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第一章『急転』

剛直の審配しんぱい。曹操軍参謀、荀彧じゅんいくから「独善的で無策である」と評された。当獄中の袁紹軍参謀、田豊でんぽう郭図かくと逢紀ほうき等、袁紹陣営の将とは悉く折り合いが悪い。

 久方ぶりの軍議が開かれた。理由は単純明快である。顔良が敵将の徐晃じょこうを退けたまでは良かったが、数週間ほど前から突如戦況は反転し、悪化の一途を辿り始めたからであった。

 軍議では、これからの軍の方針について盛んに論ぜられたが、一向に前進を見ない。時間だけが刻々と過ぎていく。盧周、盧彰の二人は、一言も言葉を発していなかった。

 盧周は耳だけを残し、いつものように思索の海の中に潜っていった。

 事の発端は、白馬方面軍の副将と名乗る男により顔良が討ち取られるというなんとも信じがたい事件にあった。

 名前もわからぬその男は、斥候せっこうによる報告の中には一切無かった。見事な髭を生やした大男、としか明らかになっていない。

 大男は乱戦の中、顔良の死角から襲い、槍で一突きにしたとのことであった。

 その後、袁紹軍は総崩れとなり大敗、白馬の拠点を失った。

 そんな中、袁紹危篤の一報は、激論を交わす軍議の真っ只中にもたらされた。

「なんということだ、御身体が優れないとは聞いておったが、まさか此の様な事態になろうとは……」

 留守役の大将、呂曠りょこうがそう言うと、今度は副将の呂翔りょしょうが口を開いた。

「この局面に於ける総大将の死は、言うまでもなく……」

 と、一瞬言葉を濁すも周りをゆっくりと見回し、汗を拭いながら、

「戦況の悪化を加速させるほどの士気低下に繋がりかねん」

と声を落とし呟いた。一室がざわめく。軍議に出席した将の『ほとんど』と同様に明らかに取り乱し始めた。

「狼狽えるでない、まだ亡くなられたわけではなかろう!」

 その殺那、軍議室は静まり返る。皆、恐れ戦いていた。緊張感が戻ってくる。

 軍監に任ぜられた、審配の一喝は効果覿面であった。歴戦の将軍である為か、彼は戦時でもいたって冷静であり、平生から剛直の男として知られていた。

(「ようやく落ち着いたか。愚か者共が」)

 盧周は呆れたように、視線を審配から軍議室の端にある空席に傾けた。

(「また一人減ったか、出奔は後を絶たんな」)

 その席は、許攸きょゆうという男のものだった。そう、昨日までは。

(「傲慢な男だった」)

 しかし、次の瞬間にはもう許攸についての興味は薄れていた。

(「思い出すこともない」)

 審配がなにやら熱弁を奮うのを盧周は虚ろな眼でただ見ていた。

 そんな時突然、側にいた衛兵が声をひそめ、耳打ちをしてきたのであった。

「殿が御呼びです、盧周殿」

「軍議は良いのか、私が参加せずとも?」

「至急、とのことですがいかが致しますか?」

「了解した、では参ろうか」

 盧周の反対側に席を取る盧彰は裏口から去っていく袁周の後ろ姿をはっきりと捉えていた。手は汗でぐっしょりと濡れていた。


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