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人の話は聞きましょう

 今から約20年前の2020年から2030年の間、世界的な医療革命がおこった。万能細胞による身体の復元、癌細胞の特効薬、新薬の開発などがあ


らゆる国と地域で頻繁に起きた。


 あまりに連続的に起きたので当時の人々はその10年を『神の贈物(ゴッド・プレゼンツ)』と呼び、現在の病気は99,9999%治療可能となった。


 これによって医者や薬学者は研究者と同一視され、病院では薬の値段が下がったことで経営が立ち行かなくなり、医療機関は事実上崩壊した。


 それを立て直すために国連は赤十字を前身とした世界赤十字機関を設立。以後はこれを中心として病院は運営されている。


「だが、何事にも例外はあります」


 そう言葉をつなげたのは院長椅子に座っている白髪の男だった。


 御年六十にもなろうかというくらいの方で、最初に『神の贈物』を授かった人物である。開発したのは、確か「万能細胞による人体損失部位


の蘇生薬」だったような。


 そんなえらい院長が唐突に語りだした状況に舞璃はついていけなかった。


 そもそも舞璃は今朝早くに『生活用品をまとめてすぐ院長室へ来なさい』という上司からの電話がきて、慌てて衣服やその他をまとめて院長


室に向かったのだ。入ってすぐ簡単な挨拶をすると院長は何の前置きもなくしゃべりだしたのだ。


「ちょっと待ってください」


 これ以上はさすがにまずいと思い、舞璃は院長の話を中断させた。


「そもそも私を呼んだ理由は何ですか?」


 舞璃の言葉に院長は傍らに立っている舞璃の上司に視線を向けた。


「すまんが桜美、それは院長先生の話を聞いてからにしてくれ」


 上司の言葉に舞璃は反論しようとしたが、自制して「すみません」と謝って院長の言葉を待った。


 院長は、コホン、と軽く咳ばらいをしてからまた語り始めた。


「古今東西、『神の贈物』の前まで医療は進化してきました。一昔前は不治の病といわれた結核や天然痘も十年くらいでワクチンが開発され、


現在それらは死語にさえなっています。


 ですが、いくら医療が進化してきても、必ず原因不明、未知の病気は付きまいます。私たち医師や看護師がまだ働いているのがその証拠です。


 それでもほぼ百パーセントは治療可能な病気なんですが」


 舞璃はうなずいてすぐに首を傾げた。こんな基礎的な知識を確認するためだけにわざわざ呼んだのだろうか。


「桜美舞璃君」


 突然呼ばれて舞璃は背筋を伸ばした。


「彼から聞いているが、君は優秀なカウンセラーのようですね」


「優秀かどうかはわかりませんけど、一生懸命患者と向き合わせてもらっています」


 その返答に院長は頷くと、上司が舞璃にいくつかの紙を渡した。


 受け取ってみると、


「なんですか? これは」


 紙には名前と顔写真、血液型に身長、体重やよくわからない名前がこと細かく描いてある、病院のカルテだった。


 それだけなら舞璃にもわかる。わからないのはカルテを作った病院の名だった。


「日本赤十字医療特別研究棟」


 院長はそのカルテを作った場所の名前を淀みなく言った。


「あなたにはそこの専属カウンセラーになってもらいます」




 ーーー 一ヶ月余り前。


 桜美舞璃が日本赤十字医療特別研究棟、通称特異病棟に就く直前、そして彼らに会う数時間も前のことだった。


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