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第一章『腹臣』

袁周は盧周ろしゅうと名を変え、袁紹えんしゅうの側にいた。時はかの「官渡かんとの戦い」である。

 凄惨な光景と化した村は、自身の姿とは裏腹に穏やかな夕暮れを迎え、不思議に調和していた。

 少年を遠くから見つめる文官の男……よく見れば、その背格好とは対照的に顔には幾つかの皺がある。しかし、そこまで歳は取っていないようである。筋骨隆々で肉体は若々しい。

「忘れていた。あの頃の私は若かった。私は自身の大器を信じて疑わなかった」

 呟くと、男は少年に背を向けた。その瞬間、背後の少年は、突如生じた空間の歪みに引きずり込まれ、辺りを覆う風景の全てと共に闇に消えていった。


 『無』の到来。暗黒の訪れ。

 だが、永遠に続くかと思われた闇はあっけなく、差し込んだ光によって掻き消された。

 しわがれた男の声が響く。


「太陽の光か。久しく浴びておらんかった」

蒼白な壮年の男が空に向かってしみじみと呟いた。

「殿いや、袁紹様。安静にしておられるのは結構ですが、たまには外に出て気分転換されないとお体に良くないですよ。なにより気持ちが鬱いでしまいます」

 文官の男は若返っていた。自然に言葉が口から出てくる。

(「そうだ、私だけが袁紹様と呼ぶことを許されたのであったな」)

「盧周よ、君に一ついや、二つだけ頼みがある」

「はい、なんでしょう?天下をくれなんて仰らないで下さいよ」

 文官の男は盧周と呼ばれていた。盧周は屈託の無い笑顔で、袁紹におどけて見せた。

「できればこの手で……我が友、曹操を葬り去り、天下を手中に収めたかった。しかし、それは叶わぬ夢と化したのだ」

 その時、失意の底に沈み、顔を下に向けていた袁紹は全く気付いていなかった。当然同じような表情を見せる、いや見せてくれるであろう、腹心の盧周が邪悪な笑みを浮かべていたことに。


時代は黄巾の乱から官渡の戦いに移ります。

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