プロローグ『地震』
5月8日、火曜日。
今日も何事もなく終わろうとしていた。
僕は部屋の電気を消し、ベッドに身を投げる。仰向けの体勢になると、外からの月明かりの所為か天井がうっすらと見える。
今日も本当に普通だった。学校では幼なじみや友達と楽しくしゃべって、家では家事を一通りこなすという生活。一軒家に1人で住むということも1年以上続けばすっかりと慣れてしまう。適応能力っていうものなのかな。
そして、いつも通り眠気が僕を襲ってくる。
ゆっくり寝ようと、布団に入ろうとしたときだった。
――ドンッ!
突然、下から突き上げられた。
その一瞬の出来事で、僕を襲っていた眠気が一気に吹き飛んだ。今の状況がはっきりと理解できない。分かるのは大きな地震が起きたということだけだ。
「とにかく、電気を点けないと……」
不安定な足取りではあったけど、扉の近くにあるスイッチまで何とか辿り着いた。僕は何度も押すけれど、部屋の電気は点かない。ブレーカーが降りているのか。
最初は縦揺れだった地震が、今は横揺れに変わってきている。揺れは収まるどころかより強くなっていく。本棚に入れてあった本が何冊も落ちている。
この部屋にいては危険だと思い、僕は部屋を飛び出した。
廊下はさらに暗い。眼が暗さに慣れてきたとはいえ、激しい揺れの中で歩くのは非常に危険だ。
――僕に死が迫っている。
不意にそんなことを思ってしまった。
その証拠にミシッ、という音。歩いているときに床が軋む音とはまた違う、もっと大きなことが起きるのを知らせる音だと思った。
そして、その瞬間。
激しい音と共に僕に重み、そして痛みが降りかかる。その代わりに僕の意識が一瞬にして飛んだ。その際に、自分の家族の幻覚を見たような気がした。