邪神様といっしょ!
いつの間にか世界は、静かに滅びることになっていた。
「たいくつ」
僕の上司が、ぼやいた。
「ヒマ」
続けてぼやいた。
「なんなのー、このひよった世界はっ!」
最終的には叫んだ。
その声は、
せかいはー!
かいはー!
わー!
みたいに、反響していく。
「なぁに? 昔みたいに邪神を倒しに来る甲斐性も! 国を呪ったりする過激派もいないのっ!」
世界は平和だってことですよ。
とか言えば、同僚みたいにぼこられて、人間界へポイ捨てされるのが目にみえてる。
人間界で転生しまくりの生活も楽しそうではあるのだけど、今のところ現状維持でも構わないと思ってるのでそんなこといわないけど。
でも、実際、平和。
平和の定義をどうするかはさておいて、今のところ世界大戦もないし、飢餓もなくなりはしないけど人口激減にはいたらないし、新技術の暴走もない。国同士の争いなんてのは絶えたためしもないのでノーカウントでいいんじゃないかな。
つまり我が上司たる、名を呼ぶことも出来ぬ大いなる邪神様の出番はあと数十年待ってもなさそうだってこと。
噂によると前世紀前からヒマっていってたのだよね。この方。数十年で済むかな?
まあ、なんというか科学文明が台頭しまして、魔物や神々も否定されてきて存在が危うくなってきている昨今ですから。
聞いたところによると、弱体化や容姿の変化でようやく人間の関心等の影響を受けることを自覚したらしい。
……邪神様、それでいいんですか。と思わずツッコミまして、本人がひどく落ち込んでたのは記憶に残ってる。
ちなみに僕は彼女が、暇なので作ってみた魔王、その8で。名前もつけるのがめんどくさかったのかルシファーというありがちな名前だったり。どのくらいありがちかというと名前も呼べる邪神の知り合いの手下に一人はいるくらいメジャーな名前。サッカーチームくらいは作れる。
「るー。ヒマ」
「そうは言われましても、どうしますか。人間界に降りて信者増加計画でも立てますか?」
そのほうが建設的と僕は思うんだけど。
「……この格好で人前に出ろというの?」
ちなみに今の邪神様の姿は、幼女。
推定十代前半のつるぺた少女。その前は、ぼんきゅぼんなお姉さま。世の流行り廃りを思う今日この頃。
ミニスカでスパッツをはいているのはせめてもの抵抗な気がする。パンツ見えないし。
そもそも履いて……。そこを想像でも言及したら死亡フラグが立ちそうなので割愛。
昔は偉大な邪神様も現在は弱小神の一人になってるのが、現状を表してる。名前を多く広めなかったことが敗因とうなだれているのを見たことがある。
「ねぇ、るー、遊んできて」
そんで、わたしの信者を増やしてきて。
彼女は勢い込んで僕の顔を覗き込んでくる。肩で切りそろえた髪は淡雪のようで、首をかしげるたびにさらりと音がする。可愛らしい顔立ちは、どこか幼くも見える。
「イヤです」
ただ、どんなに可愛くても、お願いなんて聞く気はないんだけど。
「じゃあ、命令」
偉そうに言う彼女はやっぱり、子供っぽい。
邪神というより幼女が駄々こねているようにしか見えない。
というか、邪神なんてやってるけど、ここ数年のニーズの変更により現状が変化されているせいで見た目がアレ。中身も影響を受けこんなのに。
「イヤです。大体、姫のお世話という大事な役目があります」
邪神様と呼ぶと怒られるので、現在お気に入りの姫呼ばわりです。
まんざらでもなさそうに頬を染めるあたりがちょろいと言いますか。
「今、失礼なこと考えなかった?」
「姫がかわいらしいなと思っておりました。他の者にお世話を頼むなどおっしゃらないでください」
たぶん、めんどくさいことになるから。次に誰がここに呼び出されるにしても止めれるとは思えない。後始末する僕がめんどくさい。
いっそ人間界に落ちて転生とかしまくった方が楽なんじゃないかと思うくらいには。
「ふむ。まあ、るーがそう言うなら」
一安心と思ったのが間違いだった。
「とろけるプリンとティラミスとクレームブリュレを調達してきて」
人間界の食べ物をご所望とか。上目遣いで見上げてくるところが、あざとい。さすがは見てくれは幼女だが、中身は百戦錬磨の邪神様。おねだりはお手の物だ。
食べ物の趣味もだいぶ可愛らしくなったものだ。血みどろの心臓が食べたいとか、トカゲの丸焼きとか言っていたあの頃もありました。こればかりは調達の都合上、好都合で。
「かしこまりました」
買い物くらいいきましょう。偽金は山ほどあるし、ばれる心配はそんなにない。いや、でも科学技術侮れないから、そろそろ銀行の中からちょろまかした方がいいかもしれない。
今後の対策を考えながら僕は買い物に出かける。
ご満悦の邪神様を見て僕はやはり思う。
今日も世界は平和です。