コロン君頑張って!
よかったらご覧ください。チグハグな思いが描けていますでしょうか?
「エリンさ〜ん!」
からコロン、ガッ!バタン!
「…………」
私を呼ぶ声がしてから起こった出来事を説明しましょう。ある少年が、私の名前を呼びながら冒険者ギルドの扉を開け、中に入った途端に何かにつまづき、床に大の字に倒れた、というのがこの音の原因になります。
「いててて……エリンさ〜ん!」
「「「やり直すなよ!」」」
まあこれはこのギルドでは”よくあるの光景”になってきていのよね。
少年が呼んだように私の名前はエリンと申しまして、今はこの街の冒険者ギルドの受付窓口嬢をしています。
この賑やかな少年はコロンという名の14歳の少年です。彼はよく転ぶので私以外の者には”コロ君”と呼ばれています。ギルドの新人、いわゆる駆け出しの冒険者で私は彼の担当者になっております。
「エリンさん!見て見て!ムラサキヨモギの葉が採れたんだ!」
「そう、頑張ったわね。」
「えへへへへ〜!」
いつものように子犬のような目で”ほめてほめて!”と言わんばかりに見つめられると、ついつい頭をなでなでしてしまう私はギルドの職員としては如何なものかと思わないでもありません。しかし、本人はそれが気に入っているようでいい笑顔で喜んでいます。私の頭の中の彼にはお尻に生えている尻尾がブンブン振られています。ハッ、いけませんね。職務中にこんな妄想をするなんて。
ムラサキヨモギはポーションの材料になる薬草で、初級の冒険者向けのクエストになります。しかし、最近入手量が減少気味なのです。それでも彼はこのクエストをコンスタントに達成してくれるので正直助かってます。
私がコロン君の依頼達成を処理していると、コツコツと靴音を響かせて私の後ろから近づいて来る者がいますした。振り返るとよく見知った方が近くに立っておりました。
「エリン。」
「……はい、マスター。」
「そいつを連れて来い。」
「……はい。」
「エリンさん?」
ここで一息、私は息をしてから、
「コロン君、ギルドマスターからお話があるの。一緒に来てくれる?」
「はい……いいですよ?」
私はコロン君を連れて冒険者ギルドの2階の奥にある、ギルドマスターの部屋に入りました。
部屋にいたのは先程の男性職員、この街の冒険者ギルドマスターのドルコンさんです。彼は200cmを超える長身の大男で、元Aランクの冒険者でもあります。その彼の脇にいるのは小柄な女性……彼の横なら誰でも小柄に見えますが……彼の元冒険者パーティーのメンバーであり、現副マスターのアリアさん。
このギルドのトップ2人に向かい合わせになる机の席をコロン君に勧めます。
「F級冒険者コロン、君の新人の扱いは残り1ヶ月だ。それがどういうことか、わかるか?」
そう告げたのはギルドマスターのドルコンさん。コロン君は彼に向けていた視線を私に向け、また彼に戻して頷きながら、
「はい。何らかの”証明”が必要になるんですよね。」
コロン君はギルドマスターの目をまっすぐにみつめながらはっきりと答えました。
冒険者ギルドはどうしても人員の欠損が起こるため、有能な新人を常に必要としています。そのため、新人の間は色々と世話をしたりして面倒を見ています。ですが、冒険者として役に立たない者を長く置いて置くことはできません。そのために新人の期間は1年間と決められているのです。その間に冒険者として認めさせる何かを達成しなければならないのです。
コロン君はまだ大きなクエスト達成などの実績を残していないのです。彼は冒険者ギルドに、ギルドにとって”有用な人物”であることを後1ヶ月程の間に認めさせなくてはならないのです。
「わかっているならいい。エリン、あとは君から説明しなさい。戻ってよし。」
そう言われてギルドマスターの部屋を退出して私はコロン君をつれて1階の個別相談ブースへと向かいます。そこで今後の説明をしなければなりません。コロン君は何も言わずに私の後をついて来ました。
個別ブースはギルド1階の広いフロアのハジに仕切り板1枚で区切っただけのスペースです。そこには机と、向かい合わせに椅子が2脚ありた私達はそれぞれに座りました。
「コロン君、知っていることも多いと思うけど説明させてもらうわね。登録されて1年以内は初級冒険者としての特典で色々なものが特別に9割引で買えますし、色々なサービスも特別割引で受けられます。」
「はい、知ってます。」
「そして、この特典期間が後1ヶ月で切れるわけですが、そうなると稼ぎの悪い初級冒険者では食っていけません。」
「はい……。」
「あなたは今最低ランクのF級冒険者としてこの冒険者ギルドに登録されています。ですが、ギルドに認められる実績を残して、E級に昇格、あるいは”覚醒”して2階級特進してD級に上がれば特典は継続して受けられます。」
「……それも知っています。」
「そうね、そしてこれも知っていると思うけど、昇格できない場合、ギルドを辞めて行く人がほとんどなのよ。F級冒険者のままやって行く人はごくごくわずかです。」
「……僕は、辞めたくないです。」
「うん。コロン君、私は貴方がギルドに入った時からの担当だからあなたを其れなりに知っているつもりよ。貴方は仕事に対する強い責任感を持っているわ。私はそういう人が好きよ。後一月、あなたが認められるように全力でバックアップさせて頂く……コロン君、聞いてる?」
「はい!聞きました……好きと(ボソッ)」
コロンどうしたのかしら?話の途中までは真剣に聞いていたのに途中で心ここに在らずって感じになっちゃって?
「コロン君、大丈夫?」
「はい!出来ればもう一度言ってください!」
「え?ええ、全力でバックアップさせて頂くわ!」
「それじゃなくて……」
「なくて?」
「ハッ!い、いいえ、あの、その、先を続けてください!」
変なコロ君。まあいいわ、時間がもったいないし。
「続けるわね、まずはコロン君の現在の実力の確認、それからできうる最大のクエストを受けるって感じね。」
「はい!」
「じゃあ、まずはステータスの確認に行きましょう。」
「……カ、カーシャさんのところですか?」
「ええ、今から行きましょ。」
「……はい。」
日が落ちる今頃なら、カーシャのところも混んでないでしょう。冒険者ギルドかあら少し離れたところになる”カーシャの魔道具屋”に2人で向かいました。コロン君は少し気が重そうな顔をしています。
「いらしゃい!コロくぅん!」
「うあぅ……。」
”カーシャの魔道具屋”につくとなぜか入口でカーシャが待っていました。近づくとカーシャはダッシュでコロン君に向かって行き飛びつきました。カーシャは20代後半でふっくらとした身体をした長い黒髪と黒眼、白い肌の女性です。ちょっとコロン君を気に入っていていつもこんな感じでスキンシップをしています。
コロン君はカーシャさんにポーションなどをいつも大変安く提供してもらっていますので、コロン君は困った顔をしながらも逃げられません(笑)。
「カーシャさん、ごきげんよう。」
「あら、エリンさんいたの?」
あからさまに嫌そな声で私を見つめながらカーシャさんがそんなことを言います。まあ、いつものことなので気にしませんが。
「カーシャさん、コロン君のステータスを見て頂戴。請求はギルドにね。」
「あら、3回目を使うってことでいいかしら?」
「はい、今は成果をあげることが最大の優先事項。使うなら今です。」
新人の冒険者はそのステータス……レベル、能力、スキルなど……を魔法使いに見てもらえます。新人の特典で3回無料で受けられるのです。大抵は、冒険者になるときと途中任意の1回、そして進級時の合計3回になります。
コロン君は冒険者になったときと、3ヶ月目の再スタート時に1回ステータスを見ています。今回が最後の無料での測定になるのです。
因みに、コロン君は最初のクエストで大怪我をしてしまい暫くの間リハビリをしていました。そのため、同時期に入った者達とパーティーを組みそびれてしまいソロ活動をしているという経緯があります。
私としてはそれでもなんとかしてパーティーを組んで欲しいのですが。しかしいくつかパーティーと試験的にクエストを一緒にやらせたこともあったのですが、「ソロの方がやりやすい」といってコロン君はパーティーを組もうとはしませんでした。まったくソロはものすごく危険なのに!コロン君は本当に手のかかる担当冒険者です。まあ、弟みたいでつい面倒を見たくなってしまうんですが。
話が少しそれてしまいましたね。カーシャの店の中に入り、いつもカーシャが座っているところへと移動します。そこには水晶板が置いてあります。カーシャはこれに冒険者のステータスを映し出すことができるのです。今コロン君はカーシャの前に立っています。カーシャが呪文を唱えると水晶板が光が輝き文字が現れました。
ステータス
名前:コロン
レベル:1
筋力:8
敏捷性:16
器用度:9
知力:12
HP:15
MP:10
スキル:リミッター
魔法:なし
スキル説明
リミッター:ステータスを制限出来る
約半年前の数値と比較すると敏捷性とHP(ヒットポイント:生命力、耐久力)がやや伸びていました。ですがどれも平均して14くらいの数値が欲しいのが……まあないものを言っても始まりません。
それより使えないのがスキルのリミッター。真面目に使えません……。もともと低いステータスを制限してどないせいっちゅうねん!という感じですね。このスキルは破壊的なまでに大きい数値のステータスを誇る人物に発現しやすいスキルらしいのですが。例えば筋力が強すぎてしまって何でも触るだけで壊してしまう人とか。最もレアスキルなので解明が進んでいないスキルでもあります。
「相変わらず素敵ね~、コロ君のステータス。特に「わー!」」
コロン君が慌ててカーシャさんの言葉を遮りました。年頃の男の子としてはここまでペシャンコなステータスを話のネタに弄られるのは辛いのでしょう。つい助け舟をいれてあげたくなりました。
「カーシャさん、ステータスのことであまりコロン君をいじめないでくださいね。」
「……。」
「カーシャさん?」
あれ?カーシャさん、なぜ私を物凄く残念な者を見る視線で眺めているのでしょう?
「失礼、エリンさん。私これから用があるからサッサと帰ってくださるかしら。」
そう言うと、カーシャさんは店の奥に引っ込んでしまいました。私の発言が気に障ったのでしょうか。謝りたい気持ちが喉まで出てきているのですが、今声をかけるのは雰囲気的に無理そうです。謝罪は後日としましょう。私はコロン君と店をでてギルドの練習場に行きました。
日が落ちて夜になり掛けの時間ですので、冒険者ギルドの裏手にある練習場はもう薄暗くなっていました。ここの昼間は其れなりに賑やかなのですが、もう今の時間帯ここを使っている人はいません。
「光よ。」
私は隅の方で数カ所に魔法で”光”を灯しました。申し遅れましたが私は魔法が使えます。私はこれでも現役の頃は魔法戦士でしたので剣も魔法も使えるのです。ちなみに私のステータスですが、
ステータス
名前:エリン
レベル:2(覚醒者)
筋力:14
敏捷性:18
器用度:17
知力:23
HP:15
MP:22
スキル:剣術lv1、魔力回復lv1
魔法:精霊魔法lv2
因みに覚醒者とは文字どおり”覚醒”して能力が進化した者のことです。覚醒1回でレベルが一つ上がります。
今の私は覚醒したのでそれなりのステータスを保持しています。最も私は冒険者を辞めてギルド職員になった後に”覚醒”したのであまり利用したことはありませんが。
「さあ、コロン君。先ずは剣でかかってきて。」
「はい、むっ、胸を借りマス!」
なぜ声が裏返っているのでしょうか?緊張しているのかしら?ならこちらから行かせてもらいます。
かん!きん!
お互い歯を潰した練習用の剣で打ち合います。私が剣を振り出すとコロン君は上手く自分の剣で受け流します、防御はいい感じですね。しかし、攻撃は単調で簡単にかわせま……す。おや?
薄暗いのにコロン君の顔が真っ赤なのがわかります。女性の相手は苦手なのかしら?冒険者としては仕事の内容で女性と剣を交えることもあるのであまり感心できません。ですが、今は置いておきましょう。
私は数歩下がり攻撃を魔法に切り替えました。
「次、魔法いくわよ、光弾!」
今度は光の弾で攻撃です。私の実力だと速度は大人が石を投げる程度です。威力は抑えてあるものの当たれば痛いそれをコロン君は綺麗にかわします。ですが、そんなに私も甘くはありません。
パン!
「うわ!」
「……ウソ」
今の攻防ですが、私は光弾をかわされてから、もう一度コロン君を狙うように操作しました。こんなことは余裕のあるときにしか使えませんが後方からの攻撃はコロン君レベルでは交わせないと思っていたのです。ですが、コロン君は当たる直前に気が付き剣で光弾を弾きました。
「コロン君!凄いわ!」
「はは、マグレです。」
「そんなことないわ、貴方は私のアドバイスをしっかり聞いて先ずは防御力を磨いてくれていたのよね。偉いわ。」
「わ~い!エリンさんに褒められた!」
ふふ、コロン君は褒められるのに本当に弱いのね。でもこの動きなら弱いモンスターとの攻防は問題ないでしょう。
次の日を準備に費やし、私はコロン君を連れてクエストに出発しました。
私はD級の冒険者として、F級冒険者のコロン君と仮パーティーを組んだかたちとなります。日々クエストの斡旋をしてはいますが、冒険者ギルド職員も冒険者であることは変わらないのです。
コロン君がいつも受けている薬草クエストと、常時討伐の低級モンスターハントクエストを受けて出発します。
街から近くの林の中を歩き回ります。この辺り一帯は街を治める領主のものとなっていますが、薬草とかの採取は問題ありません。その代わりにあまり利益にならない低級モンスターのハントはギルドの義務となっています。
コロン君と2人で結構歩き回ったのですが、なかなかモンスターが見つかりません。もう何匹かに遭遇しても良さそうなものですが。
ならばもう一つのクエストをと考え、誰にも言わない約束で薬草が生えている場所をコロン君に聞きましたがもっと奥の方だそうです。
(う〜ん、何でこんなにモンスターがいないんでしょう?)
私はギルドの職員です。何処で、どの位のモンスターが、どれくらいいるか、を当然把握しております。
私の懸念をよそに、コロン君は私の横に並んでウキウキとした顔で嬉しそうにしています。まあ、ソロ……ボッチとも言うそうですが……で活動しているため、普段が寂しいからでしょう。コロン君はソロの方がいいと言っていますが、やはりこの年頃によくある強がりだったようです。E級に昇格できたら知り合いのパーティーを紹介してあげましょう。
……そういえば、コロン君の歩き方ですが。
「コロン君。」
「はい、エリンさん!何ですか?」
「何でさっきから遠回りばっかりしているの?」
「ぎくっ‼」
口で”ぎくっ”なんて初めてききました。
「やっぱり!何か理由があるのね。」
「い、いや。そういうわけでは……」
オロオロしながら下手な回答をするコロン君を私は睨みつけました。
「……いい。」
……何故恍惚とした顔になるのでしょう?確かに私は年齢の割には童顔なので迫力ありませんが。
「で!」
「ハッ!ええと、ホラ、その、そう!触ると肌がかぶれる毒草とかこの辺り多いんだ。うん、そうなんだ!」
「ふ〜ん、……って危ないじゃない!何故ギルドに報告しないの!ちょっとコロン君!直ぐにそこに連れてって!」
他の冒険者が触ったらどうするの!コロン君は危機感が弱いようですね。コロン君の動きから、おおよそ避けていた方向は検討が付きます。私はそちらに小走りで向かいました。
「エリンさん!そっちは駄目です。ダメですってばぁ!」
「大丈夫よ!私だってギルドの職員よ。こう見えても毒草ならだいだい知っているわ。」
私は背の高い草の間をかき分けて進み、少し広い場所に出ました。そこには背の低いモンスターが……たくさんいる?
「「「「グル?」」」」
「ゴブリン!」
「……はぁ、見つかっちゃった。」
「「「「グルワァーー!」」」」
「退却〜!」
「はい、エリンさん!」
20匹以上いる!私だけならともかく、コロン君がいては捌き切れないでしょう。
「「ピギー!」」
「わっ!オーク!」
「ゴルゥゥゥゥ!」
「オーガまで!」
逃げなわっているうちに、他のモンスターとも出会ってしまい、後ろはモンスターの大群が付いてきます!真面目にやばいです!
「アッ!」
「エリンさん!」
「ったた!」
ヤバイです!転んでしまって追いつかれました。コロン君に起きあがるのを手伝ってもらい起き上がったところで戦闘に突入しました。最悪ですね。
「コロン君下がって!
草の精霊よ!イタズラをしてちょうだい、縛縛遊戯!
風の精霊よ!我が投槍となれ、錐錐丸!」
私は精霊魔法を唱えました。
最初の魔法は草を伸ばして敵をを絡め取って身動きを封じる広範囲型行動阻害の魔法です。ほとんどのゴブリンは身動きができなくなりましたが、オークやオーガなど大型のモンスターは強引に突破されました。
次の魔法は風を錐のように高速回転させ貫く魔法です。何故か呪文をなげやりに唱えた方が威力が上がる魔法なので、思わず気合が入ってしまったせいか威力が落ちてしまいました。それでもオークを倒せました。
「痛!ニードルラビット!」
脇腹に鋭い痛みが走りました。みると鋭い角を生やした肉食の兎の角が脇腹に突き立っています。凄く痛いです!それよりこいつは不味すぎです!角兎はその角に毒があるのです。私は手早くナイフで角兎を仕留めました。
「い、命の精霊よ、ヒール!」
角を抜きながら癒しの魔法を掛けました。傷はふさがって痛みは取れてきましたが、かなり……不味い……痛みは……ないけど……感覚が……コロン君……逃げ……て……
「……さん、エリンさん!」
「……コロ……君?」
掛けられた声に反応して、私は目を覚ましました。頭が少しフラフラします。すぐそばに血塗れのコロン君がいて……急激に記憶が蘇りました。動きは封じものの数多くいたゴブリン、角兎の毒、そして迫り来るオーガ。
「コロン君!怪我は!」
「大丈夫です。返り血ですから。」
そう言って私の前でクルクル回るコロン君は本当に犬みた……コホン。
それよりあたりを見回すと、近くにオーガが倒れています。
「オーガは棍棒が折れていたみたいで、自分で振り回した棍棒が自分の頭に当たって倒れたんです。それで、僕はオーガにとどめを刺して、身動きの取れないゴブリン達も倒して置きました。」
「そう……。」
当面の危機が去ったことを理解して私の身体から力が抜けました。立ってたら座り込んでいたに違いありません。
「あ、毒は?」
癒しの魔法で傷口は完全にふさがっています。しかし、癒しの魔法には解毒の作用は無いので普通は肌が黒く染まるのですが何ともありません。
「この辺り一帯は角兎が多いから、僕解毒薬は常に持ち歩いてるよ。エリンさんに言われたからね。」
そうでした。私が教えたのに私が用意していなかったなんて。ギルド職員失格ですね。ともかく、街に戻りましょう。
無事に街に戻り、クエスト達成の事務処理をして私達はギルドマスターのところに向かいました。
「成る程な。」
この前の机の椅子に2人して座って居るのですが、目の前には渋い顔をしたギルドマスターのドルコンさん。後ろには副ギルドマスターのアリアさんが控えています。
「本来ならオーガの討伐は充分な評価の対象となる。実力で倒した訳ではないというところが引っかかるが。まあ、毒消しでエリンを救ったことも評価してやろう。」
「じゃあ!E級に昇格させてもらえるんですか。」
内心ホッとしました。正直、まだ評価には達していないと思っていたから。
「E級はダメだ!」
「今回のクエストは彼1人でないし、そこまでの評価じゃないわのよ。でも、あと1ヶ月、また無理して死なれても困るから、F級のまま初心者特典を1年延長とすることにしたの。」
「なるほど、それはいい案ですね。」
そして私達はギルドマスターの部屋を辞してしたに向かいました。
特典があればまだF級でもコロン君はやっていけるでしょう。E級に昇格できなかったのでコロン君は残念がっていると思いきや、
「また、エリンさんに1年担当してもらえる〜!」
と言って喜んでいます。まあ、懐かれているのはいいんだけど……その分離れる時は辛いわね。私は個別ブースへとコロン君を誘いました。
「ねえ、コロン君。貴方は、何を隠しているの。」
「ぎくぅ!やっぱり憶えてた?」
忘れる訳ないでしょう。
「毒草は嘘ね。あの状況からみて貴方は”気配感知”のスキルを持っていると推測できるわ。でも、ステータスの表示にはそんなスキルはなかったわ。一体どういうこと?」
「……説明するね。僕は初めから”気配感知”のスキルを持ってたんだ。どうもスキルの”リミッター”のせいで普段は使えないみたい。ステータスでもカーシャさんにしか見えないみたいです。僕にも見えないし。」
「そんなことがあるの?」
「うん。カーシャさんに教えてもらったんだ。僕時々、変に感が鋭くなったり、ちか……ええとなんか色々あっておかしいと感じてたんだけど、理由がわかってスッキリしたんだ。それから、リミッターの外し方を覚えて、普通にスキルとして使えるようになったんだ。」
「コロン君の事だから信じるけど、何故教えてくれなかったの?」
この危険な世の中で自分の実力を隠すことは決して悪いことではないけど、担当としては隠されていたことは正直ショックです。
「ごめんなさい。しっかりとスキルが使いこなせたら言おうと思ってたんだ。」
「……うん、いいよ。気にしないで。それより、おめでとう。冒険者続けられるわね。」
「はい!頑張ります!エリンさんこれからもよろしく!」
いつものコロン君の笑顔にクラっとくるものがあるけど、
「あのね、コロン君。私、異動になったんだ。」
「???異動って?」
「ギルドでの席というか、仕事が変わるの。今度はD級以上の冒険者の担当になることが内定していたの。最も場所が2階になるだけで仕事の内容は変わらないんだけどね。」
「じゃっ、じゃあ!F級冒険者の僕の……担当では……」
「コロン君の担当は他の人に引き継ぐわ。大丈夫よ!私以上に親身に対応するように言っておくから。」
「………………る」
「え?」
「なる!なります!僕、すぐにD級冒険者になります!だから、昇級したら僕の担当をまお願いします!」
あらあら。困った子ね。でも、お姉さんとしては嬉しいわ。
「うふふ(笑)。いつの話になるのかしら?いいわ。でも、決して無理しちゃダメよ。」
「はい!エリンさんとの約束は絶対に破りません!無理しないですぐにD級になります!だ、だから、待ってください!」
コロン君の言葉に返事は返しません。にっこり笑顔(スマイル0円)だけ返して別れました。私の計算ではコロン君の実力では10年かかっても無理でしょう。私としても年頃の娘ですし、いつ寿退社しててもおかしくはありません。まあ、仕事はやめないと思いますけど。そんなことを考えていると、カーシャさんの姿を見かけました。
「エリンさん、コロン君はどうしたのかしら?さっき物凄い勢いで走って出て行くのを見かけたけど?」
私はカーシャさんにここまでの出来事を説明しました。
「コロン君なら大丈夫です。F級冒険者のままですが特典は継続されることになったのであと1年は冒険者を続けられます。ところでカーシャさん、彼は、彼のスキル、”リミッター”はスキルを制限できるんですか?」
「……そうよ、”下位スキル”を制限できるわ。」
「本当に使えないスキルですね。意識しないと解除できないなんて。」
「…………。まあ、そういう認識でいいわ。それより、彼の担当を私にしてくれない?」
「カーシャさんはギルドの職員じゃないでしょう。」
「短い間だけでも触れ合えれば!彼を私のものにできるチャンスだもの!」
「???短期間ってことですか?まあ、ステータスとスキルの関係もあるし。ちょっとギルド内で調整して見ますね。」
「感謝するわ。敵に塩を送られるみたいで癪だけど!」
やっぱりカーシャさん、ショタなんですね。
「マーガンバッテクダサイネ。」
「きー!余裕にしてられるのも今のうちよ!」
あらら、カーシャさんも走って出て行っちゃった。なんだったのかしら?
ですが、一冒険者ギルドの職員としてコロン君を応援して行くことは変わりません。
がんばれコロン君!
・・・・・・・・・・・
僕は走った。
さっきのところ辺りにまだ、いるかもしれない。
「リミッター解除、スキル”身体強化”!”加速”!」
難しいと言われるらしいダブルスキルの使用で一気に先ほどの場所まで戻った。
「リミッター解除、スキル”気配感知”!”熱感知”!”音感知”!」
くっ!いない!さっきオーガの脚を止めるため、スキル”覇帝威圧”を使ったせいでこの辺りのモンスター達はみんな逃げてしまった!
かなり広範囲で探して見たが見つからない。
このままでは今までの苦労が水の泡ではないか!
あの人に会いたいからここにきた。
あの人と触れ合いたいから冒険者になった。
あの人と言葉を交わしたいから、F級冒険者のままでいる方法を探していたのに!
うまく行ったのに!
あの人が2階に行ってしまう!2階はD級以上の冒険者でなければ立ち入れない!
何ということだ!絶対の聖域になってしまうとは!
でも、諦めない!
「貴様か!先程の覇気は!」
なんか知らない奴等に囲まれていた。魔族のようだ。というか、さっきから感知には引っかかっていたけど。
「僕は今機嫌が悪い、すぐにどっかにいってくれ。ていうか去れ!」
「なっ!私になんて無礼な!恐れ多くも魔王の一人娘にして魔界四天王の四!このフェネスティー様に向かってそんな口を聞いてタダですむと思っているのか!というか思うな!いいか、我々は貴様のような勇者の素質のあるもの達が覚醒する前に消すよう長年「プチッ」え?」
「リミッター全解除、レベル4段階開封!全ステータス、全スキル開封!”覇帝威圧”!”魔眼”!”武神降臨”!」
なんかうざいのでプチッと潰した。
魔族は死ぬと消えるから証明にならないから討伐対象から外していたのに。
「……あ、……あ、命、だけは……」
一人だけまだ息があったがどうでもいい。プチッと……でも目元があの人にちょっと似ているな。
「リミッター解除、
スキル”敵意消滅”、”気功治療”。
見逃してやるから去れ!」
「こんなに優しくされたのは初めて……ポッ。去ります。」
ふうとにかく、”無理しないで昇級”、か。
難しい。
でもそのくらいの困難は乗り切って見せる!
そして!今度こそ!今度こそ頭を撫でてもらう以上のことをしてもらうのだ!そう!ハグとかしてくれちゃうかもかなそうだとうれしいけどでもそこまでいやあきらめては……
うわあああぁぁ!絶対に!頑張る!
あの人ともっとお近づきになるんだ!
どうでしたでしょうか?
案外黒い(?)コロン君でした。
でも、意中の異性に対して積極的かつ戦略的なのは当たり前だと思うのです(笑)。
お読みいただき感謝・感謝です。