしょー。とはいえ、センセイの言っている通り、別に部屋にやましいものがあるワケじゃない。大人な玩具もないし、エッチな本もないし、エッチなDVDもないし、やだ私って健全!?

「プリントを出さないと、単位ないのは本当だからな?」

「突然真面目な声を出さないでください。って、マジですか……」

「オマエの授業態度は真面目だがな……まぁ、オマエには色々とあってな。特別扱いできないこともあって、こうして厳しいプリントの山を、しかたなーーーーーく、出しているんだ」

「なるほど、しかたなーーーーーくですか」

「しかたなーーーーーーーーーーくだ」

 ……とはいえ、夜になったら奈々ちゃん帰ってきちゃうし。そうなったら私は奈々ちゃんへのほとばしる愛情表現でつきっきりになっちゃうし。プリントを明日出せ、って言われても出す自信はない。つまり、単位を落として、二年生で地獄を見る羽目になる、ってところまでは想像できた。

 脱線すると、私の通う大学は一年目からの留年は存在していない。一年目はどれだけ成績が悪い人間でも、出席日数が足りない人間でも、二年生になることができる親切設計。その代わり、足りない単位とか出席日数はズルズルと次の年にも引き継がれるので、わーい、二年生をもう一度だぞぅ、とかあり得る。マジあり得る。もぅ、まぢむり。

 閑話休題。

 そんなこととかぐるぐると考えると、ここでセンセイに見張っていてもらって、あわよくば教えてもらって提出するっていうのもアリ―――なのか?

「っていうか、センセイ。時間大丈夫なんですか?」

「あぁ。別に問題はない。夜には研究室に戻らないといけないがな。そこまで掛かるまい」

「特定の学生を贔屓していいんですか?」

「……まぁ、オマエは特別だ。それに、研究室に入れば、嫌でも触れ合う時間は多くなるから、贔屓はどうしても出てくるしな。あと、スミレの場合は事情もあるからな、ある程度は目を瞑ってくれるだろう」

 むむむっ。これ以上言葉が見当たらないぞ。完全に断る言い訳を失って、私はもうセンセイを部屋にあがらせないといけないようなカンジになってきた。

「お腹減ってるんですよ。私、今起きたばっかなんでせめて何か食べさせてください」

「あぁ、それなら問題ないさ。出前でも取ってやろう。金は心配しなくていいぞ、私が奢ろう」

 わーい、センセイの奢りかしらー。出前ってことは、お寿司かな? ウナギかな? そういえば、出前って全然取らないなぁ。実家に居たときは、たまに取ってたけど、ソレも本当に、一年に一回あるかないか、ってぐらいだし。そもそも、出前取ってる店、すぐ近所にあったから、直接食べに行ってたんだよねー。懐かしい。出前のチラシとか投函されるけど、すぐに捨てちゃうから、このあたりで何があるかは解らないけど、その辺はネット社会だしね、携帯電話で調べればいいもんね。

「出前と言っても、寿司とかウナギは駄目だからな。ラーメンだ、ラーメン」

「デスヨネー」


 ―――…………。

 部屋のなかは、昼過ぎのサスペンスドラマの再放送の音と、私のプリントをめくる音が響くだけ。おかしい……手渡したプリントは一枚だったのに、提出用とか言ってプリントが四枚増えて五枚になったんだけど……。センセイ曰く、本来やるべきだった前期の分も含めているとかなんとか。正直、参った。

 当のセンセイは、私の出した座布団の上で女の子らしい座り方をしながら、テレビを見ていた。どうやら、バラエティよりも、サスペンスドラマのほうが好きみたい。うーむ、私はバラエティのほうがよかったなー。だって、サスペンス見てても、ひとが死んで、事件を解決するおっさんが出てくるだけだしなぁ。そんなことを言ったら「バラエティだとそっちが気になって作業が進まないだろう?」と返ってきた。えぇ、まったくその通りですよ。

 プリントの内容は、出された時期もバラバラだったせいか、一枚終わって次のプリントにいくと全然違う内容で正直萎えちゃう。あー……もう投げ出して不貞寝したいよ。ちらりとベッドのほうを見て、また、プリントのほうに視線を戻す。驚いたことに、センセイがいると、自分の部屋だっていうのにワリと集中して作業できた。本人はテレビみてリラックスしてるけど。

 あー……もうなんか、奈々ちゃんをぎゅっぎゅ、したい時間帯。疲れてきたし、なんかなー。甘いものでも食べたいなぁ。

 そんなことを考えていると、丁度サスペンスドラマがCMに入って、センセイが視線をこちらに向けてきた。

「む。終わったのか?」

「いえいえ。ぜぇーんぜん。まだ半分ってところですよ」

 終わったプリント二枚と、手をつけているプリントを見せながら、私はそう答える。

「ふむ。では、そろそろ休憩でもするか?」

「する!」

 はいはい! 待ってました! さすがにぶっ続けは私が死んじゃうよ! なにか甘いものを食べることを提案します! できれば那古屋のケーキがいいですっ!

「また高いものを……」

 一般的には高いジャンルに入る那古屋のケーキは、それはそれはもう美味しいんですよ。ええ。本当に一般市民感覚の高級ケーキ屋と言っても過言じゃない。お金持ちのひとがどう思うかは解らないけどねー、それはそれ、これはこれ。感性が違うのは仕方ないのです! ですが! 私は気にしません、だって美味しいものは美味しいと言う。これ、私のセオリーね!

「仕方ないな、では行くか。車で来ているからな、丁度いい」

「え! 本当ですか!?」

「まぁ、良いだろう。私も、甘いものは嫌いじゃない。それに、車を止めている場所が制限時間着きで安い。ここで一度出たほうがリセットされていい感じだろう」

「うわ、セコッ」

 ちなみに、那古屋とは、お菓子屋さんとレストランが合体したような店。つまり、店で食事をして、そのあとデザートとしてお菓子を食べることができると云う女の子にしてみれば夢のような場所でして……。とはいえ、オープンしたのは結構最近って奈々ちゃん言ってたっけ? まぁ、そんなのどうでもいいや。あと、店長さんは結構若い女性の方らしい。この前、テレビに出てた。那古屋、って云うぐらいだから、やっぱり那古さんって云うひとだったのを思い出す。


 ―――…………。

 …………時刻は回って、夕方前。五時ちょっと前。

 私、轟沈寸前。

 プリント? 終わらない……

「むむむむむむむぅぅうううう」

「……だから言っただろう。この場所はこうだと……」

「それが解らないんですって!」

「オマエも要領が悪いな。そういうものは、そういうものだと思ったほうが後々楽だと言うのに」

「教師とは思えない台詞ですよ、それ」

「ふむ」

 そりゃそうだ、とセンセイは付け足す。

 あー、早くしないとそろそろ奈々ちゃん帰ってきちゃうよー。うー……早く終わらせないと。

「焦るな。そういうときほど、ミスも多くなるぞ」

「そもそもセンセイがプリントなんて持ってくるのが悪いんですよー」

「ふぅ……オマエにも困ったものだな。しかし、放ってはおけん。どれ、少し気分転換でもするか?」

「うー。そんなことしてたら奈々ちゃん帰ってきちゃいますよー」

 ただでさえ、奈々ちゃんどこかセンセイのこと苦手みたいなんだし、早いところ終わらせないといけないんだけどなぁ。けど、言ったとおりで、焦っても良いことないし、ミスばっかりっていうのもアレだし。折角、センセイに教わりながらやってるんだし、少しはいい点数取りたい気がする。あくまで、気。

「気分転換っていってもなぁ……」

 いつもなら奈々ちゃんをぎゅっとすると気分転換。

「……クッションでは駄目なのか?」

 ちょいちょい、とセンセイがベッドの上のクッションを指差す。あー、それでも良いんですけど、やっぱり人肌がぬくいといいますか。この時期になると特にね、ぎゅっ、とすると、結構いい感じなんですよね。アニマルセラピー、と云うか、そんな感じかな。奈々ちゃんセラピー。

「そうか…………」

 ―――? センセイがなにか考えている仕草。


「なら、私でも問題ないな?」


 ―――うぇい?

 おぅけー、少し考えよう、うぇいうぇい。プリーズ、うぇい。

 現状、私は気分転換がしたい。奈々ちゃんが居たらぎゅっとしたい。けどクッションでもいい気がする。けどやっぱり奈々ちゃんがいい。

 で、ここからが問題で、それなら自分でも問題ないよね、っていうのがセンセイの意見。

 なるほど。

 なるほど。

 なるほど。

 なるほど、―――。

 なるほど!?

「えっ、ちょっ」

 有無を言わさず、センセイが私の体を引っ張る。うぇ、凄い力。センセイなに? 体鍛えたりしてるの!? それとも私が貧弱なだけ!?

 …………あ。

 そのまま私は、センセイの胸に顔をうずめる。うぉ、マジ、おっぱい……

 奈々ちゃんとは全然違う。柔らかさも、匂いも。全部が違う。それが自分がいま奈々ちゃん以外の女性を抱きしめているんだと、思わせる。

 ぞくり、と背中が震える。恐怖、じゃない……。これ……あぁ、そうか。

『背徳感』

 そしてそれに伴う、なにか、こう違う。苦いカンジじゃなくて、凄く甘い。甘美な、なにか。悪いことをしているのに、なにか凄く気持ちよく感じるアレ。

 腕が動く。この腕が、どこに行くのか。


 ―――オイ、ソレハ、ケッシテ、サキニ、ススンデハ、イケナイ、ミチダゾ。


 頭のなかのなにかが、そう囁く。


 ―――タタイテハ、イケナイ、トビラダゾ。


 元々、おかしな思考回路だし。


 ―――ソレヲ、ケッシテ、セイトウカ、シテハ、イケナイ。


 いやいや、ただじゃれてるだけ。本気じゃないよ。気分転換、気分転換。


 ―――デハ、ワタシハ、ナンダ?


「はぁ―――、―――、ふぅ」

 センセイがひとつ、ため息を吐いて、私を放す。

「どうだ?」

 …………あ。

「え、あ、はぁ。まぁ、大丈夫です、はい」

「―――? どうした? あぁ! 煙草臭かったか?」

「いやいや。大丈夫ですよ」

 なんだろう、ちょっと、残念って思ってる私がいる。

「ほれ、プリントを終わらせろ」

 指を指されて、私はようやく我に返る。……今、ちょっと悪いなにかを感じた。なんだろう、けど、もう居ない。私のなかにいた何かが、突然現れて、すぐにまた出ていった。うーん、まぁ時折あるよね。自分じゃない自分が自分のなかに現れることって。


 ―――…………。

 やっと、終わったぁああああああああああ。

「ふむ。全部できてるな。ご苦労さん。これで私も研究室に戻れるな」

「いやぁ、ありがとうございましたぁ」

 センセイが居たおかげでなんとか集中力を保って、プリントすべて終わらせることができた。うーん、感謝感激。単純計算、プリント一枚に平均一時間ぐらい掛かってたと云う効率の悪さだったけど、なんとか、奈々ちゃんが帰ってくるまでには終わらせられたかなぁ。

 時計は夜六時を指してる。あともう三〇分も経たないうちに奈々ちゃん帰ってきちゃう!

「そうか。では、私はお暇するかね」

「あ、玄関まで送りますよ」

 さすがにそれぐらいはしておかないとね。

 玄関までやってきたセンセイと私。センセイは靴を履いて、プリントを入れたバッグを肩からさげる。玄関のドアノブに手をかけ、扉を開いたところで、思い出したかのように立ち止まる。

「スミレ。二四日に予定はあるか?」

「へ?」

 二四日って、クリスマスイブですかね? 世間一般的には。

 思い出す。奈々ちゃんとのクリスマスは翌日の二五日の予定だから、ぶっちゃけ二四日は暇。暇オブ暇。けど学校。うぇい。

「あぁ、今年最後の大学だったな。次の日からは冬期休暇だからな」

「今年も終わりですねぇ」

 ちなみに正月に実家に帰る予定はない。まぁ、色々とね、あるワケでして。奈々ちゃんは三〇日から二日までは実家に帰って、三日に戻ってくる予定らしい。その間は珍しく私もひとりでお留守番。お留守番もなにも、ここ私の部屋だけどね!

「ならよかった。夜にレストランの予約をしていたんだが、連れがこれないと抜かしていてな。食事できる人間を探していたんだが……」

「え……」

「どうだ?」

 うーん…………とはいえ、二五日に関する予定は立てていたけど、二四日の予定はさっきも言ったとおり皆無。クリスマスイブって言っても、別になにも特別な食事を食べるワケでもなく。本当にクリスマス当日しか考えていなかった。まぁ、奈々ちゃんも二四日までは学校だしね。そのあとはバイトとかも入っているらしいし、ちゃんとデートできるのが二五日しかないっていう。

 まぁ……それなら行ってもいいかなぁ。

「いいですけど、私未成年なんでお酒飲めないですよ?」

「問題ない。そいつは酒が弱くてな、酒が出るのは私だけだ」

「それじゃあ安心ですね」

 うむ、とセンセイは返す。すると用意していたかのように胸ポケットから一枚のチケットを取り出す。

「これがチケットだ。忘れるなよ。

 二四日の二〇時から予約しているからな。一八時半には大学の第三号館の五階にある私の研究室で待ち合わせだ」

 それだけ言うと、今度こそ、センセイは部屋の扉を閉めて行ってしまった。


「……煙草の匂い」

 部屋に帰ってきた奈々ちゃんの第一声は、それだった……



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