刃先で日本を再起動せよ ――3Dプリンターと町工場が、もう一度この国を“作れる国”に変える日――
✦刃先で日本を再起動せよ
――3Dプリンターと町工場が、
もう一度この国を
“作れる国”に変える日――
………
未来は、
遠い国から
船で届くものではない。
未来は、
スマホの画面を
スクロールするだけで
手に入るものでもない。
未来は、
金属粉とレーザーと、
高速で回る
小さな刃先の中から生まれる。
東京の小さな刃物屋。
仙台や大田区の町工場。
3Dプリンターの光。
工作機械の低い音。
髪の毛より細いエンドミル。
そこに、
日本の次の未来が眠っている。
日本は終わっていない。
ただ、
「安く買う国」から、
「自分で作り直せる国」へ、
再起動するだけだ。
………
★目次
■第一章
安い国が終わった朝
■第二章
ポテチの袋が
教えてくれたこと
■第三章
Xに流れた一行
「部品が来ない」
■第四章
3Dプリンターは
魔法の箱なのか
■第五章
魔法の箱にも
神の包丁がいる
■第六章
○進工具という
小さな刃物屋
■第七章
持たない経営が、
止まる経営になった
■第八章
冷凍倉庫は、
時間を凍らせる金庫だった
■第九章
銀行のお金が、
工場へ流れ始めた
■第十章
町工場の下剋上
■第十一章
ミニ垂直経営という
新しい武器
■第十二章
AIは電気を食べ、
工場は刃物を求めた
■第十三章
ホルムズ後の日本再起動
■第十四章
Z世代の仕事は、
画面の中だけじゃない
■第十五章
未来は、小さく削り直せる
❥ Z世代のあなたへ
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
――笑いと涙の刃先談義――
………
■第一章
安い国が終わった朝
高校1年生のゆづきは、
朝のニュースを見ながら、
小さくため息をついた。
また値上げ。
また物流遅れ。
また部品不足。
また電気代。
ニュースの言葉は、
いつも少しやさしい。
「一部で影響」
「企業努力で対応」
「価格改定のお知らせ」
「供給に遅れ」
でも、
スーパーの棚や、
駅前の店や、
家に届く電気代の紙は、
もっと正直だった。
安いものが、
少しずつ消えていく。
届くはずのものが、
少しずつ遅れていく。
直せるはずのものが、
少しずつ直せなくなっていく。
昔、日本人は信じていた。
安い国で作ればいい。
大きな船で運べばいい。
日本では売れればいい。
在庫はできるだけ
少ない方がいい。
壊れたら、
新しいものを買えばいい。
それが、
賢い経済だと思われていた。
スマホも、
服も、
食品トレーも、
家電も、
車の部品も、
薬の包装も、
トレーニングジムのマシンも、
どこか遠い国で作られて、
船に乗って、
日本に届いた。
届くのが当たり前だった。
まるで、
スマホで注文すれば、
明日には未来まで届くような
気がしていた。
けれど、
その当たり前が、
少しずつ壊れ始めた。
原油が高くなった。
軽油が高くなった。
電気が高くなった。
肥料が高くなった。
ナフサが足りなくなった。
エチレンが足りなくなった。
包装材が足りなくなった。
部品が遅れた。
修理が遅れた。
ゆづきはスマホを見ながら、
ぽつりと言った。
「なんか、日本って、
静かに壊れてない?」
その時、
Xにこんな投稿が流れてきた。
【架空X投稿】
安いものが消えたんじゃない。
安く動かしていた仕組みが、
先に壊れた。
✲物流目詰まり
✲安さの終わり
ゆづきは、
その投稿をスクショした。
なぜか胸がざわついた。
これは、
遠い国のニュースではない。
自分の未来の話かもしれない。
そう思った。
………
■第二章
ポテチの袋が教えてくれたこと
最初に
ゆづきが気づいた異変は、
スーパーの
ポテトチップスだった。
いつもなら、
赤や黄色で
派手な袋が並んでいる。
ところがその日、
棚に並んでいた袋は、
どこか地味だった。
白と黒が多い。
色が少ない。
ゆづきは首をかしげた。
「限定デザイン?」
母は言った。
「おしゃれに
したんじゃない?」
その時、
近所に住む、
67歳の元証券会社勤務のお
じいちゃんが、
買い物カゴを持ったまま言った。
「違うかもしれんぞ」
「え?」
「インキが
足りんのかもしれん」
「インキ?
ポテチに
インキ関係あるの?」
ゆづきは笑った。
おじいちゃんは、
ポテチの袋を指さした。
「袋には印刷があるじゃろ。
その印刷には
インキがいる。
袋そのものにも
フィルムがいる。
貼り合わせるには
接着剤がいる。
それらの多くは、
石油からできとる」
「石油って、
ガソリンだけじゃないの?」
「そこが大事なんじゃ」
おじいちゃんは言った。
「石油は、
ガソリンだけに
なるわけじゃない。
ナフサという材料になって、
そこから
エチレンや
プロピレンができて、
プラスチックや
包装材や接着剤や、
いろんな部品になるんじゃ」
ゆづきはスマホで調べた。
ナフサ。
エチレン。
プロピレン。
樹脂。
包装材。
接着剤。
医療用品。
電線のカバー。
食品トレー。
知らない言葉ばかりだった。
でも、
ひとつだけ分かった。
日本は、
ガソリンで動いているだけではない。
石油から生まれた、
透明な部品たちで動いている。
ポテチの袋。
豆腐の容器。
冷凍食品の袋。
薬のシート。
スマホの部品。
ジムのマシンの樹脂部品。
全部、
どこかでつながっていた。
【架空X投稿】
ガソリンが高いだけなら、
車に乗らなければいい。
でもナフサが詰まると、
袋も、薬も、部品も詰まる。
石油危機は、
透明なところから来る。
✲ナフサ文明
✲ポテチの裏側
ゆづきは、
ポテチの袋をじっと見た。
ただのお菓子の袋ではなかった。
そこには、
世界の物流と、
石油と、
日本の弱点が、
薄いフィルムの中に透けて見えた。
………
■第三章
Xに流れた一行
「部品が来ない」
その夜、
ゆづきのスマホに、
また妙な投稿が流れてきた。
【架空X投稿】
町工場勤務。
海外からの小型部品、
また納期未定。
客は「急ぎで」と言う。
こっちも言いたい。
急げるなら、
海峡に言ってくれ。
✲部品が来ない
✲製造業の現場
ゆづきは
意味が分からなかった。
海峡?
部品と海峡に、
何の関係があるのか。
翌日、
67歳の元証券会社勤務の
おじいちゃんに聞いてみた。
おじいちゃんは言った。
「海峡いうのは、
世界の血管みたいなもんじゃ」
「血管?」
「人間の血管が詰まると、
体が苦しくなるじゃろ。
世界も同じじゃ。
海峡が詰まると、
船が遅れる。
油が遅れる。
部品が遅れる。
材料が遅れる」
ゆづきは言った。
「でも、
日本には工場があるじゃん」
おじいちゃんは少し黙った。
「昔は、もっとあった」
「え?」
「大企業の工場は、
安い国へ出ていった。
日本国内に残ったのは、
中小企業の町工場が多い」
「じゃあ弱いじゃん」
ゆづきは思わず言った。
でも、
おじいちゃんは首を振った。
「いや、そこが面白いんじゃ」
「どういうこと?」
「大量生産では弱い。
でも、修理、試作、少量生産、
特殊加工、短納期、高精度では、
町工場は強い」
ゆづきは目を細めた。
「つまり、
大きな会社ができない
細かい仕事を、
町工場がやるってこと?」
「そうじゃ」
おじいちゃんは笑った。
「これからは、
作り直す時代になる」
「作り直す?」
「海外から部品が来ない。
なら、国内で作る。
古い機械が壊れた。
なら、必要な部品だけ作る。
重い部品を軽くしたい。
なら、設計し直す。
電気を食う装置を
省エネにしたい。
なら、作り直す」
ゆづきは、
その言葉をノートに書いた。
★作り直す時代。
【架空X投稿】
これから強いのは、
“安く買える会社”じゃなくて、
“止まった時に作り直せる会社”。
✲作り直し経済
✲町工場再起動
ゆづきは思った。
これは、
昔の工場の話ではない。
未来の話だ。
………
■第四章
3Dプリンターは魔法の箱なのか
学校で、
ゆづきは友だちの
こはるに熱く語った。
「3Dプリンターって
知ってる?」
こはるは言った。
「知ってる。
フィギュア作るやつでしょ」
ゆづきは首を振った。
「それだけじゃないよ。
金属部品も作れる。
金型なしで、
複雑な形を一個から作れる。
軽くしたり、
冷却の通り道を
中に作ったり、
ロケットの
部品みたいなものまで
作れる時代なんだって」
こはるは目を丸くした。
「え、魔法じゃん!」
ゆづきはうなずきかけて、
すぐに首を振った。
「でも、
そこで終わりじゃないらしい」
3Dプリンターは、
たしかにすごい。
普通の工場では
作りにくい形も作れる。
金型がなくても作れる。
複雑な形も作れる。
部品を一体化して、
軽くすることもできる。
少ない数だけ作ることもできる。
たとえば、
一個だけ必要な部品。
古い機械の交換部品。
試作品。
軽くしたい部品。
熱を逃がすための冷却部品。
そういうものを作る時、
3Dプリンターは強い。
でも、
万能ではない。
金属3Dプリンターで
作った部品は、
そのままでは
表面がザラザラだったり、
穴の大きさが
少しズレていたり、
機械にぴったり
入らなかったりする。
形はできる。
でも、
最後の精度が
足りないことがある。
こはるは言った。
「じゃあ、
3Dプリンターって、
下書きみたいなもの?」
ゆづきはうなずいた。
「そう。
未来の下書き」
「じゃあ、
清書する人がいるんだ」
「そう。
最後に削る人がいる」
こはるは目を丸くした。
「結局、削るんかい」
二人は笑った。
でも、
ゆづきの目は輝いていた。
「でもさ、
これってすごくない?
海外から部品が来なくても、
データがあって、
材料があって、
3Dプリンターがあって、
最後にちゃんと
削れる技術があれば、
日本でも作り直せるんだよ」
こはるは少し黙った。
「それ、
なんか未来っぽいね」
「未来っぽいけど、
町工場の話なんだよ」
ゆづきはスマホを見せた。
画面には、
金属3Dプリンターの光と、
小さな工具が
金属を削る動画が映っていた。
「これが、
日本の新しい武器になるかも
しれないんだって」
その時、
Xにこんな投稿が流れてきた。
【架空X投稿】
3D printing is the first stage.
Precision machining is the final stage.
Japan has both.
The future belongs to those
who can iterate hardware
as fast as software.
✲MakeInJapan
✲ミニ垂直経営
✲最後の精度
こはるは英語を見て言った。
「なんか
イーロン・マスクっぽい」
ゆづきは笑った。
「でしょ。
でも、これを
日本語で言うと簡単だよ」
「何?」
「未来は、
形を作る力と、
最後に仕上げる力を
持つ国が勝つ」
こはるは言った。
「小学生にもわかる」
ゆづきはうなずいた。
未来は、
画面の中だけではない。
手が触れられる
金属からも生まれる。
………
■第五章
魔法の箱にも
神の包丁がいる
67歳の元証券会社勤務の
おじいちゃんは、
台所でリンゴをむいていた。
ゆづきは言った。
「3Dプリンターって、
料理でいうと何?」
おじいちゃんは、
少し考えてから言った。
「鍋じゃな」
「鍋?」
「材料を入れて、
形を作る。
でも、
料理は鍋だけでは完成せん」
「包丁もいる?」
「そうじゃ」
おじいちゃんは、
リンゴを薄く切った。
「どんなにいい材料があっても、
包丁が悪ければ料理は崩れる。
工場も同じじゃ」
ゆづきは、
少しわかった気がした。
3Dプリンターは、
材料を形にする鍋。
工作機械は、
その形を整える調理台。
そしてエンドミルは、
最後にきれいに切る包丁。
「エンドミルって何?」
ゆづきが聞くと、
おじいちゃんは言った。
「金属を削るための
刃物じゃ」
「ドリルとは違うの?」
「ドリルは
穴を開けるのが得意。
エンドミルは、
横にも削れる。
溝を作ったり、
面を整えたり、
細かい形を作ったりする」
ゆづきはスマホで画像を見た。
小さな金属の刃物。
それが高速で回り、
金属を削っていく。
地味だった。
でも、
なぜか格好よかった。
「これがないと、
3Dプリンターで作った部品も、
ちゃんと使えないことが
あるんだね」
「そうじゃ」
おじいちゃんは言った。
「未来の工場には、
魔法の箱だけでなく、
よく切れる包丁がいる」
ゆづきは言った。
「神の包丁みたいだね」
おじいちゃんは笑った。
「神かどうかは知らん。
でも、最後の
0.001ミリを削れる刃物は、
未来を変えるかもしれん」
ゆづきは想像した。
病院の古い装置が
止まりそうになる。
でも、
海外から部品が来ない。
町工場が
3Dプリンターで形を作る。
○進工具のような
小さな刃物で、
最後の精度を出す。
その部品が入り、
医療機械がもう一度動き出す。
ドローンの軽い部品。
EVの省エネパーツ。
AIサーバーの冷却部品。
農業機械の交換部品。
全部、
日本の町工場で
作り直せるかもしれない。
ゆづきは思わず言った。
「これ、
夢あるじゃん」
おじいちゃんはうなずいた。
「そうじゃ。
日本の未来は、
でかいビルだけに
あるんじゃない。
小さな刃先にもある」
【架空X投稿】
3Dプリンターが鍋なら、
エンドミルは包丁。
でも未来の工場では、
その包丁が国を救う。
形を作る力。
最後に仕上げる力。
この二つを持つ国が、
作り直せる国になる。
✲未来の包丁
✲刃先インフラ
✲製造レスキュー
………
■第六章
○進工具という小さな刃物屋
67歳の元証券会社勤務の
おじいちゃんは、
ある会社の名前を出した。
「○進工具」
「まるしんこうぐ?」
「小説用の架空の名前じゃ」
「何を作ってる会社?」
「小さな刃物じゃ」
○進工具は、
仙台の郊外に工場を持つ、
小さな工具メーカーだった。
作っているのは、
小径エンドミル。
つまり、
とても小さく、
とても正確に、
金属を削るための刃物だった。
大きな会社ではない。
テレビCMもない。
若者が知っている名前でもない。
でも、
町工場の人たちは知っていた。
「あそこの工具じゃないと
怖い」
「あの刃物なら、
最後の寸法が出る」
「安い工具で
失敗するくらいなら、
高くてもいい工具を
使った方がいい」
昔、
工具はただの消耗品だと
思われていた。
安ければいい。
使えなくなったら
交換すればいい。
多少失敗しても、
材料も時間も安かった。
でも、
時代が変わった。
材料が高い。
電気が高い。
人件費が高い。
納期が厳しい。
一回失敗したら、
次の材料が
すぐ来るとは限らない。
その時、
工具はただの
消耗品ではなくなる。
工具は、
失敗を減らす保険になる。
ゆづきは言った。
「刃物が保険になるんだ」
おじいちゃんはうなずいた。
「そうじゃ。
未来は、
保険の形も変わる」
○進工具は、
ただ刃物を
売っているのではなかった。
町工場が失敗しないための、
小さな安心を売っていた。
そして、日本がもう一度
作れる国になるための、
最後の精度を売っていた。
【架空X投稿】
安い工具で失敗して、
材料と納期を
飛ばす時代は終わった。
これから工具は、
歩留まり保険になる。
そして、
町工場の反撃の刃になる。
✲○進工具
✲刃先インフラ
✲日本再起動
………
■第七章
持たない経営が、
止まる経営になった
かつて、
在庫を持たないことは、
賢い経営だと言われていた。
倉庫はコスト。
在庫はムダ。
必要な時に、
必要な分だけ届けばいい。
それが正解だった。
けれど、
世界の物流が詰まり始めると、
その正解は少しずつ変わった。
部品が来ない。
包装材が来ない。
交換部品が来ない。
修理できない。
工場が止まる。
ゆづきは思った。
在庫がないというのは、
部屋が片づいているみたいで
気持ちいい。
でも、
何かあった時、
何もないということでもある。
おじいちゃんは言った。
「人間も同じじゃ。
冷蔵庫が空っぽで、
スマホの残高だけ見て
安心しとったら、
台風の日に困るじゃろ」
「たしかに」
「会社も同じじゃ。
持たない経営は、
平和な時は強い。
でも非常時には、
止まりやすい」
その日、
Xではこんな投稿が伸びていた。
【架空X投稿】
在庫を持たない経営は、
平時の美学。
在庫を持てない経営は、
有事の弱点。
これからは、
“何を持つか”が企業価値になる。
✲在庫の復権
✲持つ経営
ゆづきは、
ノートに大きく書いた。
★何を持つかが、価値になる。
倉庫を持つ。
食料を持つ。
設計データを持つ。
工作機械を持つ。
工具を持つ。
直せる人を持つ。
未来の豊かさは、
ブランド品を持つことではない。
止まらないための力を
持つことだった。
………
■第八章
冷凍倉庫は、
時間を凍らせる金庫だった
67歳の元証券会社勤務の
おじいちゃんは、
株価チャートを見せた。
「冷凍倉庫の会社が
上がっとる」
「冷凍倉庫?」
「食べ物を
冷やして保管する会社じゃ」
「地味」
「地味な会社ほど、
危機の時に光る」
昔、
冷凍倉庫は、
電気を食う箱だと
思われていた。
でも、
食料不安が出ると、
意味が変わった。
冷凍倉庫は、
魚や肉や冷凍食品を、
必要な時まで守る。
つまり、
食べ物の時間を
止める装置だった。
おじいちゃんは言った。
「冷凍倉庫は、
時間を凍らせる金庫じゃ」
ゆづきは、
少し鳥肌が立った。
時間を凍らせる金庫。
それは、
SFみたいだった。
でも、
スーパーの冷凍食品売り場を
思い出すと、
急に現実に見えた。
「じゃあ、
冷凍倉庫を持っている会社は、
食料の時間を
持っているってこと?」
「そうじゃ」
おじいちゃんは言った。
「では、
○進工具は
何を持っとると思う?」
ゆづきは考えた。
「刃物?」
「その通り。
でも、それだけじゃない」
おじいちゃんは言った。
「○進工具は、
製造の時間を
削り出す力を持っとる」
海外から部品が来ない時、
国内で削って作る。
3Dプリンターで
作った部品を、
最後に仕上げる。
古い機械を止めないために、
代替部品を加工する。
それは、
工場が止まる時間を
短くする仕事だった。
【架空X投稿】
冷凍倉庫は、
食料の時間を凍らせる金庫。
工具は、
製造の時間を取り戻す刃物。
これから市場は、
“時間を持つ会社”に
値段をつける。
✲時間を持つ会社
✲在庫の復権
ゆづきは思った。
会社の価値は、
売っている物だけでは
決まらない。
その会社が、
どんな時間を守っているかで
決まる。
………
■第九章
銀行のお金が、
工場へ流れ始めた
ある朝、
67歳の元証券会社勤務の
おじいちゃんは
新聞を見ながら、
少し興奮していた。
「ゆづき、
数字は嘘をつかんぞ」
「また株?」
「いや、
銀行の貸出と
工作機械受注じゃ」
「なにそれ。
眠そう」
「眠そうな数字ほど、
本当は大事なんじゃ」
おじいちゃんは説明した。
工作機械とは、
工場で部品を作るための
機械のことだ。
金属を削る。
穴を開ける。
面を整える。
部品を正確に作る。
つまり、
工作機械の注文が
増えるということは、
企業が、
「これから作る力を増やす」
と決めたということだった。
そして、
銀行が工場に
お金を貸すということは、
企業が借金してでも、
新しい機械を
入れようとしているということ。
ゆづきは言った。
「借金って
悪いことじゃないの?」
おじいちゃんは首を振った。
「遊ぶための借金は怖い。
でも、
生き残るための
機械を買う借金は違う」
「未来への投資?」
「そうじゃ」
Xにも、
こんな投稿が流れていた。
【架空X投稿】
銀行のお金が、
不動産だけではなく
工場へ向かい始めた。
工作機械受注が伸びる時、
それは“日本がもう一度
作る準備”をしているサイン。
✲工作機械
✲工場再起動
ゆづきは、
少しワクワクした。
日本は終わる国だと思っていた。
少子化。
物価高。
年金不安。
地方衰退。
エネルギー不足。
暗い話ばかりだった。
でも、
工場がもう一度動き出すなら。
町工場が、
3Dプリンターと
工作機械で反撃するなら。
自分たちの世代にも、
何かできるかもしれない。
そう思った。
………
■第十章
町工場の下剋上
大企業は、
海外に工場を持っている。
それは強みだった。
安い人件費。
大きな量。
巨大な供給網。
世界中の市場。
でも、
危機の時には、
その強みが弱点にもなる。
海が詰まる。
港が混む。
保険料が上がる。
為替が揺れる。
政治が邪魔をする。
エネルギーが足りない。
海外工場があっても、
物が日本に届かなければ
意味がない。
その時、
国内に残った中小企業に
チャンスが来る。
大量生産では勝てない。
でも、
小回りでは勝てる。
一個だけ作る。
急ぎで直す。
古い部品を再現する。
3Dプリンターで形を作る。
切削で仕上げる。
顧客と直接相談する。
これは、
大企業には苦手な戦いだった。
【架空X投稿】
大企業は量で勝つ。
中小企業は距離と速さで勝つ。
物流が詰まる時代、
“近くで作れる”ことが武器になる。
✲中小企業の下剋上
✲ミニ垂直統合
ゆづきは言った。
「町工場って、
ローカルヒーローみたい」
おじいちゃんは笑った。
「そうじゃ。
昔は下請けと言われた。
これからは、
地域の製造レスキュー隊じゃ」
製造レスキュー隊。
その言葉は、
ゆづきの胸に残った。
消防士が火を消すように、
医者が命を助けるように、
町工場は、
止まりかけた工場を助ける。
そんな未来があるのかもしれない。
………
■第十一章
ミニ垂直経営という新しい武器
垂直経営。
ゆづきには、
最初よく分からなかった。
ビルが縦に伸びる話かと思った。
67歳の元証券会社勤務の
おじいちゃんは笑った。
「垂直経営いうのは、
簡単に言うと、
自分で考えて、
自分で作って、
自分で直せる力を
持つことじゃ」
「全部
自分でやるってこと?」
「全部ではない。
でも、
大事な部分を
人任せにしすぎないと
いうことじゃ」
昔は、
分業が正義だった。
設計する会社。
作る会社。
運ぶ会社。
売る会社。
それぞれが得意なことをする。
でも、
危機の時には、
その間の線が切れる。
設計はあるのに、
作れない。
工場はあるのに、
材料がない。
商品はあるのに、
運べない。
売り場はあるのに、
棚が空。
だから、
これからは
垂直経営が戻ってくる。
ただし、
大企業だけの話ではない。
中小企業にも、
小さな垂直経営ができる。
設計データを持つ。
3Dプリンターを持つ。
工作機械を持つ。
○進工具の刃物を持つ。
地域の顧客を持つ。
修理と試作に対応する。
これが、
町工場版の垂直経営だった。
ゆづきはノートに書いた。
★ミニ垂直経営
=自分たちで
ループを閉じる力。
設計する。
作る。
削る。
直す。
届ける。
大きな工場ではなくてもいい。
小さな町工場でも、
この流れを持てば、
小さな要塞になる。
Xでは、
この言葉が
少しずつ広がっていた。
【架空X投稿】
グローバルサプライチェーンが
止まる時代、
安い外注より、
ミニ垂直経営が強い。
設計データ
+金属3Dプリンター
+高精度工作機械
+世界級の微細工具。
これで町工場は、
大企業並みの
レスポンスを出せる。
✲ミニ垂直経営
✲町工場要塞化
【架空X投稿】
Z世代よ。
ソフトウェアだけじゃない。
ハードウェアの
フルスタックを見ろ。
設計して、
プリントして、
削って、
組み立てて、
直す。
それが次の勝ちパターンだ。
✲ものづくりAI
✲日本再起動
ゆづきは言った。
「これって、
小さなSpaceXみたいだね」
おじいちゃんは目を細めた。
「そうじゃ。
でかいロケットを
飛ばす会社だけが、
未来を作るんじゃない。
小さな町工場も、
自分たちのロケットを
持てる」
「ロケット?」
「お客さんの困りごとを、
最短距離で解決する
ロケットじゃ」
ゆづきは笑った。
でも、
その言葉は心に残った。
ミニ垂直経営。
それは、
中小企業が未来へ飛ぶための、
小さなロケットだった。
………
■第十二章
AIは電気を食べ、
工場は刃物を求めた
世の中は
AIで盛り上がっていた。
AIが文章を書く。
AIが絵を描く。
AIがコードを書く。
AIが投資を判断する。
AIが仕事を奪う。
ゆづきもAIを使っていた。
宿題のヒントをもらったり、
英語の発音を聞いたり、
小説のアイデアを
出してもらったりした。
でも、
67歳の元証券会社勤務の
おじいちゃんは言った。
「AIは、
雲の上にあるように
見えるが、
本当は
地上の電気を食っとる」
「電気?」
「そうじゃ。
AIを動かすには、
データセンターがいる。
データセンターには
電気がいる。
熱を冷ます
冷却装置がいる。
半導体がいる。
配線がいる。
非常用電源がいる。
建物がいる。
人がいる」
AIは、
画面の中だけに
存在しているわけではない。
その裏には、
巨大な現実があった。
電気。
水。
冷却装置。
サーバー。
半導体。
銅線。
発電機。
配管。
工具。
つまり、
AIの未来にも、
工場がいる。
【架空X投稿】
AIはクラウドにあるんじゃない。
発電所と冷却水と
半導体と工場の上にある。
雲の正体は、
地上のインフラ。
✲AI電力
✲見えない工場
ゆづきは気づいた。
AIの未来は、
プログラマーだけが
作るのではない。
電気を守る人。
冷却装置を作る人。
半導体装置を作る人。
部品を削る人。
工具を作る人。
その全員が、
AIの未来を支えている。
画面の中だけを見ていたら、
未来の半分しか見えない。
………
■第十三章
ホルムズ後の日本再起動
ホルムズ海峡が詰まった朝。
日本の空気は、
一気には変わらなかった。
電車は動いていた。
コンビニも開いていた。
スマホもつながっていた。
でも、
工場の奥では、
静かな悲鳴が始まっていた。
原油が読めない。
ナフサが読めない。
樹脂が読めない。
包装材が読めない。
軽油が高い。
電気が高い。
部品が来ない。
修理が遅れる。
古い設備が
止まりそうになる。
今までなら、
海外から取り寄せればよかった。
でも、
その海外が遅れている。
船が詰まっている。
保険が高い。
港が混んでいる。
政治が読めない。
そこで、
町工場に火がついた。
待つ日本ではなく、
作り直す日本へ。
3Dプリンターで、
まず形を作る。
工作機械で、
正確に整える。
○進工具の刃物で、
最後の精度を出す。
冷凍倉庫は、
食料の時間を守る。
町工場は、
製造の時間を守る。
ゆづきは、
Xで流れてきた投稿を見つめた。
【架空X投稿】
日本は捨てたもんじゃない。
微細技術と3Dプリンターを
組み合わせれば、
ホルムズ級の
危機をバネにできる。
資源が少ない島国だからこそ、
作り直す力が武器になる。
✲島国日本再起動
✲作り直し経済
おじいちゃんは言った。
「危機は怖い。
でも、
危機は価値観を変える」
「価値観?」
「今までは、
安く買えることが
強さだった。
これからは、
止まった時に
作り直せることが
強さになる」
ゆづきは、
静かにうなずいた。
日本は終わったのではない。
ルールが変わったのだ。
そして、
新しいルールの中で、
日本にはまだ使える武器があった。
………
■第十四章
Z世代の仕事は、
画面の中だけじゃない
ゆづきは、
進路希望調査票を前にしていた。
第一志望。
第二志望。
将来やりたい仕事。
昔なら、
こう書いたかもしれない。
安定した会社。
事務職。
IT企業。
公務員。
マーケティング。
動画編集。
デザイン。
もちろん、
それも大切な仕事だ。
でも今、
ゆづきの頭には、
別の言葉が浮かんでいた。
製造レスキュー。
設計データ管理。
3Dプリンター技術者。
後処理エンジニア。
切削加工。
省エネ設計。
地域工場コーディネーター。
食料備蓄インフラ。
冷凍倉庫。
修理できる社会。
画面の中の仕事だけが
未来ではない。
画面の裏側を支える仕事も、
未来だった。
【架空X投稿】
Z世代へ。
AIを使える人は強い。
でも、
AIの裏側にある
電気・部品・工具・工場まで
見える人はもっと強い。
✲Z世代の仕事
✲未来の現場
ゆづきは、
進路希望調査票にこう書いた。
「ものづくりとAIをつなぐ仕事」
先生は、
首をかしげるかもしれない。
でも、
ゆづきはもう決めていた。
日本がもう一度、
作れる国になるなら、
そこに関わりたい。
その未来の一部になりたい。
………
■第十五章
未来は、小さく削り直せる
数年後。
ゆづきは、
ある小さな町工場を訪ねていた。
そこには、
金属3Dプリンターがあった。
古い工作機械があった。
新しい
マシニングセンタがあった。
棚には、
○進工具の
小さなエンドミルが並んでいた。
工場長は言った。
「昔は、
大企業の下請けだった。
でも今は違う。
地域の病院、
食品工場、
物流会社、
農機メーカーから、
直接相談が来る」
「どんな相談ですか?」
ゆづきが聞いた。
工場長は答えた。
「この部品、
海外から来ない。
作れないか。
この装置、
電気を食いすぎる。
軽くできないか。
この古い機械、
あと五年使いたい。
直せないか」
ゆづきは、
機械の中で回る
小さな刃物を見た。
キーンという、
細い音がした。
それは、
派手な音ではなかった。
でも、
日本がもう一度動き出す音に
聞こえた。
工場長は言った。
「3Dプリンターで形を作る。
最後に
この刃物で仕上げる。
これがないと、
部品にならん」
若い社員が、
モニターの前で
設計データを直していた。
別の社員が、
3Dプリンターの
造形条件を調整していた。
ベテラン職人が、
加工音を聞きながら言った。
「この音なら大丈夫だ」
ゆづきは思った。
ここには、
AIもある。
データもある。
プリンターもある。
機械もある。
職人もいる。
刃物もある。
これが、
新しい日本の工場なんだ。
その時、
Xに投稿が流れてきた。
【架空X投稿】
日本は終わったんじゃない。
安く買う時代が
終わっただけだ。
これからは、
作り直せる国が強い。
未来は、
巨大な工場だけでなく、
小さな刃先からも生まれる。
✲刃先で日本を再起動せよ
✲MakeInJapan
ゆづきは、
その投稿を見て笑った。
昔の自分なら、
スクロールして終わっていた。
でも今は違う。
その言葉の裏にある工場の音が、
聞こえる気がした。
未来は、
まだ削り出せる。
日本は、
まだ作り直せる。
そして、
その刃先はもう、
回り始めていた。
………
❥ Z世代のあなたへ
日本は終わっていない。
むしろ、
今が本番かもしれない。
安いエネルギー。
安い部品。
安い物流。
安い海外工場。
それらに頼っていた時代は、
終わりに近づいている。
でも、
それは絶望だけではない。
新しいチャンスでもある。
日本には、
まだ残っているものがある。
細かく作る力。
丁寧に仕上げる力。
壊れたものを直す力。
少ない材料で工夫する力。
町工場の技術。
職人の耳。
若者のAI。
3Dプリンター。
工作機械。
そして、
髪の毛より細い世界を削る刃先。
これらを組み合わせれば、
日本はもう一度、
作れる国になれる。
画面の中の仕事も大事だ。
でも、
画面の裏側も見てほしい。
AIを動かす電気。
電気を守る設備。
設備を作る部品。
部品を仕上げる工具。
その全部が、
未来を支えている。
未来は、
誰かが完成品として
届けてくれるものではない。
未来は、
君たちが設計し、
3Dプリンターで形にし、
小さな刃物で仕上げるものだ。
日本はまだ、
削り出せる。
君の手で。
………
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
――笑いと涙の刃先談義――
ワトソン
「ホームズはん、今回の話、
最初は難しすぎる思いましたわ。
3Dプリンターやら、
垂直経営やら、
エンドミルやら。
わしの頭が先に
切削されましたわ」
ホームズ
「削られてちょうどええ。
余計な思い込みが
多すぎるんや」
ワトソン
「いきなり厳しいなあ。
けど、
3Dプリンターいうたら、
ボタン押したら
何でも出てくる
未来の魔法箱やと
思うやないですか」
ホームズ
「ちゃうちゃう。
あれは形を作る機械や。
最後に精度を出すには、
削らなあかん」
ワトソン
「ほな、
3Dプリンターは鍋で、
エンドミルは包丁でっか?」
ホームズ
「珍しくええ例えや」
ワトソン
「珍しくは余計ですわ。
でも、料理と同じですな。
鍋だけあっても
料理はできへん。
包丁もいる。
味見もいる。
最後の仕上げもいる」
ホームズ
「その通りや。
未来の工場も同じや。
AIだけでもあかん。
3Dプリンターだけでも
あかん。
工作機械も、
工具も、
職人もいる」
ワトソン
「ほな、
○進工具は
未来の包丁屋さんですな」
ホームズ
「そうや。
ただの包丁やない。
日本の作り直し経済を
支える刃先や」
ワトソン
「しかしホームズはん、
昔は在庫は持たん方が
ええ言うてましたやん」
ホームズ
「平和な時代はな」
ワトソン
「ほな、今は?」
ホームズ
「持たない経営が、
止まる経営になる時代や」
ワトソン
「うわ、怖いこと言うた。
ほな、
うちの冷凍庫に
アイス入れとくのも
在庫戦略でっか?」
ホームズ
「それは
ただの食いしん坊や」
ワトソン
「ちゃいますがな。
食料安全保障ですわ」
ホームズ
「都合のええ安全保障やな」
ワトソン
「冷凍倉庫は
食料の時間を凍らせる。
うちの冷凍庫は
チョコモナカジャンボの
時間を凍らせる」
ホームズ
「スケールが小さいわ」
ワトソン
「でもホームズはん、
小さいものが大事なんでしょ。
○進工具も
小さな刃物なんでしょ」
ホームズ
「そこはええこと言うた」
ワトソン
「ほな、
わしも未来の刃先ですな」
ホームズ
「君はどちらかというと、
削られる材料や」
ワトソン
「なんでやねん!」
ホームズ
「けどな、ワトソン君。
今回の話の本質はそこや。
日本は昔みたいに、
何でも大量に作って
世界に売る国には
戻れんかもしれん」
ワトソン
「寂しいこと言いますな」
ホームズ
「でも、
壊れたものを
直す国にはなれる。
少ない材料で
作る国にはなれる。
小さく、軽く、省エネに
作り直す国にはなれる」
ワトソン
「つまり、
日本は終わったんやなくて、
作り方を変える時が
来たんですな」
ホームズ
「その通りや」
ワトソン
「ほな、Z世代に言いまひょ」
ホームズ
「何をや」
ワトソン
「スマホの画面だけ見るな。
画面の裏にある
工場の音を聞け」
ホームズ
「ええやないか」
ワトソン
「AIの返事だけ信じるな。
AIを動かす
電気と部品と刃物を見ろ」
ホームズ
「さらにええ」
ワトソン
「そして、
冷凍庫のアイスは
勝手に食うな」
ホームズ
「それは家庭内ルールや」
ワトソン
「なんでやねん!」
ホームズ
「最後に一つだけ
言うておこう」
ワトソン
「なんですの?」
ホームズ
「未来は、
完成品として届くんやない」
ワトソン
「ほう」
ホームズ
「未来は、
自分たちで削り出すもんや」
ワトソン
「泣かせますなあ」
ホームズ
「泣く前に、
君はまず家の
在庫管理をせえ」
ワトソン
「はい。
チョコモナカジャンボ三個、
備蓄します」
ホームズ
「だから
それは食いしん坊や!」
ワトソン
「なんでやねん!」
………
★最後の一文
日本はまだ終わっていない。
ただ、
安く買う国から、
自分で作り直せる国へ、
生まれ変わる途中にいるだけだ。
その再起動の刃先は、
もう回り始めている。




