日本株式会社、再起動不能 ――ホルムズ海峡が閉じた日――
✦日本株式会社、再起動不能
――ホルムズ海峡が閉じた日――
………
想像してみて。
日本という国が、
一つの巨大ロケットだったとする。
名前は、
「日本株式会社号」。
乗っているのは、
約一億二千万人。
お父さんも、
お母さんも、
学生も、
会社員も、
おじいちゃんも、
おばあちゃんも、
みんな乗っている。
そのロケットは、
長いあいだ飛んでいた。
なぜ飛べたのか。
燃料が安かったから。
お金を借りる力も軽かったから。
つまり、
石油が安く、
金利も低かったからだ。
でも二〇二六年。
遠い海で、
大事件が起きた。
ホルムズ海峡が閉じた。
石油を運ぶ道が、
詰まってしまった。
石油が高くなった。
電気代も上がった。
ガソリン代も上がった。
トラック代も上がった。
食品トレーも上がった。
薬の包装も上がった。
その同じ頃、
日銀が言った。
「金利を上げます」
金利とは、
お金を借りるときの使用料だ。
ロケットで言えば、
重力が強くなるようなもの。
燃料は高い。
重力は重い。
それでも日本は、
昔の説明書を持ったまま
飛ぼうとしていた。
いい学校へ行け。
いい会社へ入れ。
家を買え。
土地を持て。
我慢すれば何とかなる。
国と銀行が最後は助けてくれる。
その古いルールで、
日本はずっと飛んできた。
でも、
もう画面に赤いランプが出ていた。
ERROR!
低金利モード終了!
安い石油モード終了!
不動産神話モード停止!
若者AI反撃モード起動!
イーロン・マスクなら、
こう言うかもしれない。
「日本には技術がある。
職人もすごい。
でも、
古い設計図のまま
新しい宇宙へ行こうとしている」
さあ。
これは、
日本株式会社号が
もう一度飛べるかどうかの物語だ。
………
★目次
■第一章
イーロンが見た日本株式会社
■第二章
金利は重力、石油は燃料
■第三章
百軒ばあさんの借家地獄
■第四章
家は夢か、それとも重たいアプリか
■第五章
若者は電池残量で人生を見る
■第六章
AIを使う人、AIに使われる人
■第七章
会社はロケットか、古い倉庫か
■第八章
安すぎる国のこわいバグ
■第九章
お年寄りの貯金は未来の燃料か
■第十章
子どもが減る国は、未来のお客さんを失う
■第十一章
銀行は笑顔から計算機へ変わる
■第十二章
ロボットより先に仕事の考え方が壊れる
■第十三章
電気を食うAIと、電気代に泣く家庭
■第十四章
火星より難しい、日本の作り直し
■第十五章
飛べる人は、軽くなれる人
❥Z世代のあなたへ
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
………
■第一章
イーロンが見た日本株式会社
イーロンは、
ものを見る時、
バラバラに分けて考える。
車なら、
ただの車として見ない。
電池はどうか。
ソフトはどうか。
工場はどうか。
充電する場所はあるか。
修理できるか。
そう考える。
ロケットなら、
もっと細かく見る。
燃料は足りるか。
重すぎないか。
エンジンは古くないか。
一度使ったら終わりか。
何度も使えるか。
もしイーロンが日本を見たら、
こう言うかもしれない。
「日本は国というより、
大きな会社だね」
その会社の名前は、
日本株式会社。
社員は約一億二千万人。
工場は強い。
新幹線は時間ぴったり。
コンビニはきれい。
職人さんはすごい。
病院も丁寧。
でも、
おじいちゃんはテレビを見ながら
首をひねった。
六十七歳の元証券マンの
おじいちゃんだった。
「問題はOSじゃな」
ひろしが聞いた。
「OSって何ですか?」
おじいちゃんは、
スマホを指さした。
「スマホの頭の中じゃ。
古いOSのまま
新しいアプリを入れると、
動きが悪くなるじゃろ」
「日本もですか?」
「そうじゃ。
日本の考え方が古いんじゃ」
古いOSには、
こんな考え方が入っていた。
人口は増える。
石油は安く届く。
電気はいつでも使える。
金利はずっと低い。
若者は我慢する。
会社は守ってくれる。
土地を持っていれば勝てる。
銀行は最後に助ける。
でも、
二〇二六年。
そのOSが固まった。
ホルムズ海峡が閉じた。
石油が高くなった。
電気代が上がった。
ガソリン代が上がった。
そこへ日銀利上げ。
ロケットで言えば、
燃料が高くなって、
重力も強くなった。
さおりは、
家計簿アプリを開いた。
「うわ……」
ひろしが聞いた。
「どうしたの?」
「電気代が、
去年よりずっと高い」
おじいちゃんは言った。
「ホルムズは遠い海じゃ。
でも、
影響は台所まで来るんじゃ」
ひろしは黙った。
遠い海のニュースが、
自分たちの家計簿に
入り込んでいた。
おじいちゃんは、
テレビを見ながらつぶやいた。
「これは金融政策じゃない。
日本株式会社の
強制再起動じゃ」
画面の中で、
赤い警告ランプが
光っているように見えた。
SYSTEM WARNING.
古いOSです。
更新してください。
………
■第二章
金利は重力、石油は燃料
ひろしは聞いた。
「金利って、
そんなに怖いんですか?」
おじいちゃんは言った。
「金利はな、
お金を借りる時の使用料じゃ」
「使用料?」
「そうじゃ。
レンタカーを借りたら
お金を払うじゃろ。
お金を借りても、
使用料を払うんじゃ」
「それが金利?」
「そうじゃ」
家を買う。
アパートを建てる。
工場を作る。
店を改装する。
国が借金する。
みんな、
未来のお金を先に借りている。
金利が低い時代は、
未来を安く借りられた。
だから、
多くの人が借りた。
会社も借りた。
大家も借りた。
国も借りた。
でも、
金利が上がるとどうなるか。
未来を借りる値段が上がる。
ロケットで言えば、
重力が強くなる。
飛ぶのが大変になる。
さおりが聞いた。
「じゃあ石油は?」
おじいちゃんは、
台所を見た。
「石油は燃料じゃ。
でもガソリンだけじゃない」
石油は、
トラックの軽油になる。
飛行機の燃料になる。
食品トレーの材料になる。
ビニール袋になる。
薬の包装になる。
洗剤の容器になる。
スマホを運ぶ
段ボールのテープにもなる。
「えっ、
そんなところにも?」
「そうじゃ。
石油は生活の中に
透明になって隠れとる」
ホルムズ海峡が閉じると、
石油が高くなる。
石油が高くなると、
運ぶお金も高くなる。
包むお金も高くなる。
冷やすお金も高くなる。
作るお金も高くなる。
つまり、
いろんな物が高くなる。
おじいちゃんは、
紙にこう書いた。
金利=重力
石油=燃料
そして言った。
「重力が強くなって、
燃料も高くなったら、
古いロケットは飛べん」
さおりは、
スーパーのレシートを見た。
卵。
パン。
納豆。
洗剤。
トイレットペーパー。
どれも少しずつ高い。
「安い時代って、
当たり前じゃなかったんだね」
おじいちゃんはうなずいた。
「安いいうんはな、
遠い国の石油と、
近くの誰かの我慢で
できとったんじゃ」
ひろしは、
その言葉をノートに書いた。
安さは、
誰かの我慢でできていた。
………
■第三章
百軒ばあさんの借家地獄
町には、
有名なばあさんがいた。
みんな、
こう呼んでいた。
百軒ばあさん。
本当に百軒あるかは分からない。
でも、
たくさんの借家とアパートを
持っていた。
先祖からの土地。
古い屋敷。
貸店舗。
月極駐車場。
木造の借家。
相続税対策で建てた
賃貸マンション。
近所の人は言った。
「あの家は土地持ちじゃ」
「毎月、家賃が入るんじゃろ」
「老後は安泰じゃな」
百軒ばあさんも、
そう思っていた。
家が働いてくれる。
土地が働いてくれる。
入居者が毎月、
通帳にお金を運んでくれる。
低金利時代、
銀行も笑顔だった。
「もう一棟どうですか」
「金利は低いです」
「家賃で返せます」
百軒ばあさんは、
安心して借りた。
借金は怖くなかった。
節税にもなる。
資産にもなる。
名士の看板も守れる。
でも、
イーロンの目なら、
違って見えただろう。
それは資産ではない。
古い機械の山だった。
一軒目。
屋根が古い。
二軒目。
給湯器が古い。
三軒目。
水道管が古い。
四軒目。
エアコンが古い。
五軒目。
入居者が高齢。
六軒目。
家賃が遅れぎみ。
七軒目。
駐車場が空いている。
八軒目。
畳を替える職人がいない。
九軒目。
外壁塗装が高くなった。
十軒目。
火災保険も高くなった。
そこへ、
ホルムズ封鎖。
塗料が上がる。
部品が上がる。
給湯器が上がる。
トラックの軽油が上がる。
職人さんの移動費も上がる。
入居者の電気代も上がる。
みんな苦しくなる。
そして、
日銀利上げ。
百軒ばあさんの借金の利息が
重くなる。
借入が二十億円あるとする。
金利が一%上がれば、
一年で二千万円の利息増。
五十億円なら、
五千万円。
ばあさんは計算機を叩いた。
カチ。
カチ。
カチ。
「家賃を一万円上げれば……」
百戸なら、
月百万円。
一年で千二百万円。
でも、
足りない。
しかも、
全員が払えるわけではない。
若者は出ていく。
高齢者は払えない。
空室が増える。
空室が増えると、
収入が減る。
収入が減ると、
銀行が厳しくなる。
銀行が厳しくなると、
修繕費が借りにくい。
修繕できないと、
もっと人が出ていく。
これが、
借家地獄だった。
百軒ばあさんは、
百軒の家を持っていたのではない。
百個の修繕リスクを持っていた。
百個の給湯器を持っていた。
百個の水漏れを持っていた。
百個の退去立会いを持っていた。
百個の銀行説明を持っていた。
退去した若者に、
ばあさんは請求した。
クロス代。
クリーニング代。
鍵交換代。
畳表替え。
少しでも回収したかった。
でも、
若者は財布を開く前に
スマホを開いた。
AIに聞いた。
「この退去費用は妥当ですか?」
「普通に使って古くなった分は
誰の負担ですか?」
「丁寧に反論する文章を
作ってください」
数秒後、
文章が出た。
若者は怒鳴らない。
泣かない。
ただ静かに言う。
「内訳と根拠を
確認させてください」
百軒ばあさんは、
その静けさが怖かった。
昔は、
面倒だから払う若者が多かった。
でも今は違う。
写真を残す。
メールで残す。
AIに聞く。
法律を調べる。
証拠を持つ。
おじいちゃんは言った。
「土地持ちの時代から、
証拠持ちの時代になったんじゃ」
ばあさんの電話が鳴った。
「三号棟の給湯器が故障しました」
また鳴った。
「五号棟で水漏れです」
また鳴った。
「退去者から、
根拠を求めるメールが来ています」
百軒ばあさんは、
受話器を持ったまま
動けなかった。
家賃は入る。
でも、
出ていくお金の方が増えた。
土地はある。
でも、
売れば名士ではなくなる。
借家はある。
でも、
直さなければ人が逃げる。
銀行はある。
でも、
昔のようには笑ってくれない。
ばあさんは初めて分かった。
自分は、
百軒の家を持っていたのではない。
百個の古いエンジンを、
高い燃料で回していただけだった。
そして、
そのエンジンは一つも
空へ飛ばなかった。
………
■第四章
家は夢か、それとも重たいアプリか
昔、
家は人生のゴールだった。
結婚する。
家を買う。
子どもを育てる。
ローンを返す。
定年後は家が残る。
それが幸せだと
多くの人が思っていた。
でも、
ホルムズ封鎖と日銀利上げの後、
家の意味は変わった。
家は夢だ。
でも同時に、
重たいアプリでもある。
スマホのアプリは、
入れすぎると重くなる。
家も同じだ。
毎月、
住宅ローン。
毎月、
電気代。
毎年、
固定資産税。
数年ごとに、
保険料。
十年、十五年で、
外壁。
屋根。
給湯器。
エアコン。
水回り。
マンションなら、
管理費。
修繕積立金。
大規模修繕。
家は、
買ったら終わりではない。
買った瞬間から、
更新料がかかる。
しかも、
このアプリは簡単に消せない。
売れない時もある。
貸すにも修繕がいる。
直すにもお金がいる。
ひろしは、
住宅情報サイトを見ていた。
駅近。
築浅。
南向き。
写真はきれい。
でも、
だんだん違うものが見えてきた。
三十五年ローン。
金利上昇。
修繕費。
固定資産税。
電気代。
災害リスク。
ひろしはサイトを閉じた。
さおりが聞いた。
「どうしたの?」
ひろしは言った。
「家を探していたつもりだったけど、
三十五年分の不安を
見ていた気がする」
おじいちゃんはうなずいた。
「家は夢じゃ。
でも、
夢にも金利と電気代が
つく時代になったんじゃ」
イーロンなら、
こう言うかもしれない。
「直せないハードウェアは、
資産ではなく負債だ」
家を持つことが悪いわけではない。
ただ、
持てば勝ちの時代は終わった。
直せるか。
払えるか。
動けるか。
そこまで考える時代になった。
………
■第五章
若者は電池残量で人生を見る
イーロンにとって、
電池残量は命だ。
車も、
ロケットも、
スマホも、
AIも、
電池が切れたら動かない。
若者も、
同じように考え始めた。
自分の電池残量は
あと何%か。
給料。
睡眠。
心。
時間。
人間関係。
貯金。
体力。
全部が電池だ。
ひろしは、
やさしい男だった。
職場で無理をした。
空気を読んだ。
断れなかった。
きつく言われても、
笑って耐えた。
でも、
心の電池が切れた。
会社を休んだ。
それでも世間は言う。
「早く戻りなさい」
「次を探しなさい」
「空白期間はよくないよ」
でも、
電池ゼロのスマホに
「頑張れ」と言っても
動かない。
まず充電がいる。
さおりは働いていた。
年収六百万円。
昔なら、
かなり立派だった。
でも東京では、
家賃、
税金、
社会保険料、
食費、
電気代、
夫の回復、
将来不安で、
どんどん電池が減る。
さらに、
電気代が上がった。
エアコン。
冷蔵庫。
洗濯機。
パソコン。
スマホ充電。
全部が生活を削る。
さおりは言った。
「私の電池も、
もう二〇%くらいかも」
ひろしは苦笑いした。
「僕は省電力モードだよ」
おじいちゃんは言った。
「昔は根性で乗り切れと
言われた。
でも今は違う。
電池切れの人間に
根性を入れても、
発火するだけじゃ」
イーロンなら、
こう言うだろう。
「人間もシステムだ。
充電の設計なしに
長く動かせば壊れる」
若者は怠けているのではない。
自分の電池残量を
真剣に見始めただけだった。
………
■第六章
AIを使う人、AIに使われる人
AIは仕事を奪う。
そう言われる。
でも、
それだけではない。
AIを使う人は、
仕事を広げる。
AIに使われる人は、
仕事を奪われる。
差を決めるのは、
学歴だけではない。
いい質問ができるかだ。
悪い質問。
「これ要約して」
いい質問。
「この契約書で、
私に不利なところを
三つ教えて。
小学生にも分かる言葉で
説明して。
相手に丁寧に質問する
文章も作って」
AIは、
質問の仕方で変わる。
おじいちゃんは言った。
「AIは鏡じゃ。
考える人には強い味方になる。
考えない人には、
それっぽい
答えを返すだけじゃ」
ひろしは、
AIで職務経歴書を書き直した。
AIが文章を整えた。
でも、
中身を出したのは
ひろし自身だった。
さおりは、
AI翻訳を敵にしなかった。
下訳はAI。
言葉の温度は人間。
相手の心に刺さる表現も人間。
ただし、
AIにも電気がいる。
だから、
使い方が大事だ。
何でも何度も聞くのではなく、
一回の質問を濃くする。
簡単なことは軽いAIで済ませる。
本当に大事な時に、
強いAIを使う。
ひろしは言った。
「AIって、
電気を食うけど、
うまく使えば
時間とお金を
助けてくれるんだね」
おじいちゃんはうなずいた。
「包丁と同じじゃ。
料理にも使える。
指も切れる。
使い方じゃ」
AIに命令できる人。
AIの答えをそのまま信じる人。
前者は操縦士。
後者は乗客。
その差が、
これから大きくなる。
………
■第七章
会社はロケットか、古い倉庫か
会社にも二種類ある。
ロケットのような会社。
古い倉庫のような会社。
ロケットの会社は、
未来へ飛ぼうとする。
AIを使う。
若者の声を聞く。
電気代を見る。
物流の弱点を見る。
失敗しても直す。
古い倉庫の会社は、
昔のままだ。
紙が多い。
会議が長い。
ハンコが多い。
AIを禁止する。
若者に我慢を求める。
電気代を見ていない。
「昔からこうだから」
と言う。
ひろしは、
面接で質問した。
「AIはどう使っていますか?」
「電気代や物流費の上昇に
どう対応していますか?」
「紙の仕事は
どれくらい残っていますか?」
面接官は少し驚いた。
昔なら、
応募者がそんなことを聞くのは
生意気だった。
でも、
ひろしはもう
会社に選ばれるだけの
人間ではない。
自分の電池を預ける会社を
選ぶ側でもある。
おじいちゃんは言った。
「これからは、
会社に入るんじゃない。
どのロケットに乗るかを
選ぶんじゃ」
古い倉庫に入れば、
自分も古くなる。
ロケットに乗れば、
怖いけれど未来へ進める。
………
■第八章
安すぎる国のこわいバグ
日本人は、
安いものが好きだ。
安い弁当。
安い服。
安い家電。
安い外食。
安い配送料。
安いサービス。
でも、
安すぎるものには
こわいバグがある。
誰かが負担している。
店員さん。
配送の人。
下請け会社。
農家。
若者の給料。
未来の修繕費。
安さは、
消えたコストではない。
どこかに押しつけられたコストだ。
ホルムズ封鎖後、
押しつけは難しくなった。
軽油が高い。
電気が高い。
包材が高い。
冷蔵も高い。
人手も足りない。
金利も高い。
すると、
安売りのバグが出る。
量が減る。
質が落ちる。
店が閉まる。
営業時間が短くなる。
修理が遅れる。
人が辞める。
サービスが冷たくなる。
さおりは、
スーパーで安い商品を手に取った。
前なら喜んだ。
でも今は、
裏を見る。
原材料。
内容量。
製造元。
なぜ安いのか。
おじいちゃんは言った。
「安い国は、
ええ国に見える。
でも、
安すぎる国は、
誰かの人生を削って
できとるんじゃ」
疑うことは、
嫌な人になることではない。
生き延びるための
新しい読み書きだった。
………
■第九章
お年寄りの貯金は未来の燃料か
日本には、
お年寄りの貯金が多い。
それは安心に見える。
でも、
イーロンならこう考える。
燃料タンクに燃料があっても、
エンジンにつながっていなければ
ロケットは飛ばない。
貯金は、
未来の燃料になっているか。
若者の起業に回っているか。
子育てに回っているか。
家の断熱改修に回っているか。
中小企業のAI化に回っているか。
省エネ投資に回っているか。
それとも、
不安で凍っているだけか。
長生きする不安。
病気になる不安。
介護施設に入る不安。
相続で揉める不安。
だから使えない。
だから動かない。
だから社会に回らない。
おじいちゃんは言った。
「貯金は悪くない。
でも、
未来に回らん貯金は、
燃料ではなく重りになる」
利上げ後、
預金金利は少し上がる。
お年寄りには少し安心だ。
でも、
若者の住宅ローンは重くなる。
企業の借金も重くなる。
家賃も上がりやすくなる。
電気代も上がる。
さおりは言った。
「若者は、
いつも後回しですね」
おじいちゃんは少し黙った。
そして言った。
「だから、
待つだけではいけん。
AIを使って、
制度を調べて、
数字を読んで、
自分の出口を作るんじゃ」
………
■第十章
子どもが減る国は、
未来のお客さんを失う
イーロンは、
人口減少をとても気にする。
なぜか。
子どもが減ると、
未来のお客さんが減るからだ。
子どもが減る。
学校が減る。
若者が減る。
働く人が減る。
家を買う人が減る。
車を買う人が減る。
店に来る人が減る。
税金を払う人も減る。
介護する人も減る。
これは会社で言えば、
来年から注文が減るようなものだ。
普通の会社なら大問題だ。
でも日本は、
それを何十年も
ゆっくり見てきた。
利上げ後、
少子化はさらに重くなる。
家賃が高い。
食費が高い。
電気代が高い。
教育費が高い。
住宅ローンが怖い。
将来が読めない。
心の電池が足りない。
そんな中で、
子どもを持てと言われても
若者は困る。
おじいちゃんは言った。
「子どもが増えんのは、
若者の根性が足りんから
じゃない。
未来の値段が
高すぎるからじゃ」
ひろしとさおりは黙った。
子どもが嫌いなわけではない。
ただ、
今の生活で精一杯だった。
イーロンなら言うかもしれない。
「出生率とは、
未来を信じる気持ちの
株価だ」
その株価は、
下がっていた。
………
■第十一章
銀行は笑顔から計算機へ変わる
低金利時代、
銀行は貸したかった。
貸さなければ
もうけにくかったからだ。
だから、
不動産にも貸す。
中小企業にも貸す。
個人にも貸す。
借り換えにも応じる。
でも、
利上げ後は変わる。
銀行は、
計算機を持つ。
この会社に貸して大丈夫か。
この大家に貸して大丈夫か。
この住宅ローンは大丈夫か。
この物件は本当に価値があるか。
この事業は、
電気代が上がっても耐えられるか。
この工場は、
燃料高でも回るか。
百軒ばあさんは、
それを感じた。
昔は、
銀行員が笑顔で来た。
今は、
資料を求める。
修繕計画。
空室率。
返済できる理由。
担保の価値。
金利が上がった時の試算。
電気代が上がった時の試算。
言葉は丁寧だ。
でも、
温度は低い。
おじいちゃんは言った。
「銀行はな、
雨の日に傘を貸さんと
言われる。
でも本当は、
雨が降りそうになる前から
傘の数を数え始めるんじゃ」
イーロンなら、
銀行を発射管制室として見る。
どのロケットに燃料を入れるか。
どのロケットは危ないか。
どのロケットなら飛べるか。
利上げ後、
銀行は選別する。
未来へ飛べる会社には貸す。
古いままの会社には渋る。
AIを使えない会社には渋る。
電気代を見ていない会社には渋る。
若者も、
同じ目を持つ必要がある。
この会社は飛べるのか。
この家は持てるのか。
この借金は返せるのか。
この人生は、
金利と電気代が上がっても
耐えられるのか。
………
■第十二章
ロボットより先に
仕事の考え方が壊れる
人型ロボットが増える。
AIが進む。
工場が自動化する。
事務も、
翻訳も、
分析も、
AIが入る。
多くの人は言う。
「仕事が奪われる」
でも、
イーロンなら
こう言うかもしれない。
「先に壊れるのは仕事ではない。
仕事の考え方だ」
昔の仕事は、
こうだった。
会社に行く。
言われたことをする。
長く勤める。
上司に従う。
我慢する。
定年まで耐える。
でも、
利上げ後の日本では、
会社も余裕を失う。
ホルムズ封鎖で、
コストも上がる。
AIで減らせる仕事は減らす。
ロボットでできる作業は代える。
外注できるものは外注する。
言われたことだけをする人は
弱くなる。
考えられる人。
AIを使える人。
現場を見られる人。
お客の不安を読める人。
電気代や物流の詰まりを読める人。
そういう人が強くなる。
おじいちゃんは言った。
「ロボットに奪われるのは、
肉体労働だけじゃない。
考えん頭も奪われる」
ひろしは、
その言葉をノートに書いた。
考えん頭も奪われる。
怖い。
でも、
希望でもある。
考えればいい。
学び直せばいい。
AIを使えばいい。
経験を言葉にすればいい。
人間が消えるのではない。
人間の役割が変わるのだ。
操縦する側か。
操縦される側か。
その境目は、
スマホの中にある。
………
■第十三章
電気を食うAIと、
電気代に泣く家庭
AIはすごい。
文章を書く。
絵を作る。
翻訳する。
契約書を読む。
株も分析する。
でも、
二〇二六年の日本では、
AIはただの便利道具ではなかった。
電気を食う怪物でもあった。
AIを動かすには、
大きなデータセンターがいる。
データセンターとは、
AIの巨大な脳みそを
冷やしながら動かす建物だ。
その建物は、
電気を食う。
水も使う。
冷やす機械もいる。
送電線もいる。
非常用電源もいる。
ホルムズ海峡は
まだ閉じたまま。
石油は高い。
LNGも高い。
火力発電の燃料も高い。
だから、
家庭の電気代も上がる。
会社の電気代も上がる。
そこへAIブーム。
みんなAIを使う。
会社も使う。
学校も使う。
役所も使う。
でもAIは、
電気なしでは動かない。
イーロンなら、
冷たく言うだろう。
「知能は電気でできている。
電気が足りない時代に
AIを無駄使いするのは、
ロケットの燃料を
宇宙で捨てるようなものだ」
さおりは夜、
スマホを見てため息をついた。
電気代の通知が来た。
「また上がってる……」
エアコンを我慢する。
照明をLEDにする。
コンセントを抜く。
それでも請求書は来る。
さおりは言った。
「AIは使いたい。
でも電気代が怖い」
ひろしが言った。
「使い方を変えれば、
逆に電気代を減らせるかも」
おじいちゃんは笑った。
「その通りじゃ。
AIを使うな、ではない。
ムダに使うな、じゃ」
コツは三つ。
一つ目。
軽いAIで済むことは、
軽いAIで済ませる。
二つ目。
一回の質問を濃くする。
悪い聞き方。
「これまとめて」
いい聞き方。
「この住宅ローンで、
金利が上がった時に
困る点を三つ教えて。
小学生にも分かる言葉で
説明して。
銀行に丁寧に聞く文章も作って」
三つ目。
AIに電気代を下げる方法を聞く。
「今月の電気代を減らすには、
何から始めればいい?」
「エアコンの設定はどうする?」
「電力プランを比べて」
「洗濯はいつ回すといい?」
さおりは試した。
AIに聞いた。
「電気代が高い今、
在宅翻訳者として
単価を上げる提案資料を作って」
三十分後、
資料ができた。
さおりは、
クライアントに送った。
次の週、
単価が一五%上がった。
AIは電気を食う。
でも、
使い方を間違えなければ、
電気代を稼ぐ道具にもなる。
おじいちゃんは言った。
「AIに使われる人間は、
電気代に泣く。
AIを使う人間は、
少ない電気で
未来を開く」
AIは怪物だ。
でも、
操縦できれば味方になる。
電気代に泣くか。
AIを武器に飛ぶか。
その分かれ道は、
質問の仕方にある。
………
■第十四章
火星より難しい、日本の作り直し
火星へ行くのは難しい。
ロケットを作る。
燃料を積む。
軌道を計算する。
失敗すれば死ぬ。
でも、
イーロンから見れば、
日本を作り直す方が
もっと難しいかもしれない。
ロケットは、
部品を交換できる。
でも社会は、
人間の気持ちでできている。
古い制度を変えると、
困る人がいる。
赤字路線を減らすと、
生活できない人がいる。
病院を統合すると、
不安になる人がいる。
不動産を整理すると、
百軒ばあさんのような人が困る。
中小企業を減らすと、
雇用が消える。
だから日本は、
変えなかった。
変えるより、
先送りした。
低金利が、
その先送りを支えた。
安いエネルギーが、
その先送りを隠した。
でも今は違う。
先送りにも金利がつく。
先送りにも燃料代がつく。
古い橋。
古い水道管。
古い団地。
古い病院。
古い会社。
古い考え方。
すべてに更新費用が来る。
おじいちゃんは言った。
「火星へ行くより難しいのはな、
昨日までの普通を
自分で変えることじゃ」
ひろしは聞いた。
「日本は変われますか?」
おじいちゃんは答えた。
「変わるしかない。
でも上から一気には変わらん。
家計から変わる。
会社選びから変わる。
AIの使い方から変わる。
住む場所から変わる。
電気の使い方から変わる」
日本の作り直しは、
国会だけで起きるのではない。
スマホの使い方。
家計の見直し。
仕事の選び方。
契約書の読み方。
固定費の削り方。
電気の使い方。
そこから始まる。
地味だ。
でも、
地味なところからしか
生活は飛び直せない。
………
■第十五章
飛べる人は、軽くなれる人
では、
この時代に飛べる人は誰か。
お金持ちか。
大企業の人か。
高学歴の人か。
もちろん、
それも強い。
でも、
それだけでは足りない。
飛べる人は、
軽くなれる人だ。
安いだけで買わない人。
金利と電気代を見る人。
AIを遊びではなく、
生活防衛に使う人。
家を夢だけで買わない人。
会社名だけで会社を選ばない人。
固定費を削れる人。
自分の電池残量を見る人。
古い常識を疑える人。
ひろしは、
新しい仕事を探した。
ただの再就職ではない。
AIを使って、
生活防衛を助ける仕事。
契約書で困る若者を
助ける仕事。
高齢者の手続きを
分かりやすくする仕事。
電気代に苦しむ家庭の
固定費を見直す仕事。
さおりは、
翻訳だけではなく、
世界のニュースを
生活の言葉に変える仕事を
始めようとした。
金利を、
家賃の言葉に変える。
ホルムズ封鎖を、
電気代の言葉に変える。
AIを、
仕事の言葉に変える。
エネルギーを、
台所の言葉に変える。
おじいちゃんは言った。
「未来はな、
当てるもんじゃない。
使える言葉に
変えるもんじゃ」
イーロンなら、
最後にこう言うかもしれない。
「日本は終わっていない。
でも、
古い設計のままでは飛べない。
ロケットを軽くしろ。
OSを更新しろ。
AIを操縦席に置け。
若者を乗客ではなく、
操縦士にしろ」
ひろしはスマホを開いた。
さおりは家計簿とAIを開いた。
おじいちゃんは、
古い証券ノートを開いた。
三人は、
同じ言葉を見つめた。
飛ぶために、
まず軽くなれ。
日本株式会社号の再起動は、
そこから始まった。
………
❥Z世代のあなたへ
君たちの時代は、
親の時代より難しい。
家賃は高い。
電気代も高い。
食費も高い。
奨学金もある。
スマホ代もある。
将来不安もある。
でも、
君たちが弱いわけではない。
ルールが変わっただけだ。
親の時代は、
我慢すれば報われた。
いい会社に入れば安心だった。
家を買えば勝ちだった。
でも、
その時代はもう違う。
これからは、
賢く操縦しないといけない。
財布を開く前に、
スマホを開け。
AIに聞け。
数字を見ろ。
契約書を読め。
自分の電池残量を確認しろ。
安いものに飛びつく前に、
なぜ安いか考えろ。
会社に選ばれる前に、
会社を選べ。
家を買う前に、
金利と電気代と修繕費を見ろ。
君たちは乗客ではない。
これからの日本株式会社号の
操縦士になれる世代だ。
古い荷物を捨てろ。
固定費を削れ。
無駄な我慢を捨てろ。
AIを使え。
数字を読め。
軽くなれ。
飛びたいなら、
まず軽くなれ。
………
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
ワトソン
「ホームズ、
今回の事件は大変でしたなあ。
ホルムズ海峡は閉じる。
日銀は利上げする。
電気代は上がる。
AIまで電気を食う。
わしの頭も停電しそうですわ」
ホームズ
「君の頭は前から
省エネモードだ」
ワトソン
「いきなり失礼やな!
まだ残量二割ありますよ!」
ホームズ
「残量二割なら、
不要なアプリを閉じたまえ」
ワトソン
「不要なアプリ?」
ホームズ
「見栄。
ついで買い。
安物買い。
古い常識。
なんとかなるという幻想だ」
ワトソン
「全部わしのホーム画面に
並んどる!」
ホームズ
「今回の本質はそこだ。
日本株式会社は、
古いOSで動いてきた」
ワトソン
「低金利OS。
安い石油OS。
我慢すれば報われるOSですな」
ホームズ
「だが、
日銀利上げで重力が増した。
ホルムズ封鎖で
燃料も高くなった」
ワトソン
「ロケットなら最悪ですやん」
ホームズ
「だから軽くするしかない」
ワトソン
「百軒ばあさんも
重すぎましたなあ」
ホームズ
「借家百軒は、
低金利時代には資産に見えた。
だが今は、
百個の修繕リスクだ」
ワトソン
「給湯器百個。
水漏れ百個。
退去立会い百個。
銀行説明百個。
もう名士じゃなくて、
請求書の百人組手ですやん」
ホームズ
「しかも若者はAIを持っている。
退去費用も調べる。
根拠を求める。
記録を残す」
ワトソン
「土地持ちの時代から、
証拠持ちの時代へ」
ホームズ
「その通りだ」
ワトソン
「でもAIも
電気を食うんでしょう?」
ホームズ
「そうだ。
AIは知能の電気製品だ。
ムダに使えば電気代に泣く。
賢く使えば生活を軽くする」
ワトソン
「つまり、
AIにも節電モードが
いるんですな」
ホームズ
「一回の質問を濃くすることだ。
軽いAIで済むことは
軽く済ませる。
AIに電気代を下げる方法も聞く」
ワトソン
「わしも聞きます。
ホームズに怒られない方法を
教えてください、って」
ホームズ
「答えは簡単だ。
無駄遣いをやめたまえ」
ワトソン
「AIいらんかった!」
ホームズ
「大切なのは、
財布を開く前に
スマホを開くことだ」
ワトソン
「Z世代は乗客じゃない。
操縦士なんですな」
ホームズ
「そうだ。
ただし操縦士は計器を読む」
ワトソン
「計器とは?」
ホームズ
「金利。
電気代。
家賃。
給料。
睡眠。
心の残量。
そしてAIの答えを疑う力だ」
ワトソン
「難しいけど、
逃げられませんな」
ホームズ
「逃げる必要はない。
軽くなればいい」
ワトソン
「何を軽くするんです?」
ホームズ
「固定費。
借金。
見栄。
古い思い込み。
無駄な我慢。
安売り信仰。
未来を他人任せにする癖だ」
ワトソン
「わしはまず、
コンビニのついで買いを
やめます」
ホームズ
「小さいが正しい一歩だ」
ワトソン
「飛びたいなら?」
ホームズ
「まず軽くなれ」
ワトソン
「そして?」
ホームズ
「操縦席に座れ」
ワトソン
「ほな、行きましょうか」
ホームズ
「ああ。
日本株式会社号、
再起動開始だ」
おしまい




